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ことば談話室

あまのじゃく~悲しい物語~

 しとしと雨が降る梅雨が続いています。雨といえば、映画「雨に唄えば」に、主演のジーン・ケリーが雨の中を歌い踊る有名なシーンがあります。そこで、ケリーが傘の先をつま先でぽんとけると、傘がくるっと空中で回転して、また手に戻ってきます。小さい頃にこのシーンを見た私は、「傘を空中で回転させる」という器用さにすっかり魅了されました。

 新しい傘を買うと気持ちがうきうきして「早く使ってみたい。できれば、くるっと回転させてみたい」と思い、普段は好きではない雨を心待ちにしました。ところが、待っていると雨は降りません。反対に、降ってほしくない時に雨が降ったりします。「天気って、なんでこう『あまのじゃく』なんだろう?」とよく考えたものです。では、あまのじゃくは文字通り「天」に関係することばなのでしょうか。

 ◇1人の女性?

 あまのじゃくの由来は、一説によると、1人の女性にさかのぼります。古事記と日本書紀に登場する天探女(あめのさぐめ)という神です。 

 さぐめは文字通り「探る女」という意味で、人の心に探りを入れる呪術師のような存在として描かれています。本来、天探女は悪者ではなかったようです。しかし、人の心を読み取っていたずらを仕掛けるようになり、あの天照大神も迷惑を被ることになったため、天の邪魔をする鬼、「天邪鬼(あまのじゃく)」になったといわれます。

 あまのじゃくは、「人の心を読んでいたずらをする悪い鬼」とされたことから転じて、「人の言うことやすることに逆らうひねくれ者」という意味が広く知られるようになりました。人の心を読み、あえて逆らうことで、いたずらをしているわけです。

 ◇長野県下條村へ

 私の場合は、「天」のいたずらによって雨が降らなかったようですが、雨を降らせて人々を救ったあまのじゃくもいます。その昔話が伝わる長野県下條村に出かけました。

 下條村は、長野県南部の飯田市から車で約30分、人口4100人ほどの村です。この村に、古くから伝わっているのが「あまのじゃくの雨乞い」の伝説です。

 下條村立図書館の近藤明子さんは、「村には他にも伝説がたくさんありますが、あまのじゃくは有名。子どもにもイメージがわきやすく、話が面白いからではないでしょうか」と話しています。村の人ならだいたい知っている伝説で、地元の歴史愛好家の集まりである下條史学会が編集した民話集にも入っているそうです。それはこんな物語です。

 ◇悲しい物語

 昔々、下條の小松原(こまつばら)という所に、天竜という子どもがいました。天竜は、両親の言うこと、やることとは反対のことばかりをする、不思議な子どもでした。それでも両親は天竜をかわいがり、大切に育てました。しかし、ある年に、村では日照りが続き、農作物が育たなくなってしまいました。そこで祈祷師(きとうし)が、「小松原に、天竜という子どもがいる。その子を、村を流れる阿知川に連れて行き、『雨よ降れ』と天に向かって3度唱えさせれば、雨が降るだろう」と言いました。(「ふるさとの昔話 飯田・下伊那編」から)

 通常の雨乞いならば、皆で「雨よ降れ」と祈ればいいわけですが、天竜は「反対のことばかりする」子どもです。そこで祈祷師は、「天竜が素直に従わなかったら、『雨降らねえ。雨降らねえぞう』とささやいてみよ」と話します。

 阿知川に連れて行かれた天竜は、口を開こうとしません。そこでその場の人々は、「雨降らねえ、雨降らねえ」とささやきました。すると天竜は、意に反して、「雨降れ! 雨降れ!」と、天に向かって叫んでしまいました。

 すさまじい雨が降って、村は潤いましたが、天竜はその雨で阿知川に流されてしまいました。息子を亡くした両親は、せめてもの供養にと天竜に似せた像を作り、阿知川にまつったということです。