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ことば談話室

「しもやけ」別の呼び方もご存じ?

佐藤 司

 身を切るような寒風が吹きすさぶ季節になりました。このころ寒さで手足の指や耳などが赤くはれて軽い凍傷になることを、みなさんが住んでいる地域では何と言いますか。子どもたちが口ずさむ童謡「たきび」(作詞・巽聖歌、作曲・渡辺茂)にも、そのことばが登場しています。

拡大「わあ、冷たい」。「しもやけ」に気をつけて

 「さざんか さざんか さいたみち…」の歌詞(2番)の最後に「…しもやけ おててが もうかゆい」と歌われています。「しもやけ」は、防寒具や暖房・温水器具などが十分でなかった時代、凍えるような寒さに肌をさらして遊ぶ子どもたちや寒い所で水仕事をする女性によくみられました。血の巡りが悪くなって膨れ、かゆくなります。物質的にも豊かな暮らしになり「しもやけ」に悩む人は昔ほど目立たなくなってはいますが、全くなくなったわけではなさそうです。

 さて、この「しもやけ」という言葉は今では全国的に使われていますが、過去には「ゆきやけ」と呼んでいた地方もあったことをご存じでしょうか。

 国立国語研究所が1957~65年に全国2400カ所で調べた「日本言語地図」では、同じ症状でも言い方が違う方言の分布を地図上に示しています。各地域での言い方を当時60歳以上の高齢者から聞き取ったそうです。

 地図を見ると、「ゆきやけ」は主に東北から北陸をへて中国地方へと延びています。一方の「しもやけ」は主に福島県の南東部から関東のほぼ全域を含み、東海地方の南部までのまとまった地域に加え、さらに九州の北部にもみられます。大まかに分類すると、「ゆきやけ」は日本海側に「しもやけ」は太平洋側に二分される典型的な例であると、専門家は分析しています。

◇気候、風土が強く影響

 日本海側と太平洋側に大きなことばの差が生まれたのは、気候に何か関係がありそうです。

 「ゆきやけ」と呼ぶ地域については「その分布は降雪量の多い地域とほぼ重なる」と、「ガイドブック方言研究」(小林隆・篠崎晃一編)にはあります。雪にうずもれる期間が長い地域では、「しもやけ」の原因は「しも」よりも「ゆき」の方がむしろ自然ではないかと言っています。

 「雪の多い秋田県に移り住んで、生まれて初めて『しもやけ』になりました」。こう話すのは現在、長野市で皮膚科を開業している新澤みどりさん。降り積もった雪がブーツの中で溶けてぬれ、足先などに血行障害を起こさせたのが原因とみているそうです。それまで住んでいた長野県・諏訪地方は、秋田県よりも寒く最低気温が零下10度を下回る日が多かったにもかかわらず「しもやけ」に一度もならなかったのは、雪が比較的少ない乾燥した気候によるものでは、と振り返っています。

 「しもやけ」と「ゆきやけ」。ことば自体は、どちらが先に使われたと思いますか。

 奈良大学・真田信治教授の「方言の日本地図 ことばの旅」によると、文献に最初に登場したのは、「ゆきやけ」 (1477年・史記抄)で、「しもやけ」(1680年・合類節用集)より200年以上も前だそうです。「ゆきやけ」とほぼ同じころに併用されていた言い方として「しもばれ」などもあったと説明しています。

 真田さんは「当時の『ゆきやけ』は、凍傷の症状がさらに進んだ状態を指していた可能性がある」と話しています。「ゆきやけ」は、おそらく京都から日本海側一帯に口づてに広まったのではないかと推測しています。

◇消えゆく懐かしい方言

 約50年前に調査した日本言語地図で軽い凍傷を「ゆきやけ」と呼んでいた地域では現在、どのような言い方をしているのでしょう。

 福井県(2007年夏)と石川県(08年夏)での調査結果があります。金沢大学の加藤和夫教授らがJR北陸線沿線の集落で聞き取ったものです。かつて「ゆきやけ」が使われていたはずの石川県の能登地方や福井県のともに70~80歳代の高年層からも今では聞かれなくなったと言います。「ゆきやけ」と答えたのは、福井県・嶺北(れいほく)地方の高年者がたった1人だったそうです。「50歳以下ではほぼ『しもやけ』一色になっています」と加藤さんは話しています。

 広島県の中国山地沿いでも同じような傾向がみられるようです。「これまでは『ゆきやけ』などと言われてきましたが、現在は『しもやけ』が県下全域で優勢です」と広島大学大学院の高永茂教授。

 共通語の「しもやけ」が広まる一方で「ゆきやけ」など他の方言が急速に衰退した背景について、研究者らはテレビなどのマスメディアや医薬品の広告などが大きく影響しているのでは――と推測しています。

 皮膚科医の新澤さんも「昭和1けた生まれで長野市郊外の農家に育った私の母によると、昔は『ゆきやけ』と呼び『しもやけ』は都会の人たちの言葉でした。それが今では一般化して『しもやけ』が主流になりました」と話しています。

 いつのころからか、屋外で遊ぶ子どもたちの姿がめっきり少なくなりました。「しもやけ」を表す雪国ならではの方言「ゆきやけ」も消えようとしています。「しもやけ」などを物ともせずに遊び回った子どもたちの情景が遠い過去にかすんだように思えます。

(佐藤司)

(年末年始は休ませていただき、次回は1月12日に更新します)