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ことば談話室

「トン」の迷宮へ

横山 公也

コスタ・コンコルディア拡大横倒しになったコスタ・コンコルディア
 イタリアで起きた大型客船の座礁事故。乗員・乗客4200人を載せていた巨体が横倒しになった姿には驚かされました。さてその「巨体」ぶり、「11万トン余り」と聞いて、つい「戦艦大和は6万トン強、2倍近く大きいのか」と思ってしまうのですが、これでよいのでしょうか。

 とりあえず、我々素人にも分かりやすい「メートル」の範囲で比べてみましょう。座礁した客船コスタ・コンコルディアは長さ290メートル、幅35.5メートル。大和は長さ263メートル、幅38.9メートルです。こうしてみると、2倍というほど違わない気がします。

◇総トンと排水トン

 混乱の原因は、ここまで2種類の「トン」を混同して書いていることです。客船の方は総トン、軍艦は排水トン(排水量)。実は全くの別ものです。「トンの迷宮」を少しのぞいてみましょう。

 総トン数は、おおざっぱに言うと「船の容積=かさ」。測り方は「1969年の船舶のトン数の測度に関する国際条約」で決められています。商船にかかる料金や保険料などの基準に使うのが目的ですから、大きさは容積、つまり「どれだけ荷物を運べるか」で測るのが合理的ということです。

 一方、軍艦の方は言ってみれば鉄の塊。張りぼてのような見かけの大きさではなく「鉄をどれだけ使っているか」=重さで量るのが合理的。排水トンは船が押しのける水の重さ、つまり船の重さそのものです。先の例に戻って喫水(海面から船底までの深さ)を見ると、コスタ・コンコルディアは8.2メートル、大和は10メートル余りですから、大和の方が小ぶりでもずっしり重そうだということになります。

◇「重量」「国際」「基準」……

 トンの種類は、まだまだあります。朝日新聞の取り決めでも、客船は総トンを使い、貨物船・タンカーは総トンが原則だが重量トンを使う場合もあるとしています。軍艦・護衛艦は満載排水量や基準排水量を使います。

  総トンの基本は先の国際条約に基づくものなのですが、日本の「船舶のトン数の測度に関する法律」では、それは「国際総トン数」とされ、「総トン数」は国内向けの少し違う基準によるものとなっています。ただし、紙面では区別していません。

 「重量トン」は、積める量を容積ではなく重さで測るもの。荷物や燃料、水などを満載した重さ(満載排水量と同じです)から、船自体の重さを引いたものです。

 「基準排水量」は何の基準かというと、普通にはワシントン軍縮条約(1922)での基準を指します。満載排水量から、燃料や水の重さを引いたもの。軍艦の保有量を制限する際に定めた基準なのですが、例えば地中海が中心のイタリアは燃料が少なくて済み、日米英はたくさん積まなければいけないといった事情があるので、その分を除いた基準になりました。ただし、海上自衛隊の護衛艦の基準排水量は、これとは違った独自の「基準」で測っていて、これまた単純に比較はできません。

 冒頭で挙げた戦艦大和では、基準排水量が6万4千トン、満載だと7万トンを超えます。さらにこの他に旧海軍の艦艇には「公試排水量」があって、大和で言えば6万9千トン。公試というのは公式の性能試験のことで、その際に使われる燃料と水を3分の2にした状態の数字です。

◇1トンは何キロ?

 「トン数」と言われるものは、紙面では扱いませんがパナマ運河やスエズ運河の料金計算に使われる基準によるものなど、まだまだあります。ところで、重さの「1トン」は何キログラムでしょう。「千キログラム」とは限りません。迷宮は続きます。

 「トン」はもともと「樽」の意味。「樽に入った水の重さ」からヤード・ポンド法の重さの単位になりました。千キログラムなのは、元からあったトンに合わせて作られた「メトリック(メートル法の)トン」です。では元からあったトンはというと、これがまた2種類。英トン(ロングトン)と米トン(ショートトン)があります。英トンは約1016キロ、米トンは約907キロですから、1割以上違ってしまいます。

 測り方の違う各種のトンに、重さ自体も3種類。結局、いずれの数字も素人がイメージする「大きさ」の比較に使うのは、あまりふさわしくない気さえしてきました。

 ともあれ、事故は困りますがあこがれの船旅。コスタ・コンコルディアに続いてインド洋でコスタ・アレグラが事故を起こした際に「長期クルーズの途中だから日本人客はいない」と言い当てて複雑な思いを抱いたのですが、長旅のできる環境は、定年後に期待して待つことにします。

(横山公也)