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ことば談話室

パパ、わらって!――イクメンドタバタ奮闘記

桑田 真

 「ほら、靴下はきなさい!」

 「歯磨きするよー。こら、逃げないで」

 あわただしい朝。走り回って逃げる2歳の長女を追いかける。片や、1歳の長男はゴミ箱をひっくり返して遊んでいる。なんとか身支度を済ませたら、長男を背負い、長女を担いで保育園に向かう。

 夫婦共働きの我が家では、朝の送りは私の役目だ。

 通園に必需品の電動アシスト付き自転車は、重量オーバーなのかキイキイとつらそうな音を立てる。別れ際、「パパ、いってらっしゃーい」と手を振る子どもたちの笑顔を見れば、今日もがんばろうと思う。

 私は今年1月から約1カ月間、育児休暇を取った。同じ部署内で取得した男性は初めてだった。

 すっかり定着した言葉を使うなら、私は「イクメン」の一人ということになるだろうか。

 ●増えるイクメン、広がるイクメン

 「イクメン」は、育児に積極的に参加する男性という意味で、男性の容姿について言う「イケメン」をもじった語。2006年、広告会社の父親たちが生み出したそうだ。父親の育児参加を促し、少子化の歯止めにしたい、という思いがあったという。

 10年には年末恒例の「ユーキャン新語・流行語大賞」でトップテン入りした。このとき、イクメンを代表して表彰されたのはタレントのつるの剛士さん。4児の父で、この年、2カ月間の育休をとった。

 世の中にもっとイクメンを増やそうと、官民挙げて様々な活動が行われている。

登録証拡大イクメンプロジェクトのホームページで発行される「イクメン登録証」
 厚生労働省は10年6月、「イクメンプロジェクト」を立ち上げた。「社会全体で、男性がもっと積極的に育児に関わることができる一大ムーブメントを巻き起こす」ことを目的としている。プロジェクトのサイトに「子供たち大好き」「育児を楽しむぞ!」など、父親たちの「イクメン宣言」を掲載しているほか、子育てについてのシンポジウムを開催するなどしている。

 最近では育休を取る自治体の首長が続出して話題になった。三重県の鈴木英敬知事や広島県の湯崎英彦知事のほか、東京都文京区長、大阪府箕面市長が3日から2週間程度、公務を休んで育児に専念した。トップ自らが取ることで、職員らの取得を促したり、子育ての環境整備をアピールしたりする狙いもあるという。

 育児に携わりたいと思いながら何からしていいかわからない、というイクメン志向の男性のためには、NPO法人などが様々な活動を提供している。

 「エガリテ大手前」(東京)は「男2代の子育て講座」を各地で開催している。赤ちゃんの風呂の入れ方、おむつの替え方、離乳食の作り方などを学び、修了すると父親は「パパシエ」、祖父なら「ソフリエ」の認定証がもらえる。

 また、書店の男性誌コーナーには「イクメン専門誌」も置かれている。子育て中のハリウッドスターや、カラフルな育児グッズが紹介されている。

 ●育休ライフ優雅に…甘かった

 私が育児休暇を取ったのは、2人目の子が生まれた後だった。長女が生まれたばかりのとき、寝不足になりながら奮闘する妻の姿をみていた。長男が生まれて子育ての負担が増す今回は、自分が力になろうと思った。

 一方で正直に言えば、ため込んでいた本を読んだり、学生時代の仲間と会ったりする時間をつくれるだろうとも踏んでいたが、甘かった。

 当時、長男は生後3カ月。機嫌が悪いと、おむつを替えても、ミルクを飲ませても、抱っこしても泣きやまない。掃除や食事の準備、長女の保育園の送り迎えとこなしていくと、一日はあっと言う間に過ぎていく。子どもたちを寝かしつけながら、自分も寝てしまうこともしばしばだった。新聞もじっくり読めず、社会から隔離されているような気さえした。

 1カ月間たっぷり育児に携わったとはいえ、私がやると段取りが悪く、妻のようにスムーズにはいかない。パパ、パパといつも甘えてきてくれた長女も2歳になり、いわゆる「イヤイヤ期」になった。気に入らないことがあると漫画のように寝転がって駄々をこね、「パパきらい」と言い放つ。ショックで悲しくなり、その口ぶりにいらだつこともある。英語でも「terrible twos」(魔の2歳児)というそうだ。

 手ごわいのが、子どもたちが運んでくる病気だ。復帰してしばらく経ち、家族4人で感染性胃腸炎にかかった時は布団から起き上がれなくなり、入社して初めて仕事を休んだ。以来、子どもの体調には敏感になったが、「保育園に預けられないと、仕事に支障が出る」という意識が先に立ち、そんな自分が後ろめたく感じられる。

 ●親のことば、しっかり子にも

 最近の楽しみは、どんどん達者になっていく子どもたちのおしゃべりを聞くこと。毎日驚かされ、新鮮な発見がある。

 言語学者の中には、子どもが生まれるのを機に、我が子を研究対象とした「言語習得」にシフトする人もいるという。子どもは、英語が話される環境で育てば英語を、日本語を浴びて育てば日本語を話すようになる。当たり前のことだが、言い換えれば、生まれたばかりの赤ちゃんはあらゆる言語の「音」を聞き分ける能力を持っているということでもある。

絵本拡大絵本を読み聞かせる筆者と子どもたち。われ先にとひざの上に飛び乗る
 長女はかなりまとまった文章を話すようになった。聞いていると、私の出身地のことば(青森県の南部弁)の抑揚で話していることがある。南部弁ではテレビ番組などが放映されるという意味で「入る」というが、長女は「アンパンマン、きょう、はいるかなあ」と「正しく」使っている。親が話すことばを、なまりを含めて長女はしっかり習得しているようだ。

 「イクメン」のほか、派生語の「イクジイ」(育児をするおじいさん)もメディアに取り上げられるようになった。また、育児に限らず家事を積極的にこなす「カジメン」や、見た目を含めた「イケダン」(イケてる旦那さん)なども、女性誌に躍る。

 私の場合は毎日ドタバタでストレスもたまり、カタカナ語の響きが醸す格好良さとは無縁だ。感じのいいことばでくくられることに多少抵抗感を覚えるが、子育てへの関心が高まり、社会全体の意識が変わってくるのなら、これらのことばも一定の役割を果たしていると言えるのだろう。

 いたずらについカッとなったときや、考え事をして浮かない顔をしていたとき、長女に「ねえパパ、わらって」と言われ、苦笑いしてしまった。子育てをしているのか、こちらが育てられているのか。

 ただ、ひとつわかってきたことは、正面から向き合っていれば、子どもたちはとびきりの笑顔をみせてくれるということだ。

 笑うときも泣くときもいつも一生懸命な子どもたち。来年はどんな新しい発見があるのだろう。イクメンとして負けずに応えていきたい。

(桑田真)

 

  ※1月3日、10日の更新は休ませていただきます。次回は1月17日に更新します。