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ことば談話室

パワースポット パワーの源を考える

松本 理恵子

 ちょっと遅い夏休みをとって旅行でもしたいなと旅行情報誌を見比べていると、ほとんどの本に出てきたのが「パワースポット」という言葉。「パワースポットを巡って恋愛祈願」「幸せになれる!パワースポット」……。去年くらいからよく聞く気がしましたが、占い好きの女性たちが騒いでいるだけかな~と思っていました。でも街中の会話で耳にすることもしばしば。どうやら一部の人のブームの域を出て、私たちの生活に根付きつつある様子。

 訪ねると元気になれる場所。そんな風に「パワースポット」のことを理解していましたが、なぜパワースポットがもてはやされているのでしょうか。

◇人気は衰え知らず

清正井拡大ある日曜日の明治神宮御苑入り口。整理券の配布は終わっていた
 「パワースポット」が、朝日新聞の紙面で大きく取り上げられたのは1月9日(東京本社夕刊)の「井戸に願いを、大行列 明治神宮、2時間待ち」という記事。明治神宮にある井戸「清正井(きよまさのいど)」が「写真を待ち受け画面にすると願いがかなう」と脚光を浴び、行列ができていることを伝えています。記事から9カ月。今はどんなことになっているのか。明治神宮に行ってみました。

 日曜日の午後2時半すぎ。もっと早く来るつもりが、出遅れたかな……と半ばあきらめモードで明治神宮御苑の入り口に着くと、そこには10メートルほどの列と「本日の『清正井』拝観整理券の配布は終了しました」の看板が。やっぱり……。

 並んでいるのは、朝9時から配られる整理券を持った人たちでした。係の人によると、土日は1日1千枚くらい配るとか。整理券で指定された時間に戻ってきて、井戸に「お参り」するまで大体1時間待ちといいます。平日はもう少し人が少ないそうですが、まだ人気は衰えていない様子。願いをかなえるためには、休みだから昼過ぎまでゆっくり寝よう……という怠けた心構えでいてはだめなようです。

 神宮御苑は都会の中の日本庭園。木々の間を歩いているとリラックスできることは確かです。清正井のパワーはわかりませんでしたが、庭園を散策し、心穏やかになって帰ってきました。

◇神社やお寺に始まって

 「パワースポット」というとまず思い浮かぶのが、明治神宮のほかにも伊勢神宮や出雲大社などの神社やお寺。どこもテレビや雑誌で紹介される度に訪れる人が増えているそう。昔から、神秘的なエネルギーが満ちた場所に人々は祈りをささげ、そういった場所に神社や寺は作られたのでそこにはパワーが宿っている、ということのようです。そして富士山、屋久島、高千穂などの自然系。海外でも、ペルーのマチュピチュの遺跡群や様々な先住民の聖地など「パワースポット」とされる場所はたくさんあります。

 聖地とは「神聖な土地。神・仏・聖人などに関係ある土地」のこと。動物、植物、さまざまな自然現象に霊的なものを感じることを精霊崇拝(アニミズム)といい、多くの民族の宗教の原初のかたちとされます。「パワースポット(power spot)」という言葉自体は最近の日本で使われ出したようですが、考え方は普遍的な、古くからのものでしょう。

 歴史や自然に関係するもの以外にも、六本木ヒルズや東京タワーといった近代的な建築物も、風水の考え方から「パワースポット」として紹介されています。求められる効果も、いい恋愛をしたい、収入をアップさせたい、チャンスをつかみたい、ベストの決断をしたい、と様々。現代の「パワースポット」の定義は、だいぶゆるいようです。

 自分は無宗教だと言う人が多いとされる日本人ですが、山の神をまつる山岳信仰や祖先をまつる習慣など、人知を超えるものに対する畏敬の念は多くの人が持っているはず。そういったベースがあるからこそ、「パワースポット」という考え方が比較的すんなりと受け入れられ、ここまでのブームとなったのかもしれません。

◇辞書にはなく、数年で一気に

 さて、手元の辞書で「パワースポット」を調べてみると、やはり見あたりません。「新語・流行語大賞」の選定でも知られる、新語の情報事典「現代用語の基礎知識」(自由国民社)を見ると、2009年版にはありませんが、10年版には掲載されています。「パワースポット」はやはり昨年あたりから世間で広く使われるようになった、といっても良さそうです。

 朝日新聞の記事データベースで「パワースポット」を検索してみました。全部で86件。収録されているのは1984年8月以降の記事ですが、最古の例は93年。07年以前が計8件なのに比べ、08、09年はそれぞれ6件と9件、10年はぐっと増えて9月末までで58件。「パワースポット」がここ数年で一気に広まったことを裏付けます。

◇「スピリチュアル」より大衆向き?

 「パワースポット」ブームの前から聖地巡礼や風水、占い、瞑想(めいそう)などのスピリチュアルなものが関心を集めていたといわれます。「スピリチュアル」とは「精神的な、超自然的な、霊魂の」などの意味。「パワースポット」とはまさしく「スピリチュアルスポット」であると思います。でも「スピリチュアル」「霊的」といわれると、ちょっとハードルが高く抵抗感を持つ人も多い気が。一方、「パワー」には文字通り力強さや能力といった、ポジティブなイメージがありませんか。「パワースポット」という言い方こそ、私たちが気楽に「パワスポブーム」を楽しむ現状に一役買っているのかも……と思ったのですが、いかがでしょうか。

 パワースポットに行って、「願いをかなえて下さい」と貪欲(どんよく)に望むのではダメで、謙虚な気持ちで自分自身を見つめ直し、悪い結果でも受け入れることが重要だそうです。幸せを呼ぶのは結局自分自身の努力と、もっともなことを言われているような気がします。

 パワースポットの効能は、自分の人生を変化させたい時に一歩を踏み出す後押しをしてくれる、ということなのでしょう。

◇いざ、パワスポへ、そして・・・

 不況による失業や就職難、老後への不安など、大半の人が何かとストレスを抱えている時代。それに加えて、戦国武将ブームなどで歴史的なものへの興味が高まっています。癒やしを求め、何かにすがりたい気持ちに応えてくれる。趣味としても楽しめる。「パワースポット」は確かに、みんなの心をつかむ要素を備えているといえそうです。

 パワースポットを巡れば、各地のおいしいものを楽しめるし、一石二鳥。マナーを守りつつ、ブームを楽しむ心の余裕を持てば幸せもやってきてくれるかもしれません。今度の旅行は火の国熊本の阿蘇山でパワーをもらって、それから馬肉とラーメンだ!

(松本理恵子)