メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ことば談話室

「ワット」さん、あなたの正体は?

佐藤 司

 18世紀の英国で蒸気機関を完成させたのは、ジェームズ・ワットです。この蒸気機関が工場での大量生産を生み出し、産業革命を発展させる原動力となったのはご存じの通りです。

 ワットは蒸気機関の働きを数字で表そうと、馬力という用語を最初に使って、動力を測定したことでも知られます。のちに彼の功績をたたえ「ワット」の単位が生まれました。

 今年ほど、このワットということばを目や耳にする機会が多かった年はなかったのではないでしょうか。夏の節電期間や秋の電気料金の値上げ(東京電力)にまつわるニュースに、「○○ワット」や「○○ワット時」の単位がよく登場しました。

 ワットは、電気に使われる単位として聞き慣れたことばですが、なかなか実感しにくく分かりにくいものです。そこで、専門家の協力を得て、単位の正体を探りました――。

 ●電力と電力量どう違う

 「(1)照明を点灯する(2)扇風機のモーターを回す(3)電気ストーブを熱する――このように電気が(1)光(2)動力(3)熱といったエネルギーになるのを、電気が仕事をするといいます」

 こう話すのは、東京電機技術高等専修学校講師の福田務さん。電気が仕事をする能力を表す尺度が電力で、単位はワットを用います。電気製品にはワット数が記されており、使われる電力を消費電力と説明します。

 わが家の主な家電の消費電力(最大値)をみると、もっとも大きいのが電子レンジと電気ケトルの「1450ワット」、次に炊飯器「1400ワット」で、天井照明「74ワット」や扇風機「30ワット」と小さくなります。スイッチを入れると電気は仕事を始めて、お湯を沸かし、ご飯を炊き、部屋を明るくし、風を起こします。ワット数が大きい機器ほど、短時間で大きな働きをするのが分かります。

 福田さんはもう一つの単位を説明します。

 「電気が仕事し続ける時間がどれくらいかで仕事の量が分かります。その量を表す尺度が電力量で、単位はワット時を使います」。電気製品の消費電力と使う時間の積になると話します。

 たとえば、30ワットの扇風機を1時間使えば「30(ワット)×1(時間)」で30ワット時、2時間なら「30(ワット)×2(時間)」で60ワット時の電力量を消費するといいます。使われる電力量を消費電力量と呼びます。

 ●冷蔵庫、意外に少ない電力量

 冷蔵庫には、この消費電力量(ワット時)が表示されています。24時間365日働き続けるため、常にフル稼働する機器とは異なっているようです。庫内を冷やす圧縮機は周囲の温度や扉の開閉状況に応じて動くので、実際の稼働に近い消費電力量を想定し、1年間の数字を目安として示しているそうです。

 わが家のものは160キロワット時。1時間あたりの値は「160×1000÷365(日)÷24(時間)」で約18ワット時となり、扇風機のほぼ半分になる計算です。

 電力(ワット)と電力量(ワット時)の単位は似ていて紛らわしいです。二つの単位の関係について図で説明するのは、「でんきの科学館」(名古屋市)の伊藤圭介さん。電力を面積、電力量を体積として考えるとイメージがわきやすくなるといいます。

図拡大
 その図(右)を見てみましょう。電力の大きさは平面の面積で示し、時間に左右されず常に一定であるといいます。一方、電力量は面積に時間を掛けた体積で表し、その空間に入る総量のことだと説明します。100ワットの電力と100ワット時の電力量とでは、同じ数字でも表している量が全く違うことが一目で分かります。

 電球の明るさで考えると、消費電力が100ワットであれば、1時間使っても2時間使っても能力を示す100ワットの明るさは変わらず、点灯することで消費される電力量は1時間で100ワット時、2時間で200ワット時と時間経過にともなって変化することが視覚的に理解できます。

 ●新聞にも混同した表現

 ワットは電気を消費する能力を示すのと同じように、電気をおこす能力にも用いられます。

 最近では太陽光発電を取り付ける施設が多くなりました。発電機の能力を説明するなかで、こんな表現を新聞などで目にすることがあります。

 「1時間で最大○○キロワットの発電ができる」――多くの専門家はこの説明では何の量を表しているのかが分からないといいます。

 伊藤さんは、こうすれば意味が通じると教えます。発電できる能力を表すのなら、時間を示す必要がないので、単に「最大○○キロワットの発電ができる」でよいといいます。

 次の表現はどうでしょうか。「発電機1基あたり200キロワット時を発電できる」――いっけん問題なさそうに思えますが、不十分な説明だと言うのは、大阪市立科学館の長谷川能三(よしみ)さん。「職人1人あたり200個の部品を作ることができる」という職人の生産能力にたとえて説明します。「200個の部品を作るのに時間がどれだけかかるのか全く分からないので、注文を納期まで間に合わせられるのかが不明です」といいます。

 電力中央研究所(本部・東京)広報の渡辺准(ひとし)さんに二つの単位をまとめてもらいました。「能力を示すワットの単位は(厳密な意味を除いて)時間との関係がないため時間経過の表示は不要ですが、電気の量を示すワット時の単位は時間と連動するため、時間経過を明確にする必要があります」

 二つの単位で適切とはいえない表現がみられることについて、長谷川さんは「日常会話でお互いに知っている単位なら一部を省略しても意味が通じますが、電気は目に見えないだけにワットとワット時を別の量だと知らないで単位を混同している可能性がある」と推測しています。

 さて、ワットの正体――。それは蒸気機関を含めたエンジンや機器が仕事する能力、つまり性能のことだったのです。私たちはその性能に応じて電気を使った時間分だけ電力会社から料金を請求されていることが分かります。

(佐藤司)