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ことば談話室

よく考えるとヘン?「雪だるま式」の使い方

大堀 泉

 暑いときに涼を求めたからではないけれど、「雪だるま式」という慣用句がずっと気になっていた。辞書には説明と用例はあるが、文学作品などの文例もないし、出典の説明もない。もっぱら新聞や雑誌の記事で使われる表現のようだ。この表現を使うと、身近な感じでイメージできるからだろうか。調べてみると実は意外と新しく、しかも最近は本来の意味から少しずれたニュアンスで使われているようだ。

拡大「雪だるま式」ってこんなイメージですよね

◇雪だるま?雪玉?

 よく目にすることばだが、「雪だるま式」って、何をするどんな方式かを説明するには至っていない。例えば「朝日式」だったら「朝日新聞が取っているやり方」のことだろうと思えるが、雪だるまがやっている方式、ではない。「今村式地震計」なら、「今村という人が発明したやり方の地震計」だとわかるけれど、そういう使われ方でもない。ことばとしては半端で、乱暴な丸め方。でも、朝日新聞記事データベースで「雪だるま式」を検索するとざっと26年で570件。けっこう、愛用されているのではないか。

 辞書での説明は次のようなものだ。

「雪だるまを作るとき、雪を転がしてその塊を大きくするように、どんどん増えふくらんでいくありさまをいう」(日本国語大辞典第2版)

「雪をころがして行くうちに、雪だるまの玉が段段大きくなっていくように、マイナスの状態が次第にひどくなることを表す。『雪だるま式に借金がふえる』」(新明解国語辞典第5版)

「(雪だるまを作る時、雪の塊を転がすと雪が付着して見る見る大きくなるように)次から次へと目に見えてふえて行くさま。『借金が雪だるま式にふえる』」(広辞苑第6版)

……などなど。

 だるまの形にしてから転がすわけではないので、本来は「雪玉式」じゃないですか。

拡大なかなか「雪だるま式」にはいかないようで……

◇新聞は戦後、辞書は80年代

 朝日新聞の紙面でいつごろから使われているのか、所在を確かめようとした。データベースで見出しを探すと、初めて出てくるのは1953年12月1日付の夕刊社会面。

 「全逓は四地区 滞貨は雪だるま式増加」

拡大見出しに初登場した「雪だるま式」(紙面の左下)。時代を感じさせます

 郵政関係の労働組合(全逓)が、国鉄(現JR)の労組などと共に「休暇闘争」をし、そのため「郵便物の滞貨(滞留している貨物)は東京中郵で書留、速達など13万通、……小包は一般、クリスマスメールあわせて20万個に達し、休暇闘争で滞貨が雪だるま式にふえるから配達は相当のびると(全逓本部が)いっている」。新聞記者が発明した表現かと思っていたのだが、取材相手の発言として引用されているということは、この頃には一般に知られていたことばだったのか。ちなみにその「雪だるま式」の記事の隣は、「静かなるダモイ帰還」という見出しで、戦後シベリアに抑留されていた帰国者の船が舞鶴に入港した記事。ラジオの番組表もある。テレビは日本テレビとNHKしかなく、表の形にすらなっていない。そういう時代だった。

 雪だるま式に増えそうなものは、「滞貨」以外にも、借金、公債残高、赤字などもっと昔からあるものが思い当たる。これらのことばを見出しに取っている記事を検索し、文中で「雪だるま式」が出てこないか見てみたのだが、これ以上古くにはさかのぼれなかった。というのは、戦前戦中は難しく硬く分かりにくい漢語が主流で、表現も「急増」「倍増」「膨張」……。雪だるまのごとき子どもの遊びのような卑近なたとえはお呼びでなかったらしい。

 辞書での取り上げられ方をみてみると、日本国語大辞典では1972年の第1版には載っていないし、広辞苑でも78年の第2版補訂版にはなく、83年の第3版から登場する。日本語としての「お墨付き」を得たのは比較的最近のようだ。ちなみに、国立国会図書館の検索システムを使って「雪だるま式」ということばがタイトルに使われた本を探してみると4冊あり、うち3冊はこの10年の間に出版されたものだった。

 同様に「○○式」表現では、たとえば「ねずみ算式」や「芋づる式」があるが、これらは、そろって昭和9年の晩秋に社会面の見出しに登場する。「ねずみ算式」はズバリだからいいとしても、「芋づる式」というのは、芋のつるを引っ張るとつるから下がっている芋が次々出てくる様子を「芋づる式」とまるめている。「サツマイモ収穫式」とでも書くべきものだろうが。雪だるま式といい勝負だ。

◇増えるのは「悪いもの」とは限らず

 53年以降の見出しでは「雪だるま式の黒字構造」「マスコミ 雪だるま式に騒ぎを増幅」、総会屋の事件で「金出すと雪だるま式」……。上記の新明解国語辞典の説明「マイナスの状態がひどくなる」とは違う種類の対象にも使われている。黒字が雪だるま式に増えた時代もあったのだ……と思って本文を読んでみると、巨額の貿易黒字に支えられて経常収支の黒字幅がどんどん広がっていき、諸外国の非難にさらされかねない日本政府が苦慮している、という内容。黒字が借金のように「マイナス」ととらえられていたのだろうか。ちなみに最近出版された3冊の「雪だるま式」の本はそれぞれ「客」「貯蓄」「収入」が増えるとうたっており、書籍タイトルの世界では全く逆のイメージでとらえられているのがおもしろい。

 ところで最近は、「ふくらみ」よりも「広がり方や波及の速さ」に重きを置いた使われ方が広まりつつあるようだ。東日本大震災による混乱の最中に起きたみずほ銀行のシステムダウンについて、朝日新聞の社説では「雪だるま式に影響が広がった」と表現していた。また、震災時のネットメディアについて考察した記者有論では、「真偽を確かめる前に雪だるま式に情報が広がっていく」と使われている。ものごとの伝わる速さを、坂を転げ落ちながら急速に大きくなる手に負えない大雪玉のイメージから連想しているのだろう。辞書の説明とはニュアンスが少し異なるが、こういう使い道が広がれば、まだまだ紙面で活躍することもありそうだ。

大堀泉