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ことば談話室

料理だけじゃない、鉄板の利用法

 B級グルメがブームです。すっかり全国区になった富士宮やきそば(静岡)や津山ホルモンうどん(岡山)などの他にも、地域おこしのきっかけにと次々にB級グルメが売り出されています。先日、新聞で読んで気になったのが愛媛は今治の焼き鳥。何でも、串に刺して炭火で焼くのではなく、鉄板の上で焼くのだとか。そう、安くておいしくて、手軽で、体も心も温まる、そんな庶民の味に欠かせないのが、鉄板です。ということで今回は鉄板を取り上げます。ただし、焼きそばやお好み焼きを焼く「鉄の板」の話ではありません。

拡大お好み焼きを焼く鉄板。本文とはあまり関係ありません

◇恋愛にもスキンケアにも

 鉄板アプリに鉄板信者、鉄板コーディネートや鉄板トレンド、彼への鉄板アプローチ……

 最近、雑誌や広告で、こんな見出しを見かけることはありませんか。先月、朝日新聞に載った女性ファッション誌の広告にも「冬の肌悩み解消! 鉄板“集中スキンケア”」というのがありました。どうも、「鉄の板」でも「鉄板焼き」でもない「鉄板」が、ちまたに出回っているようなのです。

 国語辞典をひいても、多くは「鉄の板」「鉄を延べた板」としか出ていません。そこで、インターネット上を探してみると、2千あまりの俗語・新語を集めた「日本語俗語辞書」に、こんな説明がありました。

◇ギャンブル発、お笑い経由

 「鉄板とは、『間違いない、確実な』という意味の言葉。鉄板は『硬い』ことから、『堅い』にかけ、ギャンブルや芸人の世界で『間違いない、確実な』といった意味で使われる。特にお笑いの世界では確実にうけるネタ・ギャグを『鉄板ギャグ』という。また、これを略して鉄板ともいう。※鉄板はギャンブラー(主に競輪、競馬、ボート)の間で昭和時代には既に使われていた言葉ですが、お笑い芸人を通じて一般にも広く浸透した言葉ということで、芸人から広まった年、2006年の俗語と設定しています」

 なるほど。雑誌などで見かける「鉄板」は、「間違いない」の意味で使われていたのですね。

 しかし、ネット上の情報をうのみにするのはいけません。早速ウラをとります。まずは、時代を追って、ギャンブル用語としての「鉄板」から。

 競馬に関する著作も多い作家の乗峯栄一さんに、いつごろから、どんな風に使われていたのか聞いてみました。

 「競馬予想用語としては、少なくとも30年はたっています。あるいは、競馬が始まった直後にはすでに使われていたんじゃないでしょうか。人気順で決着がつきそうなレースを『銀行レース』と言ったりしますが、競馬ファンの間では同じように『鉄板レース』とも言います」

 さらに、鉄板と思われていたレースに大番狂わせがあった場合には、「鉄板だと思っていたら、プレスで大きな穴が開いていた。どこの職人や、鉄板に穴開けたのは」などともよく言う、と教えて下さいました。

 競馬が生まれた明治の頃からあったかどうかは検証不能ですが、昭和後期には確かにあったようです。では、お笑い用語になったのは? 「めちゃ×2イケてるッ!」など数多くのバラエティー番組を手がけ、「この業界にいるほとんどの芸人さんと出会ってきた」という放送作家の元祖爆笑王さんが証言して下さいました。

 「すべらないネタ=鉄板を使い出したのは、7、8年くらい前、おそらくダウンタウンの松本人志さんあたりだったんじゃないかと思います。放送でというより、番組の企画会議の中でよく使っていました。(めちゃイケの出演者の)岡村隆史さんや中居(正広)クンも言っていましたよ」

 この時点ではまだ、楽屋言葉のレベルだったようです。さらに、放送で前面に出たのがいつごろ、誰によってなのかを探る中で、「千原ジュニアさんとかがテレビで言っていた気がする」との情報を得ました。調べてみると、千原さんが出演していたテレビ東京のバラエティー番組で、お笑い芸人の「鉄板ネタ」の鉄板度合いを検証するという番組があったことが分かりました。05年から06年にかけて、すばりタイトルが「やりすぎthe鉄板ショー」。同局にも電話をしてみます。

 「一般に広めたのは、この番組ですか?」

 「そうですね~、05年ごろから(出演者の)千原さんや今田耕司さん、東野幸治さんらが番組を問わず使っていたと思います。ですから、『ウチの番組発』とまでは言えません。が、若い人たちに広まる一端を担ったことは、間違いないと思います」(宣伝部)

 05~06年といえば、ゴールデンタイムにお笑いのネタ番組がひしめいた時期でした。

 とはいえ、まだまだ誰もが知っている言葉とまでは言えない気がします。

 元祖爆笑王さんは、ちょうど1年前の09年末にシチュエーション別の「ハズさない」受けネタを集めた「お笑い芸人直伝!鉄板フレーズ100選」を著しました。出版した時点では、「みんなに意味が分かってもらえるか、半々といったところ」だったといいます。

 「それが、今年に入ってNHKの連続小説が“てっぱん”だったりして、あれは純粋にお好み焼きの鉄板ですが、ともかく、(新しい用法が)だいぶ広まった感じがあります」

 以前、このコラムの「ピン芸人」を取り上げた回で、ダウンタウンが登場して以降、お笑い芸人がカッコイイ存在になった→トーク番組が増えて楽屋言葉が出やすくなった→視聴者がまねして普通に使うようになった――という分析がありました。「鉄板」も、このパターン通りに普及し、定着した言葉といえそうです。

◇字数の少なさ、見出しに重宝

拡大本や雑誌の見出しには「鉄板」の文字が躍る

 表紙に「鉄板」が度々登場する男性ファッション誌に理由を尋ねると、「端的に内容を表せて、人目を引きやすいから」という答えでした。限られた文字数にいかに記事のエッセンスを詰め、読者の目を引けるかが見出しの勝負どころ。字数をとらずにすみ、トレンド感もある「鉄板」は、編集者的には使いやすい言葉なのでしょう。

 先月の新聞紙上で歌人の俵万智さんが「テレビやネット、政治家まで、あらゆるところで短くて強い言葉があふれている」と、ワンフレーズで引きつける風潮に疑問を投げかけていました。まさに、短くて強い「鉄板」は、そんな風潮にも合致した、といえるかもしれません。

 

 鉄板のように四角四面、ではいけませんが、私も穴のない「鉄板校閲」を目指したいと思います。

(栗田優美)

※年末年始は休ませていただきますが、元日に正月特集として「漢字んな話 特別版」を掲載します。ご期待下さい。次の通常更新は1月13日の予定です。