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ことば談話室

空にビーズを求めて――充実の天文ゴールドイヤー

 「天体ショー」と聞くと、なんだか心躍りませんか。日食とか月食とか、彗星(すいせい)とか流星群とか――。私はかなり、躍るんです。

 今年は「天文ゴールドイヤー」とも呼ばれた特別な一年。金星の太陽面通過、月の金星食、そしてメーンイベントであった金環日食と、夏のオリンピックも顔負けの「金」ラッシュでした。

 今月17日には「しし座流星群」が観測のピークを迎えます。天文学に詳しいわけでは全くないのですが、「○年ぶりの皆既月食」「今夜、流星群ピーク」といったニュースに触れると、見ておかなきゃという思いについ駆られてしまいます。

 夜空を走る流れ星に遭遇すると、えも言われぬロマンを感じます。それが流星群ともなると、1時間に何個も……。まるで、ばらまかれた色とりどりのビーズの中を、輝くビーズがはじかれていくようにも見えます。

 そして何と、5月の明るい朝にあった金環日食でもビーズが見られました。「ベイリービーズ」というしゃれた呼び名。なるほど「とっても(きれいな)ビーズ」かあ……。いや、それは私の誤訳でした。

 ●日食の朝に輝いたビーズ

ベイリービーズ拡大香川県東かがわ市で観測された金環日食。右下にベイリービーズ=2012年5月、佐久間泰雄撮影
  ベイリー(ズ)ビーズ(Baily’s beads)は、皆既や金環の日食のさい、太陽と月の縁がちょうど重なる瞬間に、山やクレーターなど月の表面のでこぼこを反映して金色の輪が切れ、丸い輝きの連なりが見える現象です。「日本国語大辞典」(第2版、小学館)には「ベイリーの数珠」の見出し語で挙がっています。

 ベイリーというのは、この現象の仕組みを科学的に解明した英国人、フランシス・ベイリー(Francis Baily、1774~1844)の名から取られています。天文学者であるベイリーが、1836年5月に金環日食を観測した時に目の当たりにして「輝くビーズの鎖のような列」と例えたことに由来するのだといいます。

 このベイリーが興味深いのは、もともと学者ではなかったという点です。

 わが社の先輩記者(元科学部長)でもある「日食ハンター」、武部俊一さんの著書「完全ガイド 皆既日食」(朝日新聞出版)などによると、ベイリーは銀行家の子として生まれ、株式取引所に入って株取引を生業としながら天文学を学んでいました。仲買人として財産を築いてロンドン天文学会の設立に関わり、50歳を過ぎてようやく天文学者として研究に専念したというのです。

 それから10年ほどの62歳になって「ビーズ」に着目し、こうして今日まで世界的に名を残しているんですね。

 ●観測グラスそのものが貴重

 ベイリービーズは、ただ美しいだけではありません。今回、学術的にも期待を抱かれていました。地球から1億5千万キロ離れた太陽の正確な大きさを測る材料としてです。

 日本国内の数カ所で一斉にビデオで撮影してデータをとり、分析の結果、太陽の半径は「69万6010キロ(誤差20キロ)」だと天文学者らが発表しました。

 太陽の大きさなんて、すでに判明していると思っていましたが、これまで周りの炎やまぶしさのせいで輪郭がはっきり分かっていなかったんですね。ベイリーさまさまです。

 ただ、天体ショーとして日食を観測する上で残念なのは、目で直接ながめてはいられないということです。

日食グラス拡大大人気だったビクセン社の日食グラス。次の出番はいつだろう
 今回の金環の見どころは朝7時半ごろでしたが、登校前後の子どもたちだけでなく、出勤途中のビジネスパーソンの皆さんも、交差点や陸橋の上、電車の窓からも、おもむろに専用の「日食グラス」を掲げて太陽に目をやっていました。

 私の職場の同僚も、前夜に子どもにせがまれてグラスを買いに出たものの、どの店も売り切れ。ツイッターの情報を頼りに、夜中になってようやく離れた街のコンビニエンスストアで見つけたそうです。

 金環日食の国内での観測は、1987年の沖縄以来25年ぶり。関東の大部分では173年ぶりでした。国内で次となると18年後に北海道で。今回と同規模で日本の広範囲から見られるのは300年後です。そう考えると、多くの人を引きつけたのも当然でしょう。日食グラスというものだけでも、文化的に貴重だと言えると思います。

 ●願い事し放題の流星群

 日食に比べたら、流星群は比較的たやすく、肉眼でも観測できます。

 流星群の生みの親は彗星です。彗星がまきちらした固体の微粒子が、地球の軌道にぶつかって入ってこようとすると、大気との摩擦で光を発し、流れ星のように見えます。放射の中心となる星座の名をつけて呼ばれます。例えばオリオン流星群なら、オリオン座のあたりを探すと見つけやすそうです。

 「天体観測の教科書 流星観測編」(マーチン・ビーチ著、長谷川一郎+十三塾訳、誠文堂新光社)によると、3大流星群といわれるのが、1月のしぶんぎ座、8月のペルセウス座、12月のふたご座。これらは毎年安定して見られるので、「定常群」とされています。

 一方、今月17日のしし座流星群は、数年から数十年ごとに活発になる「周期群」の部類に入ります。

 国立天文台(東京都)に聞いたところ、実は今年も、さほど多くの流れ星の観測は期待できないそうです。

流れ星拡大岩手県の「奇跡の一本松」に降り注いだ昨年のふたご座流星群の流れ星=2011年12月14日、小川智撮影
 何を隠そう、私が天体ショーに興味を高めたきっかけが、2001年のしし座流星群の大出現でした。岩手県に赴任していた頃です。

 自宅のベランダから見上げると次々と、ボッと燃えて落ちるように消えたり、筋を引いて右から左へ流れたりして、花火大会でも見るように歓声を上げながら満喫したものです。

 岩手では、いま住む東京23区内とは比べものにならないほどの満天の星が見られました。ある夜、花巻に近い温泉地から盛岡に帰る途中の山道で、見たこともない大量の星くずが空いっぱいに広がっていました。きれいを通り越して、恐ろしささえ覚えたほどです。

 花巻にいた宮沢賢治も、きっとこんな空を見上げてイマジネーションをかき立てられたんだろうなと想像しました。東京だと1等星や2等星から星座の姿を想像するしかないですが、岩手では確かに「さそり」や「てんびん」が像として見える気がしました。

 こんな条件の下で見られた流星群ですから、願い事も、し放題でした。全部がかなったかは……ナイショですが。

 今年も残り1カ月半となりましたが、国立天文台に今後の注目の天文イベントを尋ねました。11月27日、明け方に東の低い空で、金星と土星が大接近します。12月14日の前後には、ふたご座流星群も期待できます。同月26日前後には木星と月が並ぶんだとか。

 最近ではネット生中継も盛んですので、ぜひ一緒に、ビーズがはじけるような神秘の天文ショーを眺めていきましょう。

(広瀬隆之)