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ことば談話室

イケメン=男前……か?

永川 佳幸

 先日、街中でこんな会話を耳にしました。
 「あの人、イケメンじゃない?」「え、どこどこ?」「ほら、向こうから歩いてくる人」「ホントだ。ヤバ~い」
 なにやら、学校帰りの女子高生2人が盛り上がっています。周囲に筒抜けの大声につられて、思わず彼女らの視線の先に目を向けてしまいました。そんなにテンションが高くなるほど「ヤバ~い」イケメンとはどれほどのものなのか、拝んでおいて損はありません。ところが、そこにいたのは予想に反してさえない印象の男性でした。美的感覚が人それぞれなのは分かっていますが、少なくとも私にはイケメンに見えませんでした。

 今どきの女子高生たちの間では、いわゆる「草食系」のおとなしそうなタイプの男性が好まれているのでしょうか。10以上の年の差に世代間のギャップを感じつつ、高校3年生である私の妹(17)に、最近の「イケメン事情」はどうなっているのか聞いてみました。すると驚くことに、「ブサイクという意味でイケメンと言う子もいる」と言うのです。

熊本城では、イケメン(二枚目)扮する武将隊が観光客を沸かせる=2012年8月25日、森田岳穂撮影拡大熊本城では、イケメン(二枚目)扮する武将隊が観光客を沸かせる=2012年8月25日、森田岳穂撮影
 若者言葉として誕生した「イケメン」が、世間で広く使われるようになったのは2000年前後と言われています。「いけている」と「Men(男性)」または「面」を組み合わせた俗語で、二枚目を意味する言葉なのは、いまや常識です。朝日新聞でも2000年代に入ってから紙面で使われるようになりました。当初は「イケメン」の後ろに「かっこいい男性」や「いい男」といった説明を補っていて、まだ十分に認知されていない言葉をどう伝えるか、書き手側の工夫が見受けられます。

 もともとは容姿に限って使われる表現でしたが、最近では、顔立ちよりも内面を重視した「性格イケメン」も登場。また、人間に限らず、整った顔を持つものはみな「イケメン」と形容されるようになりました。自慢のペットを褒める飼い主の「うちのワンちゃん、イケメンでしょう」をはじめ、長い歴史を持つ仏像もイケメンと非イケメンで片付けられる時代です。
 こういった流行語は「ナウい(今風の)」や「マブい(美しい)」などのように、時代の流れとともに使われなくなり、死語になりがちです。ところがイケメンは、マスコミなどでも多用された結果生き残り、広辞苑に「いけ面」として登録されるほど定着した言葉になりました。

 そんなイケメンがブサイクを意味する言葉として使われている……。言葉は生き物とは、よく言ったものです。
 インターネットの世界では、男前を指すイケメンと区別するために「逝け面」と表記されているようです。時事語や流行語などの新しい言葉を数多く収録している辞典「現代用語の基礎知識」(自由国民社)にも「逝け面」が掲載されていて、「いけてない顔。ぶさいくな男」と解説しています。
 言葉の持つ意味が本来のものから変わっていくことはままあります。文化庁が行っている国語に関する世論調査(2010年度)によると、「姑息(こそく)」の意味を問われ、本来の「一時しのぎ」と答えた人は2割弱。「ひきょうな」と答えた人は7割を超えました。もはや、どちらが正しくて、どちらが間違っているのか、一概には言えないほどの段階に来ています。
 現在、イケメンの意味は「男前」と思っている人が大多数でしょうが、数十年後にはそれが「ブサイク」に逆転しているかもしれませんね。

 イケメンからはさまざまな派生語も生まれています。例えば、育児に積極的にかかわる男性を意味する「イクメン」もイケメンが基になっています。
 そのほかにも、
 フツメン=ごく普通の男性
 ビミョメン=男前なのか普通なのか微妙な男性
 ブサメン=ブサイクな男性
 キモメン=気持ちの悪い雰囲気を持つ男性
 ジミメン=地味な男性
 ダサメン=ださい男性
 など数多くの「○○メン」が存在します。
 次々と新しい言葉を生み出す若者の造語能力には感心するばかりです。特に、いけていない顔立ちに関するものは多く、ザコメンやカスメン、ゴミメンのようなストレートすぎる表現もあります。もし、女性からそんな言葉を投げつけられたら、立ち直れそうにありません。
 これだけ多くの形容方法があるのに、イケメンをわざわざ本来とは正反対のブサイクという意味で使うのはなぜなのでしょうか。妹によると、「イケメンと言われて、ほめられたと思って喜んでいる人を内心で小バカにしたりする」そうです。そう言われれば、先の女子高生たちも妙にクスクス笑っていたような気がします。なんと恐ろしい。

(永川佳幸)