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ことば談話室

ジョルダン、オルドンって、どこの国?

横山 公也

 ジョルダン、サイプラス、カタル……「ギョエテとは俺のことかとゲーテ言い」を地でいく話が、某お役所には少し前までありました。カタルなんて何の病気かと思ってしまいますが、これはみな国の名前。ヨルダン、キプロス、カタールです。

ジョルダン拡大「東ジョルダン」とある1920年8月29日付紙面

◇その根拠の法律は・・・

 2003年までこういう読み方を採用していたのは、他ならぬ外務省。根拠の法律は「在外公館の名称及び位置並びに在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律」(リンク)といいます。リンク先をご覧になれば分かるとおり、法律の中身の大部分は任地ごとの給与の決まりなのですが、その任地の書き方=国名の「正式な」書き方なのです。

 リンク先のいちばん下に、03年に大きく改正された今の国名一覧表があります。これはわりと普通に見えますね。その少し上を見ると昔の改正時の付則があり、そこにはジョルダンにカタル、バハレーンとか、見慣れない国名表記が残っています。

 ところで、「外務省外務報道官編集」や「外務省編集協力」として毎年出版されていた「世界の国一覧表」という本がありました。03年に法改正の話を聞いた時、私はそもそも「在外公館の名称及び位置並びに在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律」を知らず、本の方が外務省の認める公式の国名表記だと思っていたので、びっくりしたのでした。本の方は「ヨルダン・ハシミテ王国」に「カタール国」と、ちょっとお堅い=いかにも「公式」風に=けれど普通の表記だったからです。

◇「一般向け」は使い分け?

 当時、外務省に電話してみると、担当の方が丁寧に答えて下さったのですが……。

「改正されると聞いたのですが」

「はい。準備しています」

「これまで、なぜ変な表記だったのですか」

「いや、現地での発音を重んじていたのです」

「現地の読みというより、英語の読みではありませんか」

「この方が現地で通じやすく、行った方にも便利です」

「ところで、『外務省編集協力』の『世界の国一覧表』と違っていたのですね」

「担当が違いますが、一般向けということなのでは」

ヨルダン大使館拡大東京都渋谷区のヨルダン大使館。見かけは普通のお屋敷のよう

 「公式」と「一般向け」は、お役所に似合わぬ柔軟な対応なのか、それとも一般人とプロは違うと思っているのか、不思議な思いをしたものでした。

 外務省といえば、長崎県の佐世保支局に勤務していた時、米海軍の「約束違反」について電話取材したら「米軍はですね、日本を守るために頑張っているんですよ」と騒がないよう説得?されたことも。

 この件とあわせて、私にとって「不思議なお役所」のイメージが定着したものです。ともあれ、より「正しい」表記になったと、安心していたのでした。この8年間は。

◇全く違った現地の発音

 「ヨルダンを現地の発音で? オルドン」

 え、オルドンですか。最近ふと思い出して国際報道グループの中東担当記者に聞くと、私にとっては意外な答えが。「いやあ、それを言うとエジプトも現地ではムスルだし、ヨルダンをヨルダンと言うのは日本ぐらいかもしれないけれど、そんなものだね」。そんなものですか。

 さて昔の紙面を見ると、時に「東ジョルダン自治」(1920年8月29日付)などがあるものの、1946年のヨルダン独立より前、第2次大戦中から「トランスヨルダン地方」などとしていて、「ヨルダン」が定着しています。ついでに在日大使館(東京都渋谷区)に行ってみましたが、もちろん「ヨルダン大使館」です。これは確かに「そんなもの」。紙面表記のルールで「慣用の固定しているものは、それに従う」とある通りだなあと、たちまち立ち直った私。では「ヨルダン」はどこから来たのか……それは宿題にさせて下さい。

横山公也