ことば談話室
(2012/05/24)
健康ブームのせいか、「エアロビ」という見出しが躍る紙面をよく見かける。記事を読んでいくと2通りの表記に気づく方もいるのでは。「エアロビクス」、そして「エアロビック」。両者ともよく見聞きする言葉ではある。さて、その違いは何なのか。
社団法人日本エアロビック連盟(JAF)によると、起源はアメリカのケネス・H・クーパー博士が1967年に提唱した運動処方理論「エアロビクス」。その後に派生した「エアロビック・ダンス」がスポーツ(種目)として発展したものだ。
いわゆる健康のための運動は「エアロビクス」で、スポーツ種目としては「エアロビック」と呼ばれている。音楽に合わせて動作を行い、採点の対象は芸術性、技術、難易度などだ。
◇世界規模のスポーツ
さて、その「エアロビック」は、あまり知られていないようだが、世界約80カ国・地域で行われている世界規模のスポーツだ。「スズキワールドカップ世界エアロビック選手権大会」をはじめ、国際体操連盟(FIG)ワールドチャンピオンシップの国際大会が開催されるなど、オリンピック種目を目指すまでになっている。
日本では1984年に「第1回全日本エアロビック選手権大会」が開催された。国内の競技人口は2420人(2012年3月現在、JAF選手登録数)という。
4月末には「スズキワールドカップ2012第23回世界エアロビック選手権大会」が東京都渋谷区の東京体育館で、18カ国・地域、164人の選手が参加して行われた。
その中の日本代表選手のひとり、大村詠一選手(26)。2002年、03年に世界選手権のユース部門で2連覇、08年には一般の部男子シングル部門で日本一となり、現在も日本のエアロビック界を背負う主力選手の一人だ。
大村選手は1型糖尿病の患者でもある。小学2年生の時、発症した。1型糖尿病は血中の糖の量(血糖値)を抑えるのに必要なインスリンが分泌されなくなる病気。いわゆる生活習慣病といわれる2型とは違うものだ。1日に数回自分でインスリン注射をして血糖値を管理し、大会に臨んでいる。エアロビの魅力について「自分の好きな音楽や音楽のビートに乗せて自分自身を自分の身体だけを使って表現できること」と話す。
◇「笑わないと」は誤解
大村選手によると、現在、オリンピックの正式種目にという動きがあることもあって、国を挙げて強化に取り組むようなところも出てきている。しかしながら、日本では選手を続けていても満足なサポートを受けることはできず、国外国内を問わず遠征費は自費で負担するという、他のアマチュアスポーツと同様な問題を抱えている。
「もっと競技エアロビックが認知され、国からのサポートは難しくとも個人などにスポンサーが付き、思う存分競技に打ち込めるような環境の整備を求めています。そのためにも、マスメディアへの露出やソーシャルメディアの活用により『きつくても笑わないといけない』などの誤解を解きながら、競技エアロビックの魅力や、一般の方にもできるエアロビックを伝え、エアロビック界全体の認知度を上げていくことが必要であると感じています」
◇手軽なエアロビック
一方、音楽にのって手軽にできるエアロビックは、「いつでも」「どこでも」「誰にでも」できる全身運動という特徴から、生涯スポーツとしての人気も高まっている。首都圏だけではなく、地方でも盛んだ。特に九州はユース層が厚いといわれ、熊本出身の大村選手を始めとして、有力選手が輩出している。
4月にスズキジャパンカップの県大会が行われた福岡県。予選終了後、60分のエアロビックマラソンがあり、インストラクターの動きにあわせて、約80人が演技をした。マラソンだけに参加した一人、楢原さくらちゃんは小学2年生。予選を突破した強豪選手に交じって踊った。
福岡県で指導を行っているインストラクターで健康運動指導士の上野美智子さん(CPC所属)は生涯スポーツとしてのエアロビックの魅力を「幅広い年齢層が参加できるスポーツ」と話す。上野さんの生徒は、2歳から85歳までに及ぶ。
「子供たちには、エアロビックを通して心も体も強くなってほしいと思って指導しています。特にごあいさつ、人の話を聞く、自分のやるべきことを自分で考える、などです。小さな子でも、言えばわかってきます」
一方、「大人は人生を楽しむために運動を続けている」という。
「皆さん明るく前向きな方が多いです。大人も子供も教室がふれあいの場所にもなっていると思います」
(平井一生)