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ことば談話室

漢字んな話スペシャル3 セツモンってなに?

前田 安正

◇本紙連載中の「漢字んな話」。その主人公お咲ちゃんとご隠居が「説文解字(せつもんかいじ)」について考えます。

   ご隠居さま、秦の始皇帝が漢字の書体を統一して作らせた「小篆(しょうてん)」を基に「説文解字」って字書が作られたってとこまでは分かったけど、「字書」と「辞書」って違うの?

ご隠居 字書っていうのは、文字通り漢字だけを一定の順序で並べて、その意義、読み方、用法なんかを解説したものなんだ。

日拡大「日」。左から甲骨、金文、説文解字の文字

   じゃ、辞書は?

ご隠居 これは漢字の説明だけじゃなくて、漢字が作る熟語や言葉を整理して、その意味や読み方をしるしたものなんだよ。

   ってことは、字書は漢字の説明で、辞書は言葉の説明ってことなのかな。

ご隠居 まあ、大体ね。説文解字ってのは、一つ一つの漢字をある原則にしたがって分類して解説したものなんだな。

◇2千年前、9千字余りを分類

   ね、そもそも説文解字って誰が作ったの?

ご隠居 これは中国の後漢時代、西暦100年に許慎(きょしん)って人が作ったと言われてるんだ。全部で15巻もある立派なものなんだよ。説文解字は説文なんて略称で言われたりもするんだよ。

   へえ、西暦100年! すごいねえ。それで、どういう原則で分類したの。

ご隠居 漢字を「六書(りくしょ)」っていう原則で分類して、その文字の最初の意味を研究し解説したんだ。さらにそれを540の部、つまり部首にわけて並べたんだな。

   15巻もあるんだから、随分たくさんの漢字を分類したんだろうね。

ご隠居 そうだね。見出しの部分に取られてる漢字を「親字」って言うんだけど、それが9353字。解説に使われた文字は13万3441字なんていわれてるんだよ。

   簡単に「分類した」って言うけど、9千字以上の漢字をどういう風に「六書」に分けていったんだろう。

ご隠居 「文字」っていうだろ。これは、もともと「文」と「字」に分かれるっての知ってるかい?

   文と字って違うの?

ご隠居 普通、あたしたちが言う「文」は、いわゆる文章のことだろ。でも、許慎は「川」とか「山」みたいに、これ以上分解できない単体の字を「文」としたんだな。

   へえ。ってことは、字は分解できる漢字ってこと?

ご隠居 そう。「字」っていうのは、「文」と「文」を二つ以上組み合わせて出来たものを言うんだよ。だから説文解字ってのは「文を説き字を解く」って意味なんだな。

   ああ、なるほどねえ。

◇特徴とらえた「象形文字」

ご隠居 象形文字っていうのを聞いたことがあるだろ。これも六書の一つ。「川」とか「山」なんていう具合に、それ以上に分解できないものがほとんどなんだよ。

   六書っていうからには、6種類の分類があるってことでしょ。

ご隠居 そう。今言った象形のほかに、指事、会意、形声、転注、仮借(かしゃ)っていうのがあるんだ。そのうち転注と仮借は、漢字の成り立ちというより運用方法についてのものだといわれてるんだ。

   へえ、その六書について、もっと教えて。

月拡大「月」。左から甲骨、金文

ご隠居 まず「象形」。これは「日」とか「月」「魚」なんてのがそうだね。説文解字には、「日」は「実(み)てるものなり。太陽の精は欠けず」って説明があるんだ。

   「実てるものなり」ってどういう意味?

ご隠居 充実しているっていうことかな。太陽の特徴は満ち欠けがないことだからね。

   それで月は満月の形じゃないんだ。

ご隠居 うん。月の特徴的な姿を三日月の形に見たんだね。説文には「欠けるなり、太陰の精光なり」って説明があるんだ。太陽の対極にある陰の光だってことかな。

魚拡大「魚」。左から甲骨、金文、説文
   魚も可愛いね。そのままブローチになりそうなデザインだね。

ご隠居 よく特徴を捉えてるよね。「水虫なり」って説明があるんだ。

   水虫?

ご隠居 いや、虫っていうのは、動物の総称で使われたもので、足の指にできる病気じゃないんだよ。次に「指事」。これは字の点画の組み合わせで、位置や数量なんかの抽象的な概念を表すものなんだ。「上」とか「下」がいい例だね。

   こりゃ、確かに分かりやすいね。

上拡大「上」。左から甲骨、金文、説文

ご隠居 「会意」っていうのは、二つ以上の文字を意味のうえから組み合わせて新しい文字を作る方法なんだよ。たとえば、「人」を意味する「人偏」と言葉を意味する「言」を組み合わせて「信」とかね。

   あ、それなら私も分かるよ。「日」と「月」で「明」でしょ。太陽と月が一緒に出れば明るいもんね。

まど拡大「囧」。左から甲骨、金文、説文
ご隠居 お咲ちゃん、それはちょっと違うんだよ。「明」は会意文字なんだけど、「日」の部分は、もともと囧(ケイ)で、これは窓を意味してるんだ。つまり窓から差し込む月明かりのことを「明」と言ったんだな。

明拡大「明」。左から甲骨、金文、説文
   そうなんだ。字の形に惑わされちゃいけないね。

◇中には間違いも

ご隠居 これに似た誤解があるのが「武」。これは「戈」と「止」で出来てるだろ。「春秋左氏伝」には楚の荘王がある戦いの後、死屍累々の戦場を振り返って「武とは、暴を止め、大を保ち、功を定め、民を安んじ、衆を和し、財を豊かにするためのもの」だって言ったっていう故事が書かれててね。「武」は戦うことではなく「戈」を「止」める(収める)ことにこそ、その意味があると言われてたんだ。

   説文解字にそう書いてあるの?

ご隠居 そうなんだ。でもこれは、お話としては面白いけど、本来の意味とは違うんだ。

   どういうことなの?

ご隠居 「止」は足のことでね。つまり「武」は「戈」を持って進軍することを表した字なんだよ。

   へえ、面白いねえ。全然逆の解釈になるね。

ご隠居 そう。漢字の成り立ちには、時々そういうお話が混じることがあるから注意しないとね。で、次は「形声」。意味を表す文字に音を表す文字を組み合わせたものをいうんだ。水を表す「さんずい」に、「コウ」っていう音を表す「工」を組み合わせた「江」が代表かな。

江拡大「江」。左から金文、説文

   揚子江の「江」だね。それと同じ仲間、分かるよ。「さんずい」に「青」で「清」、「米」に「青」で「精」でしょ。

ご隠居 そうだね。「日」に「青」で「晴」とかね。「青」も「清」も「精」も「晴」も「せい」って音は共通してるだろ。しかも、みずみずしいなんて意味もそこに含まれてるんだ。そして、「転注」。これは漢字の読み方で意味が変わるものって感じかな。

   読み方で意味が違うの?

ご隠居 そう。たとえば、「楽」を「ガク」と読むときには「音楽」のことをいい、「ラク」と読むときには「楽しい」って意味になるだろ。その逆はないんだな。

   そう言われれば、そうだね。六つ目の「仮借」っていうのは?

ご隠居 「仮借」っていうのは、もともとの意味とは違うけど、発音が同じ漢字を借りて使われるようになったものを言うんだ。

   ちょっと、分かりづらいなあ。

ご隠居 うん。漢字って言葉より後に生まれたものなんだよ。だから漢字のない言葉っていうのも、大昔には結構あったようなんだな。だから漢字のない言葉に同じ発音の漢字を代用したんだけど、代用した方が定着しちゃったってケースだね。

   なるほどねえ。フェイクの方が本流になったってことか。で、どんな字があるの?

豆拡大「豆」。左から甲骨、金文、説文
ご隠居 もともと、「豆」っていう字は、祭祀(さいし)のときに供物を盛る脚の高い器を意味してたんだけど、植物の「マメ」が同じ発音だったんだ。それで「マメ」の漢字を「豆」で代用してたら、次第に本来の使い方ではほとんど使われなくなってしまったんだ。

   豆って器のことだったんだ。知らなかったなあ。中国にとって説文解字って大切な字書だったんだね。

ご隠居 そうだね。西洋でも辞書は大事な財産だったようだよ。

   そうなの?

ご隠居 うん。だって「字句書なり(ディクショナリー)」って言うだろ。

(前田安正)

■4月から「ことばマガジン」レギュラーに

 4月から月に2回、第2・4水曜日に「漢字んな話」をお送りします。毎回、漢字1文字を取り上げて江戸落語風の仕立てで話が進みます。

 漢字についてはちょいとうるさいご隠居と、漢字大好き少女のお咲ちゃん、その父親の熊さんが、漢字の成り立ちやちょっとしたウンチク、歴史について紹介します。

 「こりゃ、苦しいオチだなあ」とあきれながらも、読み進めるうちにいつの間にか漢字に詳しくなってしまうコーナーです。

 どうぞ、お楽しみに。