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ことば談話室

「年度」あれこれ――企業はそれぞれ事情あり

桑田 真

 「年度」を意識するのは、前回扱った学校や官公庁だけではありません。一般の企業も、官公庁と同様に決算年度を設定し、1年間の決算を発表します。4~3月を会計年度としている企業が多いため、3月期決算がまとまる5月には、東京証券取引所に決算資料を提出しようとする上場企業の担当者が押し寄せます。新聞の経済面も「決算短信」で埋め尽くされます。

◇「決まり」はない

決算ピーク拡大報道各社の箱に決算資料を入れる企業の担当者=2011年5月、東京証券取引所
 ただ、会計年度をどこで区切り、決算日をいつにするか、「こうしなければならない」という決まりはありません。会社の定款に決算日を明記すれば、何月何日でも構わないのです。2011年度に東京証券取引所の第1部、第2部、マザーズに上場していた約2300社のうち、決算期が3月以外の企業は約600社(25%)ありました。決算の事務作業量を考えて自社の繁忙期を避けたり、季節による売り上げの増減を考慮したりして決算日を決めている企業も多いようです。

 「23区」「ジル・サンダー」といったブランドを展開するアパレル大手のオンワードホールディングスは、2月末日が決算日です。同社によると、夏、冬のセールが深く関係しているといいます。

 主な取引先の百貨店では、商品を納入した時点では売り上げとして計上せず、客に売れた時点で仕入れと売上高を計上する「消化仕入れ」が一般的です。衣料品が最も売れるのは夏、冬のセールの時期。セールでは値下げされる商品も出てくるため、利益を確定させるには冬物セールが終わった2月(夏物なら8月)が最も適しているそうです。

◇セールを終え、閑散期に

 イオンやセブン&アイ・ホールディングスなどの小売・流通業界、百貨店業界も2月期決算が主流です。三越伊勢丹ホールディングスは3月期決算ですが、伊勢丹と合併する前の三越は2月期決算でした。2月期決算の高島屋は「セールが終わった2、8月は閑散期なので、決算作業がしやすい。また、2月期決算とすると3~8月が上期、9~2月が下期となるが、3月は春物衣料、9月は秋物衣料のプロモーションを始める時期としてちょうどよい」としています。

 一方、ビール業界の会計年度は大手4社とも1~12月(12月期決算)です。各社の足並みがそろったのは1980年代終盤のこと。戦前「大日本麦酒」として一つの会社だったアサヒとサッポロの決算期に、キリンとサントリーが合わせたようです。キリンホールディングスによると、87年までは2月から翌年の1月までを会計年度(1月期決算)としていました。ビールの売り上げは7、8月がピークで、かつては夏季と冬季の差が今より大きかったそうです。2~1月を会計年度にすることで「売り上げの多いこのふた月を上期(2~7月)と下期(8~1月)に振り分け、半期ごとの売り上げを平準化する狙いがあった」といいます。

◇ライバルと同じ土俵に

 アパレル業界でも「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは8月末日が決算日です。創業時から「世界的なブランドに発展させたい」という思いを持っていた柳井正会長兼社長の意向で、米国の企業や大学にみられる「8月末締め、9月スタート」を採用したそうです。また、日用品大手の花王はこれまで3月期決算でしたが、12年度から12月期決算に変更すると発表しました。海外の投資家を意識し、欧米のライバル企業が多く採用している決算期に合わせるねらいです。

 東大が導入を検討する秋入学、企業の会計年度など、1年の区切りはさまざまですが、いずれも事業を円滑に進めるための工夫です。時間に追い立てられがちな現代。気持ちの区切りとしても「年度」をうまく使い、流されずに生活していきたいものです。

(桑田真)