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ことば談話室

姉妹都市――ところ変われば「兄弟」も

永川 佳幸

 私には、24歳と15歳になる2人の妹がいます。上の妹はちょっぴりガサツで、思ったことはズバズバ言う性格。かたや下はというと、口数少なく極度の人見知り。本当に同じ親から生まれたのかと思うほど似ていません。ケンカだって昔はしょっちゅうでした。

水上バイク拡大こんな姉妹都市交流も。締結30年を記念して水上バイクで150キロ。台湾・花蓮市から沖縄・与那国町に着いた花蓮市民一行

 そんな2人と長年暮らした私にとって、ずっと気になっていた言葉が「姉妹都市」。文化交流や親善を目的として提携を結んだ都市のことですが、なぜ「姉妹」なのでしょうか。多分に私が育った環境のせいですが、ちっとも仲が良さそうに感じません。

◇戦後、交流が盛んに

 財団法人・自治体国際化協会によると、世界で国境を越えた自治体同士の交流が盛んになったのは第2次世界大戦以降。戦後の復興を自治体レベルで後押ししようと始まったものだそうです。米国とフランスの都市間で結ばれたのが、世界初の提携でした。

 日本では、1955年の長崎市と米国セントポール市の提携が第1号。その後、米国との交流を中心に運動は広がり、現在までに1600件以上の提携が成立しています。

 日本で「姉妹都市」という言い方が一般的なのは「米国での名称である『sister city』を直訳したものが、そのまま定着したからではないか」だそうです。

 なるほど!……と言いたいところではありますが、根本的な解決にはなりません。そもそも、なぜ米国では「sister」だったのでしょうか。

◇都市は女性?

 これにはいくつかの説がありますが、面白いのは、名詞の「性別」が関わっているのではないかというものです。

 欧州を中心に使われている言語の中には、名詞に性別という概念を持つものがあります。この文法上の性別は、古代の言語から現代のさまざまな言語が派生する中で受け継がれてきたものです。例えばフランス語であれば、「鳥」は男性名詞、「家」は女性名詞、「自転車」は男性名詞、「手紙」は女性名詞といった具合になります。

 使い分けに法則などはなく、ただひたすら暗記するしかありません。私は大学時代、フランス語を履修。「かっこよさそう」という愚かな理由で選んだことを、これで激しく後悔した覚えがあります。

 さて、今回問題なのは「都市」の性別です。辞典を開くと、フランス語の「ville」、イタリア語の「cittá」、スペイン語の「ciudad」など都市を意味する単語は、おおむね女性名詞に分類されていることが分かります。男性であるか、女性であるかの別は、古代の使い分けのままのことが多いためです。

 英語には、文法上の性別というはっきりとした概念はありません。ですが、一部の名詞には性別の名残のようなものが残っている、と考えられています。

 つまり、英語でも「都市」には女性のイメージがあり、提携を結んだ都市はまるで2人組の女性=姉妹のように見える。だから「sister city」と言われているのではないか、というわけです。

◇「兄弟」「友好」も

友好都市拡大「市民友好都市」の提携書を交わした、孫文の生まれ故郷の広東省中山市の代表と長崎市長
 その証拠にとまでは言えないかもしれませんが、先の自治体国際化協会によると、ロシアでは自治体間の提携を「兄弟都市」と呼ぶそうです。ロシア語には、他の欧州の言語と同じように名詞に性別があります。辞典で調べてみると……、案の定「都市」は男性名詞でした。

 一方で、漢字の文化を持つ中国との提携では、どちらが「姉」でどちらが「妹」なのかという上下関係が出てしまうのを避けるために「友好都市」と呼ぶなど、最近は実情に応じて使い分けるケースが増えているそうです。

 まったく我が家の姉妹のせいで、ここまで手を伸ばす羽目になるとは思いもしませんでした。そんな2人ですが、先月の私の誕生日に「おめでとう」メールを送ってよこしました。めずらしいこともあるもんだ。そう思って読み進めると、メールの末尾にはプレゼントではなく「彼女たちが欲しいもの」としてバッグやら靴やらのリストが。

 そんなところにだけ仲の良さを発揮して、本当に姉妹というものは理解できません。

永川佳幸