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ことば談話室

ダンス――ジャンル超えて通じ合うハート

平井 一生

HUNGRY GIRLS拡大星美学園中「HUNGRY GIRLS」。中学生の放課後の一場面をダンスで表現。とにかく楽しそうな演技が印象に残った。AKBを中学生だけで構成するとこんな感じになるのでは、と筆者は思った
 「ダンス」という言葉からイメージするものはなんだろうか。ここ数年は「フラガール」の「ハワイアン」か。ある世代は運動会での「フォークダンス」であろうし、また別の世代は「社交ダンス」かもしれない。「サッカーのカズ(三浦知良選手)」というのもありだろう。筆者は「ジュリアナのお立ち台」だ。学生時代はいわゆるディスコ全盛期で、所属していたサークルは1店のワンフロアを借り切ってコンパをやるなど、バブルまっただ中であった。

 ◇いまの主流はヒップホップ

 学習指導要領が改訂され、中学1、2年生の保健体育の授業で2012年度からダンスが必修になった。「文部科学省中学校学習指導要領解説 保健体育編」には、ダンスについて以下のようにある。

  《ダンスは,「創作ダンス」,「フォークダンス」,「現代的なリズムのダンス」で構成され,イメージをとらえた表現や踊りを通した交流を通して仲間とのコミュニケーションを豊かにすることを重視する運動で,仲間とともに感じを込めて踊ったり,イメージをとらえて自己を表現したりすることに楽しさや喜びを味わうことのできる運動である。》

pinQ bright拡大品川女子学院中「pinQ bright」。体全体で表現するのがダンスだが、やはり表情は命だと思う。全員がピエロになりきった。演技終了時のシーンがこのカット

 「現代的なリズムのダンス」とある。ディスコ世代の筆者にとっては、速いテンポと軽快なリズムが特徴の「ユーロビート」になるが、現在は、ヒップホップがその代表となっている。
 8月、朝日新聞社主催の「小中学生ダンスコンクール」が東京・渋谷公会堂で行われた。第1回の記念大会となったこの大会には、ビデオ審査で選ばれた小中学生の部各40チームの約1100人が出場。学校のクラスやクラブ、ダンススクールなどで組んだチームが演技を披露し、会場は終日、声援と拍手に包まれた。

SG KIDS CREW拡大SG STREET DANCE SCHOOL「SG KIDS CREW」 。小2から小6までのメンバーで構成。ヒップホップのお手本のようなダンスだった
 当日、筆者はカメラマンとして、舞台前で全チームの演技をファインダー越しに眺めた。やはり、圧倒的にヒップホップが多い。時代の流れを痛感する。
 改めてダンスにはさまざまなジャンルがあると思った。最近人気の「チアダンス」。スポーツ応援のイメージがあるチアだが、チアダンスはスポーツ競技種目の一つで、チアリーディングのダンス部分を独立させたものだ。ヒップホップやロックの要素も取り入れ、バラエティーに富んだ演技のチームが多く見られるようになった。華やかさが先行するが、運動量が多く、表現力とともにかなりの体力を必要とし、「笑顔の真剣勝負」といわれる。

 ◇エネルギー爆発「祝祭だ!」

twinkle stars拡大Kyoko Cheer Dance Place「twinkle stars」 「笑顔の発信が私たちの目標だったので、舞台からお客さんの笑顔が見えたことがうれしいです」と仲丸美里さん。将来の夢は「国境なき医師団」に入ること。「世界には医師がいないという理由で命を落とす人たちがいることを知りました。医師になって、助けられる命を救いたいです」
 演技チームのなかに、見覚えのある顔があった。東日本大震災で被災した宮城県からKyoko Cheer Dance Place(上野境子さん主宰)のtwinkle starsのメンバー7人が参加。そのうち、仲丸美里さん(仙台市立五橋中2年)、遠藤栞里さん(同市立高砂中2年)、鈴木莉子さん(同)、鈴木芙憂花さん(七ケ浜町立向洋中2年)の4人は震災当時、小学5年生だった。
四葉のクローバー拡大「4人だから四つ葉」というわけではない。ピンクは温かい心、水色は水、緑は自然、黄色はエネルギーを示す。「震災後の周りの方々の援助、日常の水と自然のありがたさ、電気などの大切さを忘れないように」との思いを込めた
 4人は大きな被害を受けた仙台市蒲生地区の中野小学校に通っていたが、津波で家を失った。震災後、交流がある大分のチアダンスクラブとメッセージを交換し合い、その子どもたちのメッセージを上野さんが「Smile for JAPAN」という1冊の本にまとめた。その最初のページにあるのが四葉のクローバー。4人で考えたシンボルマークだ。
 「仲良し4人組のピュアな気持ちが形になりました」と、昨年の取材後に本をいただいた。名誉なことに、震災2カ月後に開かれたチアの大会で筆者が撮影した写真が掲載されている。
 ダンスでは基礎的な体力や技術はもちろんだが、一緒に踊る仲間を思いやる心が重要だという。
 「小学校5年生だった4人が、中学2年生となり、勉強・部活動・ダンスに打ち込みながら、心身共に成長しました。震災にあったつらさをみじんも感じさせることなく、一生懸命取り組む姿に、心打たれます。痛みを感じ、それをバネとして強くて優しい大人に成長していくと感じております」と上野さん。
斎藤教授拡大「ダンスは祝祭だ」と斎藤孝さんがステージ上で叫び、会場全体で唱和した。多くの著作物からクールなイメージをもっていたが、「ダンスはカーニバルである」ことを体現してくれた
 「ダンスは祝祭だ!」と、審査員を務めた明治大学教授の斎藤孝さんがステージ上で叫び、会場は盛り上がった。ダンスは表現なので、自分たちのエネルギーをより爆発させやすいのではないか、と斎藤さん。「うまい下手とは別次元で、エネルギーを解放できているチームにダンスの良さを感じました」

 ◇メッセージ伝えるツール

 競技スポーツとしてのダンスは、大規模な大会が頻繁に行われている。ヒップホップとともに人気のあるチアは、アジア大会、「ICUアジアオープンチアリーディング選手権 2013」が9月に、代々木第2体育館で開かれた。今年は、日本の他には韓国、シンガポール、台湾など、8カ国・地域の約100チームが参加して行われた。

GLORIOUS拡大CHEERS FACTORY 「GLORIOUS」。しっかりとジャンプし、すばやく開脚しないときれいな角度にはならない。華やかなイメージのチアだが、腹筋力、背筋力、脚力というパワーの訓練も重要な要素という
 チアの大会の特徴は声援だ。自分の演技以外の時間は他のチームの応援をする。競技なので、もちろんライバルなのだが、同じチアをやっている仲間でもある。「GO FIGHT WIN!」のコールがあちこちから飛んだ。
 静岡県の強豪チームCHEERS FACTORYを主宰する米山温子さんは、「体からリズムを奏でることは、言葉にはない表現力を養うことに繋がると思います」と話す。「体を自由に動かすことは気持ちも柔らかくしますし、自然と体もシャキッとします」
 ダンスには生活の中でとっても大切な要素がつまっている、という。
 「必修として授業の中に取り入れることで若いうちからダンスを経験することができ、また違った自分に出会ういい時間だと思います」
台湾チーム拡大台湾チームの大技。土台となる「ベース」から、「トップ」が宙に舞う。歓声が一段と大きくなった
 我々新聞社の人間はペーパーであれ、いまご覧いただいているデジタルであれ、言葉を紡ぎ、「言葉のチカラ」で情報やメッセージを発信し、表現するのが仕事だ。踊っている選手らはダンスによって、それぞれの思いを表現する。ダンスとは言葉とともに他者にメッセージを伝える重要なツールともいえそうだ。
 神奈川県立大和南高校の英語教諭、黒田紫先生は日本初のプロチアリーディングチーム「ミスダンスドリルチーム」1期生。最初に赴任した県立住吉高校で、初心者ばかりのチームを立ち上げ、創部から3カ月で全国大会優勝に導いた。ダンス指導の第一人者である。
 授業にダンスが組み入れられたことについて、ダンス関係者としては、手放しで喜ばしく思うが、同時に現場の教師としては大きな危惧を感じている、という。
 「今まで、サッカー、野球といった競技人口の多い人気スポーツに比べ、人々の接する機会が少ない、という事実がありました。多くの人々が関心を持つようになったこと、他の競技と同じようにスポーツとして認識されるようになったこと、すべての子供たちが経験する機会が設けられたこと、から、大いに喜ばしく思っております」
 だが、体育の先生方の中でもダンス経験者はごくわずか。ダンスの本当の魅力を教えきれずに授業が終わってしまっているのが現実だという。
 「具体的な解決策は見当たりません。でもダンスの大会を経験した生徒の中には教師になった人、今、教師を目指している人もいます。その人たちが力を合わせてダンス文化を大きく美しく正しく咲かせてくれることを願ってやみません」

(平井一生)