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ことば談話室

「官」はお好きですか?

横山 公也

2月17日付夕刊拡大各紙の2月17日付夕刊。真ん中の「司令官」が弊紙
 日本人で初めて国際宇宙ステーション(ISS)の「コマンダー」に決まった宇宙飛行士の若田光一さん。って、なぜわざわざ耳慣れない「コマンダー」と書いたかと申しますと、決定を報じた2月17日の各紙夕刊=写真=をご覧あれ。若田さんの肩書がバラバラ。いや、みんな「船長」の中に「司令官」という少数派が・・・実は弊紙です。

◇「司令官」とはどんな人?

 「コマンダー」というのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の発表にある表現です。米航空宇宙局(NASA)の発表にある「station commander」そのままです。こういう耳慣れない言葉をその通りにはしないわけですが、ではどうするかで分かれてしまいました。

 commanderを英和辞典を引けば司令官、指揮官といった訳が出てきます。「司令官」は間違いではありません。「船長」の方が意訳です。でも、夕刊を開いた筆者は、残念ながら「司令官」には違和感を覚えたものです。

 司令官・指揮官といえば、もともと軍事の用語。command、つまり命令を下す人です。ただし「司令官」というと指揮官のうちかなり上級の人たちです。

 自衛隊で司令官と付くポストを挙げてみると、陸自は中央即応集団司令官だけ。海自や空自では自衛艦隊、護衛艦隊、潜水艦隊、練習艦隊、航空集団、教育航空集団、航空総隊、各航空方面隊、航空支援集団、航空教育集団、航空開発実験集団のトップが司令官を名乗ります。この人たちの階級は「将」で、旧軍でいえば中将相当。陸海の「総監」らもほぼ同格のポストです。

◇部下は数千人、大組織の長

 その旧軍ではというと、陸軍なら中将が務めた師団長の上に「軍司令官」がいて、古手の中将や大将が務めました。海軍では今なら将補に当たる少将相当の「戦隊司令官」があります。実戦部隊以外にはもっと格下の「司令官」もいましたが、軍司令官なら部下は数万人、戦隊司令官でも千人単位の組織の長でした。

 ただ例外もあって、陸軍でも陸軍刑法では「司令官ト称スルハ軍隊ノ司令ニ任スル陸軍軍人ヲ謂(い)フ」とあって、ランクの上下を問わず部隊の指揮官一般を指して司令官といいました。「司令官外国ニ対シ故ナク戦闘ヲ開始シタルトキハ死刑ニ処ス」などと恐ろしげです。

 余談を続ければ、海軍刑法の方は「指揮官ト称スルハ艦船、軍隊ヲ指揮スル海軍軍人ヲ謂フ」。ほぼ同じ意味でこちらは「指揮官」。我々にはこの方が「上下を問わず」な感じで分かりやすいと思うのですが、わざわざ違えてあるのは、やっぱり仲が悪かったせいでしょうか。

 こういう陸海軍の微妙な仲は、日本だけのものではありません。例えば英語で軍隊の「キャプテン」といえば陸なら大尉、海は大佐、3ランク違います。さらに、海兵隊は同じ軍艦に乗っていても陸式。帆船時代の英海軍ものの小説では、艦長のキャプテンと間違えないよう、海兵隊の大尉を儀礼的に格上げして少佐と呼ぶ場面が出てきたりします。

 なお、そんな古き良き時代と違ってドライな現代の米海軍だと海兵隊員もそのままキャプテン。米空母のパイロットを取材した記事で、20代の「若き大佐」が出てきて仰天したことがあります。アニメ(赤い彗星は二十歳そこそこでしたか)や実際に昇進の早かったナチス・ドイツのパイロットではあるまいし・・・と思ったら、米空母には海兵隊の飛行機も一緒に載っているので、そちらの大尉だったのでした。

◇やっぱり強い軍人イメージ

1942年2月20日付拡大太平洋戦争初頭、シンガポール陥落時の山下奉文軍司令官(左から2人目)。水野晴郎さん、似てます。1942年2月20日付
 話を戻すと、普通「司令官」とされているのは、軍の相当な高官です。右の写真は太平洋戦争中、シンガポール戦の時の山下奉文軍司令官と英軍司令官の交渉を報じた紙面ですが、少し極端にいえば「司令官の晴れ姿」で連想するのはこういう場面になってしまいます。

 「ISS司令官」は軍隊でもなく軍人でもなく、重要ではありますが大人数の組織の長でもなく・・・なのに司令官?と引っかかった次第。記事本文には「司令官(船長)」とありますし、JAXA自身も別のページでは「コマンダー/船長」としていますから、なおのこと「船長」でよかったのになあ、と。

 「司令官」ばかりでなく、一時よく登場した「反政府勢力タリバーンの『報道官』」なども違和感のある「××官」です。「反政府」と「官」とは、よく考えれば結びつかないと思うのですが。「広報担当者」あたりなのでしょうけれど、一方で「広報官」とつくと据わりがいい、ちゃんとした人だという意味でつい使いたくなるのかと同情も・・・。いや、やっぱり「官」は信頼できるなあと思ってしまうのも、「司令官」で変な連想をするのも、私が古くさいだけかもしれませんが。

横山公也