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ことば談話室

「雨模様」=雨降りのこと?

佐藤 司

 雨のシーズンもようやく終わりましたが、雨の様子を表す言葉で「雨模様(あまもよう)」とは、どんな空模様をいうのでしょうか?

 「いまにも雨が降りそうなあやしい空」なのか、それとも「すでに雨が降っているあいにくの天気」を指すのか、はたまた「雨が降ったりやんだりしている不安定な状態」なのか、本当はどれが正しいかお分かりですか。

 答えは「雨が降りそうな空の様子」。これが本来の意味なのです。広辞苑は、その意味だけしか載せていません。ところが、「雨が降っている」や「降ったりやんだりする」場合でも使う人が増えてきていると言われています。

◇天気予報には使わない◇

拡大これは雨模様?

 もし天気予報で「明日は雨模様でしょう」と聞いたら、その日は傘を持ってお出掛けになりますか。

 気象庁は、1966年に作成した用語集「予報作業指針」(初版)で、「雨模様」は人によって意味がいろいろに受け取られるため使わない、としています。現在も「雨や曇り」「雨または曇り」と表現しているそうです。

 NHKでも69年、気象庁と同様に天気予報などの気象情報には使わないと「NHK放送用語ハンドブック」に載せたそうですが、地域や時間の区分によって雨が降っていたり降らなかったりする状態をまとめて言い表すのに重宝な言葉のため、実際にはその後も引き続き使っていたそうです。しかし86年の放送用語委員会で「あいまいな表現なので天気予報などには用いない」と改めて決めました。

◇辞書にも新しい用法◇

 現在、天気の様子を伝える中継放送などでは「雨模様」を使わずに、「低い雲が垂れ込めて薄暗くなっている」「小粒の雨が時折、吹き付けてくるようになった」――などと伝えるそうです。気象情報以外の放送では、雨や雲の様子など具体的な表現を心掛けさえすれば使ってもよいとしています。これは新しい用法を認める辞書が出てきたこととも関係がありそうです。

 「雨が降(ってい)ること」をいち早く載せたのが三省堂国語辞典。74年の第2版からで、それも1番目の意味として登場させています。当時、中心となって辞書を編集した見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)さんは「時代に応じた新しい意味や用法を見つけ出すことを心がけた」としています。見坊さんが亡くなった後に出た最新の第6版(2008年刊)では、1番目には「雨の降りそうなようす」と本来の意味を優先させ、2番目に新たに「小雨が降ったりやんだりする天候」とし、「雨が降(ってい)ること」は消えてしまいました。他の辞書では、本来の意味を取り上げた後に、「最近の言い方では」と断った上で、「小雨が降ったりやんだりすること」と載せているものもあります。

◇「雨催い」取り込んだ?◇

 本来の意味は、どのように解釈するとよいのでしょうか。

 武庫川女子大言語文化研究所長の佐竹秀雄さんによると、「模様」の意味には「それらしい様子や雰囲気」があります。かなり確実な推定を込めて雨に移り変わろうとするのが「雨模様」です。似た言葉の「あまもよい」を取り込んだという説もあるそうです。漢字で「雨催い」と書き、「催い」は「準備や兆し」のことを指すので「雨が降る気配」の意味です。二つの言葉として別々に存在してきたものが、ある時点で発音しやすい「雨模様」に取り込まれて日常的な用語として使われ、一方の「雨催い」は現在、俳句などで限定的に使われているということです。

◇「降ったりやんだり」が半数近くに◇

 一般の人々の間では、どのような意味で受け取られているのでしょうか。文化庁が2004年に全国調査した「国語に関する世論調査」で「雨模様」の意味を尋ねたところ、「小雨が降ったりやんだりしている様子」を選んだ人(45.2%)は、本来の意味である「雨が降りそうな様子」を選んだ人(38.0%)を上回りました。また「両方」と回答した人(9.4%)もいます。

 これについて佐竹さんは、理由をこう推測しています。「模様」は「モザイク・市松・まだら」模様などと言うように、図柄や色の組み合わせをまず思い浮かべます。このような視覚的なイメージから「雨模様」も雨そのものの有り様や、降ったりやんだりと交互に状況が繰り返す様子を想像しやすいのではないか、と。

 また地域別の回答も報告されています。「小雨が降ったりやんだりしている」の割合が最も高かったのは北陸(59.0%)でした。「雨天が多く雨を身近に感じる地域性では」と佐竹さん。金沢などでは「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるほど雨が多い地域であることも何か関係がありそうです。

 演歌の歌詞の中にも、「雨もよう」の文句をよく見かけます。「北の新地はおもいでばかり 雨もよう 夢もぬれます」。都はるみのヒット曲「大阪しぐれ」(作詞・吉岡治)の一節です。「雨もよう」は、ネオンの明かりをぼんやりと浮かび上がらせた街のたたずまいが、湿った夜のムードを醸し出しています。それが「そぼ降る雨ならではの雰囲気」によるものなのか、それとも「今にも雨が落ちてきそうな雰囲気」によるものなのか――歌に込められた情景をいろいろと想像してみるのも楽しいかもしれません。

(佐藤 司)