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ことば談話室

暑中見舞い――たまにはカモン・メール!

小汀 一郎

 夏に弱い人にとっては、好ましい滑り出しの東京の7月でしたが、いよいよ暑さも本格化してきました。

 この時期になると、慌てて、年賀葉書やお年玉付年賀切手の当せん番号を調べます。夏休みの宿題を8月も残すところ2日となってから渋々ほぼゼロから始めることもありましたが、それに比べれば大して手間もかからないことを、今頃やるあたりが、怠け者ということなのでしょう。

 郵便局に出かけ、期限間近の当せん番号一覧の紙を受け取らねば――。

 入ってみたら、もう暑中見舞い用のかもめ~るの売り出し中でした。

 ◇だぶつく? かもめ~る 

 かもめ~るは、夏のおたより郵便はがきの愛称です。

 夏のたより用の郵便はがきとして初めて発行されたのは1950年。当初はくじのないものでしたが、86年にくじをつけたことをきっかけに、愛称をつけることに。広告会社の電通に、当時の郵政省が頼んで、考えてもらった名前だそうです。

 「カモン・メール(メールよ来い)」「カモメ・メール」にひっかけたのだとか。86年は大変な売れ行きだったようです。

 暑中見舞いは二十四節気の小暑(7月7日)から立秋(8月7日)前、残暑見舞いは立秋を過ぎてから8月中に届くように送るのが一般的だとか。

 今まで、かもめ~るをちょうだいしたことはひと夏1枚あるかないか。かつて何枚か、出した記憶はありますが、自らの筆無精が招いているということなのでしょうか。

 そういえば何年か前の今頃、郵便配達の男性が、書留を届けにきたついでに、かもめ~るを「売り込み」。手紙はあまり書かないのでと、丁重にお断りしたのですが、そもそもその男性だって、毎年どの程度、かもめ~るを使っているのやら。逆に聞いてみるべきでした。

 新橋の金券ショップをのぞいてみると、複数のお店で、かもめ~るを売っていました。暑中見舞いも残暑見舞いもまだ出せる時期ではないのに、です。

 時期を過ぎた年賀葉書ならまだしも……。人気商品なら、郵便局では完売でしょうし、郵便局外で、定価よりも高く売っていても不思議はありません。なりゆきで、10枚買う羽目になってしまいました。

 1枚45円。1割安い。低金利が長く続く現在を思えば、やはり、あまり需要はないのではないかと推測してしまいます。

 ◇手書きであろうとなかろうと

丸善売り場拡大暑中見舞いのコーナーに並んだ便箋や封筒。朝顔のイラストが涼を呼ぶ=いずれも東京・日本橋の丸善、平井一生撮影
 それでは、暑中見舞いはかもめ~るにも私製はがきにも頼らず、封書などで出す人が多いということなのでしょうか。

 日本橋にある丸善に行ってみました。

 文具売り場の杉江誠さん(40)によれば、便箋や封筒が、この時期に多く売れるというような傾向はないとのこと。便箋が売れるのは、むしろ春だそうです。入学や入社、転勤といった節目に一筆ということではないかとの見立てでした。

 さすがに、毛筆で墨痕鮮やかにとまではいかないにしても、手書きというスタイルがすでに珍しい時代になったということでしょう(新聞にしても、手書きの原稿など、私は入社以来、作業中に見たことがありません)。

お手本拡大暑中見舞いコーナーの「お手本」。たまには手書きのお便りもいいのでは
 だからといって、インクジェット対応の葉書もあちこちの金券ショップで売られていることからすると、どうやら、暑中見舞いや残暑見舞いという風習そのものが廃れているようで、私個人の問題ではなさそうです。

 かもめ~るの今年の当初の発行枚数は、2億3千万枚。日本人が1人2通は出さないと、余ってしまう量です。

 正月に私のところに届く年賀葉書類は数十通。夏の葉書は、かなり苦戦しているといっていいでしょう。

 ◇「ふみの日」とも時期重なる

 一方、小暑と立秋の間に割り込むように、23日には、ふみの日にちなむ切手が発行されます。

 1979年に、郵政省が毎月23日を「ふみの日」としたのが始まりで、23を「ふみ」と読ませ、文月(ふみづき)である7月に、切手を出すわけです。毎月であることを忘れてしまいそうですし、かもめ~ると競合しているような……。

万年筆2本拡大万年筆でのお便りはいかが? 奥は軸が天然素材で、手書きというスタイルには、使うとぬくもりを感じさせるものが似合う。手前は大量筆記を想定した一本。ペン先に近いほうに重心があるようにつくられているので、疲れにくいという。多くの人に長い手紙を書く向きにふさわしい
 78年の朝日新聞の天声人語は、ふみの日を、知らない人の方が多いだろうとしています。東北や東海など、2、3の地方の郵便局が、毎月この日を「ふみの日」として、人々にもっと手紙を書こうと呼びかけている日で、大々的なキャンペーンをやっているわけではないとも書いています。しかも、国民の「手紙離れ」が進んだともいえる、ともしています。

 30年以上前から(私は小学3年生でした)、手紙というものは衰退していたわけです。

 ちなみにこの「文月」。暑くて眠れないから「不眠月」、から転じたのではありませんが(古文の先生が、覚え方として教えてくださいました)、語源には諸説あります。

 稲の穂のふふみづき(含月)から転じた、稲の穂を見るほみづき(穂見月)が元だ、七夕に詩歌の文(ふみ)を供えるところから言われるようになった、7月に書物を虫干しすることに由来する、などなど。

 暑中見舞いなどをたくさん書いてほしいであろう、日本郵便にしてみれば、ふみの日は、手紙を連想させやすい、詩歌や書物起源説をとりたいところでしょう。

スケルトン万年筆拡大軸が透明な万年筆。水や氷を連想する人もいるかもしれない。夏向きか
 そういえば、小学3年生当時の担任の先生。手紙を書くのはいいが、ポストが遠くて出しに行けないので書かなくなる、といったことを以前書いてこられました。

 郵便配達のかたも、かもめ~るの売り込みをするなら、お年寄りの手間を考え、投函作業を代行するぐらいすればいいのに。

 一方、身内は、そもそも暑い最中に手紙などを書いていたら、体調を崩してしまうという見解。確かに、暑中見舞いどころか、本当の見舞いを受ける側に、あるいは、見舞いのはずが、見舞った側も倒れるということにもなりかねないかもしれない。なにしろ、文月7月といっても、当時は太陰暦。今の9月あたりで、暑さも過ぎていることが多かったでしょうから。

 語呂合わせがきっかけだとしても、知り合いに手紙をしたためるのは悪いことではありません。

 さて、買ってしまったかもめ~る10枚。汗がぼとぼと落ちるようなことのない場所を探して、有効に使うとしますか。

(小汀一郎)