メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ことば談話室

ラムネかサイダーか――それが問題だ〈上〉

細川 なるみ

サイダーとラムネ拡大昔ながらのサイダーとラムネ。左の「トーキョーサイダー」(東京都墨田区限定)のように、レトロブームで「地サイダー」の発売も相次いでいます
 ラムネとサイダーの違いをご存じですか?

 ラムネといえば夏祭りのなつかしいイメージがわいてきますが、いざサイダーと飲み比べてみると、どうも味は同じように思えます。周囲に聞いてみると、みな一瞬考え込み、「ラムネ瓶に入っているのがラムネじゃないの…?」と、答えになっているような、いないような。

 しかし、それもそのはず。それぞれの成分表示を見ると、「糖類、香料、酸味料……」とほぼ同じ(水と二酸化炭素については表示を省略していいことになっています)。要するに、どちらも炭酸ガスをとかした水(または天然炭酸水)に、レモンなど主に柑橘(かんきつ)系の香料や甘味料を加えたものです。これらの割合によって味が微妙に変わってきますが、ラムネかサイダーかというよりも、製造する会社による違いの方が大きいと言えます。

◇由来は全く別の飲み物

 ほぼ同じ飲み物なのに、二つの名前。この二つは、もともと全く別の飲み物に由来しています。

レモネード拡大レモン果汁に砂糖を加えて炭酸水で割った、フランスの伝統的なレモネード。右はブドウの皮を使ってピンク色に着色してあり、味も若干甘めです
 ラムネの語源となったのは、英語の「レモネード(lemonade)」。もとはフランス語の「limonade(レモン水)」から来ているとされます。レモン果汁に砂糖を加えて水で割った飲み物で、家庭で簡単につくれることもあり、欧米ではとても身近な飲み物です。

 レモネードは国や地域によってさまざまな種類があり、炭酸入りのもののほか、砂糖なしのもの(ひたすら酸っぱい!)や、ベリーや着色料で色をつけたピンクレモネードも。日本でも1980年代から、「はちみつレモン」などの名前で売られているものが、近い感じでしょうか。さらに、レモンが入っていなくても、炭酸飲料なら何でも「レモネード」と呼ぶ国もあるのだとか。

◇サイダーはお酒のことだった

 一方、サイダーの語源は「シードル(cidre)」というリンゴ酒。cidreというのは古いフランス語で、英語にすると「cider(サイダー)」となります。リンゴを発酵させた微発泡のお酒で、いわば「シャンパンのリンゴ版」。ヨーロッパではワインと並んで広く親しまれている、長い歴史を持った飲み物です。

拡大カンペールと呼ばれる陶製のおわんに入ったシードル。温めて飲んでいた時代の名残だそうです
 諸説ありますが、6世紀ごろには、リンゴの産地として知られるフランスのノルマンディー地方やブルターニュ地方、スペインとの国境地帯のバスク地方などでつくられていたそうです。

 当時のヨーロッパでは衛生上、生水を飲むのはたいへん危険とされていました。そこで、アルコール度数が2~5%程度と低めのシードルを水代わりとして、なんと小さな子どもにも飲ませていたのだとか。フランスではグラスでなくカンペールという陶製のおわんで飲みますが、これはかつて「熱燗(あつかん)」で飲む習慣もあったことの名残なのだそうです。

 ヨーロッパには地層の関係で天然の炭酸を含んだ鉱泉が多く、ミネラルウオーターも炭酸ガス入りのものが多く売られています。アルコールを含むとはいえ、炭酸飲料を水代わりに飲むことにあまり抵抗感はなかったのかもしれません。

◇米では禁酒法の影響も

 アメリカでも、植民地時代からシードルはヨーロッパ移民の間で飲まれていました。やがて、リンゴの代わりに香料や甘味料を使ったノンアルコールの安い代替品が登場し、禁酒法(1920年制定、33年廃止)の時代をへて、アメリカで「サイダー」といえばノンアルコールのものを指すようになりました。現在では、こうした炭酸飲料のほか、本来のシードルや、炭酸を含まないリンゴジュースなどさまざまな種類のものがサイダーと呼ばれています。

 ちなみに「サイダー」とよく似た言葉に「ソーダ(英語でsoda)」というのもありますが、これはまた由来が別で、炭酸ナトリウムなどナトリウム塩を意味するオランダ語だそうです。アメリカでは炭酸飲料の総称としても使われ、日本のサイダーにあたるものも「ソーダ」と呼んでいます。日本では主に甘味料や香料を加えていない純粋な炭酸水を指して「ソーダ(またソーダ水)」と呼ぶのが一般的です。

 それにしても、レモネードとシードルとでは、大きな違いがあります。この二つがなぜ本邦では同じものになってしまったのでしょうか。そのいきさつについてはまた次回。

(細川なるみ)