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ことば談話室

「痩せられそう」…その気にさせる、魅惑の名は

緒方 啓二

 ネット通販で本を買うことが多い記者は、6月の初め、久しぶりにリアル書店をのぞいてびっくりしました。入り口の平台に積まれた美容雑誌、つづきの書棚に並べられたダイエットの本・本・本。「言ったモン勝ち?」「そこまで言う!」。思わずツッコミたくなる書名やダイエット名が並んでいて圧倒されました。まったくもう、好き勝手言いたい放題じゃないですか? でも、そのネーミングは妙に心に残ります。夏はすぐそこ。あまたの美容・ダイエット本を眺めつつ、そのふしぎなタイトルのなぞに迫ります。(読んだらやせる? 読んでもやせません!)

◇ダイエット本、売れ行きは

 美容・ダイエットの本はどれだけ売れているのでしょうか。

 オリコンのランキングによると、2012年に、コミックと文庫を除いたBOOK(総合)部門の年間1位をゲットしたのは「寝るだけ! 骨盤枕ダイエット」(学研パブリッシング)でした。
 また、出版取り次ぎ大手の日本出版販売株式会社(日販)の調査では、同年の年間ベストセラーの総合トップ10に、「体脂肪計タニタの社員食堂 500kcalのまんぷく定食」(大和書房)や「DVD付き 実はスゴイ!大人のラジオ体操」(講談社)、「美木良介のロングブレスダイエット 必やせ最強ブレスプログラム」(徳間書店)といったダイエット関連の本が入りました。

 本屋さんには、いまどんなダイエット雑誌や本が並んでいるのでしょうか。兵庫県伊丹市のイオンモール伊丹にある未来屋書店伊丹店を訪ねました。

店頭のいちばん目立つ場所に付録付きのダイエット本や雑誌が並ぶ=2013年6月17日、兵庫県伊丹市、未来屋書店拡大店頭のいちばん目立つ場所に付録付きのダイエット本や雑誌が並ぶ=2013年6月17日、兵庫県伊丹市、未来屋書店伊丹店

 店舗入り口の真ん中にある平台にたくさんのダイエットの雑誌や本が積まれています。平台の隣につづく一角をぐるりと一周してみると、さまざまな書名が目に飛び込んできます。

 「女性力を高める薬膳ごはん」「ゴボウ茶若返りダイエット」「低糖質ダイエット」「タニタとつくる美人の習慣」「食べ順爆発ダイエット」「便活ダイエット」「巻くだけダイエット」「骨スイッチダイエット」「めん棒ダイエット」……。薬膳・ゴボウ茶・低糖質・食べ順・便活・骨・麺棒……。一見、混沌(こんとん)としすぎて、まとまり感がありませんが、そのネーミングの世界には大きく二つの系統があることに気付きます……食べもの系と運動系です。

◇定番キーワードは

 食べ物系では、ある食材をベースに、ほかの食材や、食材とは無関係な言葉が足された複合語が目に付きます。「薬膳ごはん」「ゴボウ茶」「えのき茶」などはなんとなく分かりますが、「たまねぎ氷」「トマト氷」や「酵素ごはん」「毒出しごはん」となると、だんだん想像できなくなってきます。でも、未知の領域の名称は、目にしたときのインパクトがそれだけ大きいともいえます。

 運動系は、「背骨ねじり」「仙骨ウォーキング」「股関節スローストレッチ」といった具合に、体の部位に動作を加えたものが基本のようです。これらのほか、「DVD付き 樫木裕実カーヴィーダンスで楽やせ!」「踊って即やせ! セクシーワークアウト」「5秒で細くなるくびれッチ」のように、書名を口にするだけで、自分にも簡単にやれるようなイメージがわき起こる錯覚誘起型のものもあります。

 「美人」「美○」という言葉もこの世界の定番キーワードで、「ザ・美女食材」や「発酵美人」という本を見つけました。「美人が発酵? シュールすぎ」とツッコまれ感ありすぎなネーミングです。この「美人」に、運動系の名前の要素、「部位と動作」がくっつくと、「子宮美人ヨガ」なる書名にもなります。ただ、こうなるとどんなダイエットなのか、タイトルからは見当がつきません。

 さらに目に付くのは「○○付き」「楽やせ」「即やせ」「必やせ」「即効」といった言葉です。楽やせ、即やせって、かなりあけすけで直截(ちょくせつ)的です。「必やせ」なんて初めて見ました。これは、「付録付きで、できれば楽にやせたい! 効き目もすぐ欲しい!」というユーザーのぜいたくな要求に応えたタイトルといえそうです。

 メディア、とくにテレビの力と芸能人ブランドはこの世界でも強力です。美木さんや樫木さんはさしずめ、その「テレビ力」「ブランド力」の代表といえないでしょうか。樫木さんは雑誌とテレビで知られるボディーメークトレーナー、タニタさんは体脂肪計付き体重計のトップメーカー、そして美木さんは自作の呼吸法によるダイエット指南が人気の俳優です。

 オリコン1位の骨盤枕さんは、からだの部位を示してアピールする「部位系」書名の代表といえます。

◇ネーミング、黄金のレシピとは

 さまざまな書名とダイエット名を見てきましたが、ダイエット本の題名に欠かせない要素が見えてきました。まとめてみましょう。

 ▼ダイエットの名前、黄金レシピ
 法則1.コレ食べてやせる、体のココでやせる……食材と体の部位がキモ
 法則2.テレビと有名人、鉄板です
 法則3.「だけ」と「できる」の甘美な誘い

 前世紀に流行した「紅茶キノコ」「りんご」「杜仲茶」「パイナップル」などに連なる「食材一点主義」はいまも健在で、特定の食べ物でやせるという手法は時代を超えて支持されているようです。また、背骨・肩甲骨・股関節といった体の特定の部分を使ってやせる、というワザにも訴求力があります。ストレッチすればたしかに気持ちがいいけれど、ふだんはなかなか動かさない――だれもが思い当たる、体のそんな日の当たらない部分であることも大事です。寝るだけ、押すだけ、巻くだけ、すぐできるといった単純で実行が簡単そうなキャッチコピーに強力な引力があることは言うまでもありません。

 本屋さんでの売れ行きはどうなのでしょうか。

 「体を動かすダイエットより、昨年売れた『寝るだけダイエット』のように、履くだけ、するだけという楽な方法を紹介した商品の動きがいいですね」。そう話すのは、未来屋書店伊丹店の笹本誠店長です。「薄着になるころからダイエットの本が出始めます。今年は、履いてやせるというスリッパやインソール(靴の中敷き)付きの雑誌や本が売れ筋です」

 お店では、目立つ場所にDVD付きのダイエット本を展示。本や雑誌をただ積み上げるのではなく、一冊の本を正面からも横からも表紙が見えるように、縦に立てたり、複数列に並べたりする「多面展開」のディスプレーをしてお客さんに見せるのだそうです。今年のスリッパ履くだけダイエットも、「いまは黒いスリッパですが、女性に好まれる別の色が用意されているので、今後に期待しています」と笹本さん。

◇かつてのベストセラーは

 ダイエットの悩みはずいぶん昔からあったようです。朝日新聞の古い紙面をみると、肥満に悩む芸者・鈴吉さんがやせるための妙法を探すさまが、1899(明治32)年2月2日付の東京朝日の朝刊に載っています。相談した薬屋の番頭に「健康に太る薬はあるがやせる薬はない。やせたければ、しゃちほこみたいに逆立ちをして太る薬を飲んだらどうか。効能があべこべになるかも」なんて言われて、しょげる姿が描かれています。

 やせる効用をうたう商品の需要も今に限ったことではありません。今からちょうど100年前、1913(大正2)年9月28日付の朝刊には「男女コエスギた人に害なくしてホソクなるヤセ薬を切手二銭御送りあらば詳報す」という「やせ薬」の広告が載りました。これはどうもみても詐欺っぽい文面で怪しいのですが、果たして効果はあったのでしょうか。

 戦後は数々のダイエット法がブームを呼びました。なかでも、書名でインパクトがあったのは俳優の川津祐介さんが出した「こんなにヤセていいかしら」でしょう。1988(昭和63)年11月、朝日新聞の朝刊連載「メディア社会の健康情報」は、同書が「七月五日の発売から二カ月後には百万部を超えた」と紹介。週刊誌のネガティブ報道の後も売れて、「発売部数210万部」と93年の週刊アエラが記しています。

◇大学生の人気は

アンケートに答えてくれた関西大学応援団バトン・チアリーダー部HELIOSのみなさん=2013年6月16日、大阪府吹田市拡大アンケートに答えてくれた関西大学応援団バトン・チアリーダー部HELIOSのみなさん=2013年6月16日、大阪府吹田市
 さて、実際に人気があるのはどんなダイエット本、ダイエット名なのでしょうか。大阪府吹田市にある関西大学の応援団バトン・チアリーダー部、HELIOS(ヘリオス)のみなさんに聞いてみました。宿敵・関西学院大との体育会系クラブの対戦、「総合関関戦」直前の準備で忙しいなか、回答に協力してくれたのは1~4回生の女子41人です。

 リアル書店に並んだダイエット本・雑誌などから、記者が集めた書名・ダイエット名61作品を示して、「やってみたい」ものと「ネーミングにひかれる」ものを尋ねました。

 グラフをご覧下さい。やってみたいダイエットとそうじゃないダイエットで大きな差が出たものがあります。断トツで「やってみたい」という支持を集めたのは「寝るだけ! 骨盤枕ダイエット」と「5秒で細くなるくびれッチ」、「一生太らない食べ方」「食べても食べても太らない食べ方」の4点です。

 みなさん、とっても正直ですね! 「寝るだけ/5秒で」という言葉の魔法にかかってしまったようです。「一生太らない/食べても太らない」という直球系のタイトルにも抗いがたい魅力があったようで、すっかり吸引されてしまったことが分かります。 

拡大「やってみたい!」と「ネーミングにひかれる!」の差の大きいものを抽出

 つぎに支持が目立ったのは、「食べて健康! タニタ式カラダのひみつ」「背骨・骨盤のゆがみ直しダイエット」「おっぱい体操 ブレスでふわふわ美乳&スッキリ腹凹(はらぺた)」の3点です。

 「タニタ式」はブランド系の強さを裏付ける結果でしょう。ブランド系の一派ともいえる「銀座の女医が教える! 魔法のくびれコルセット」にも支持が集まりました。アクロバティックな演技をチームで見せるチアリーダーのみなさんは、けがのリスクと無縁ではいられません。ふだんから体をケアする意識も高いため、「ゆがみ直し」の人気が高いのもうなずけます。「美乳&腹凹」はお年頃の必須メニューですよね。

 「やってみたい」より「ネーミングにひかれる」という声が多かった本もあります。

 「『空腹』が人を健康にする 『一日一食』で20歳若返る!」「実はスゴイ! 大人のラジオ体操」「からだが喜ぶ最強コンビ たまねぎ氷とトマト氷」の3点です。「20歳若返る/実はスゴイ/最強コンビ」という言葉が支持を集めたようにも見えますが、じつのところ、やってみるにはハードルが高く、魅力に欠けた結果かもしれません。スタンツやジャンプ、笑顔とパワフルなダンスで観客を魅了するチアリーダーに「一日一食」はあり得なかったに違いありません。

(緒方啓二)