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ことば談話室

ロードショー ―― 都市から地方の「道」消えた?

松本 理恵子

 先日、周りで評判のよかったミュージカル映画「レ・ミゼラブル」を、レディースデーの水曜日に思いついてふらっと見てきました。映画館に行くのは約半年ぶり。

 学生時代はまあまあの映画好きのつもりで、就職活動のエントリーシートにも趣味は「映画鑑賞」と(ベタですが)書いた記憶があります。でも社会人になってからというもの、もっぱら自宅でのDVD鑑賞で、映画館にはあまり行かなくなってしまいました。

 映画館で本編が始まる前に見る予告編も好きなのですが、近日公開の映画を「3月 全国ロードショー」「13年春 全国一斉ロードショー」と紹介するのを久しぶりに見て、「そういえば『ロードショー』って変じゃない?」とふと疑問を抱きました。

 「ロードショー(road show)」は言葉からすれば、旅をしながら物語がすすむ「ロードムービー」のように、「あちこちを巡って」の意味があるはずではと思ったからです。一作の映画が色々な地方の映画館を巡回するイメージです。

 でも、いまの「ロードショー」は単に「初公開」の意味で使われているように思います。もらってきた映画のチラシを見ても「○月△日公開」と「公開」を使っているものは少数で、「ロードショー」がだんぜん多数派。全国で同時に公開される映画も多いですが、これも「ロードショー」。各地を転々としているわけではないのに……?

 ●「独占」「先行」の高級感

 「ロードショー」は元はアメリカの演劇用語。ブロードウェーで上演する前に、地方で試験的に興行することを指しました。それが映画界に入ってきて、「都市部での先行上映」という意味に転じたのです。都市部で上映して人気があれば地方でも、というわけです。

 複数の辞書をひいてみると、なんとなく「答え」がみえてきました。

 大辞泉(第二版、2012年、小学館)によると、(1)映画で、一般公開に先だって、独占的に特定の映画館でのみ上映すること。先行上映(2)映画の初公開のこと。封切り、とあり、補説で「(2)は日本での用法」としています。また、広辞苑(第六版、2008年、岩波書店)では、「(もと演劇の宣伝のために路上で予告上演したことから)一般の封切りに先立って特定の劇場で行う映画の独占興行」とあります。

 今では意識されていないように思われる「独占的」「先行上映」というキーワードが並んでいます。

 「初公開」「封切り」は日本での使い方なのですね。ちなみに「封切り」は一説ではフィルムの缶の封を切るところからきているんだとか。

 日本でも、当初は「一般公開に先行して行う特別上映」という意味で使われていました。

 日本初の「ロードショー上映」は1936年の東京日比谷映画劇場での「真夏の夜の夢」とされています(「昭和・平成家庭史年表1926→2000」河出書房新社)。当時の朝日新聞の紙面には大きな広告が載っており、確かに「一般封切は、此のロオド・ショウ(特別公開)の半年後でなければ絶対に行ひません」と書いてあります。

すばる座拡大有楽町のスバル座の看板には「ロードショー発祥の劇場」の文字が。当時の劇場は火事で焼失してしまった
 そして、戦後に「本邦初のロードショー劇場」をうたい文句に誕生したのが東京の「有楽町スバル座」。1947年に公開された「アメリカ交響楽」は、邦画の封切りが10円だったころに、25円とかなり高額でしたが、前売り券はすぐに売り切れたそうです。

 当時の邦画は、数本立て、自由席が一般的。一方、「ロードショー」は大劇場で、1本のみの上映、高めの料金、指定席、などの特徴があり、世間の注目を集めたことが想像できます。

 また、戦後まもなくで、映画を通して外国の暮らしを知った時代。この頃、「ロードショー」は「洋画」に使う言葉でした。「ロードショー」には高級感や特別感が漂っていたのです。なんだか今とは大分違っています。どうして変わってしまったのでしょうか。これには日本での映画の移り変わりを見る必要がありました。

 ●ヒット作増え、単に「公開」

 今でこそ、大作といわれる作品は都市部をはじめとして全国で一斉に公開されることが多いですが、戦後の一般的な興行スタイルは、都市部の大映画館での特別料金での上映(ロードショー)→2番館→3番館→地方の映画館、という流れでした。

チラシ拡大新作映画のチラシには「ロードショー」の文字が並ぶ
 その後、1970年代になると、「エクソシスト」や「ジョーズ」などの大ヒット作があらわれ、上映をする映画館の数が増えます。全国の100館以上の規模で同時期に公開される映画も出てきました。このことを「全国ロードショー」「拡大ロードショー」などと言うようになり、「先行」「独占興行」という意味合いが薄れ、ロードショーは単に「封切り」「公開」の意味で使われるようになったのです。

 映画ならではの言葉で、かつ、華やかなイメージがあるので、意味を変えつつも言葉は残ったということでしょう。1972年創刊の映画雑誌「ロードショー」(集英社、2008年に休刊)の名からも、映画を代表する言葉だったことがうかがえます。

 では、ロードショー発祥の地アメリカでは今はどんな意味で使っているのでしょう? ロングマン現代英英辞典によれば、

Road show=a group of people who travel around the country entertaining the public, advertising, or providing a service

 どうやら、テレビや雑誌、企業や政治団体の集会まで様々なイベントの「地方巡回」の意味で使われるようです。私がイメージしたものに近いです。アメリカでは映画を取り巻く環境の変化の仕方が違っていたので、「初公開」の意味は生まれなかったのかもしれませんね。

 ●ことばも移ろう映画界

 もう少し、「ことば」を通した映画界の動きを追ってみましょう。

 「ミニシアター」の隆盛は1980年代。人々の映画の好みが多様化し、いわゆる大作ではないものや芸術性の強い作品などを上映する映画館がでてきました。単館系とも呼ばれ、独自に上映作品を選んでいます。

 ミニシアターで上映されて人気が出ると、他の映画館に拡大していくことも。1館で公開して、その後各地で順次公開する。ロードショーの以前の使い方がしっくりくるのはこちらかもしれませんね。

シネパトス拡大銀座で唯一の「名画座」として親しまれた銀座シネパトス。地下道に劇場の入り口がある。3月末に閉館する
 映画通は「名画座」もはずせないでしょう。旧作を2本や3本立てで低めの料金でみることができる映画館ですが、現在では惜しまれながらもだいぶ姿を消してしまいました。

 そして、今は「シネコン」の時代。シネマコンプレックスの略語です。1カ所に複数のスクリーン(日本映画製作者連盟の基準では5以上)を持つ映画館で「複合映画館」と訳されます。北米発祥で、日本では1990年代後半に急増しました。

 映画はテレビの誕生やビデオ、DVDなどライバルたちに存在を脅かされつつも、今も変わらず私たちの娯楽の一部です。ただ、昔の映画の人気ぶりは今とは段違いだったんだなあ、と驚きました。日本映画産業統計によれば、1960年にはスクリーン数が7454もあり、年間の入場者数は10億人を超えていました。2012年のスクリーン数は3290(うちシネコンが2765)、入場者数は1億5千万人で、その差は歴然です。

 さて、久々に映画館で見た「レ・ミゼラブル」。大画面で映像を楽しみ、音楽に浸ることができました。映画館で初めて3Dを見た時も、その迫力にわくわくしたものです。次はどんな驚きに出会えるのか。「ロードショー」という言葉に胸を躍らせた時代に思いをはせながら、映画界を元気づけるためにも、たまには映画館に足を運ぼうと思います。

(松本理恵子)