ことば談話室
(2013/11/14)
実家の部屋を整理していると、1枚の写真が出てきた。撮影日は1975年2月10日、当時8歳の筆者とプロペラ機。初めて飛行機に乗った記念に父が撮ったものだ。プロペラ機は東亜国内航空(TDA)のYS11。「日本の空を日本の翼で」というスローガンのもとで開発された初の国産旅客機だ。7年前、民間の国内定期路線からは退役した。
筆者にとって飛行機は特別な乗り物だった。当時のTDAのYS11は自由席だったので、タラップを上り、プロペラの真横の窓側に座った。振動もすさまじく、客室乗務員からは「ここ、うるさいでしょ。席変わらなくて大丈夫かな?」とか言われたが、「平気です。翼のはじっこについている緑のランプはなんですか」とかいう返事をしている変な子どもだった。飛行機の窓から見る景色が大好きで、搭乗した際は必ず窓側に座ったものだった。その子どもはやがて成長し、乗り降りしやすいという理由で通路側の席を好んで座るようになった。
飛行機はいまや単なる交通手段になった。夏休みや冬休みになると、福岡県に住む高校生の姪(めい)が「マルキューに行きたい」と言ってくる。このコトバは解釈が必要で「東京に買い物に行きたいから、航空券をとって」の意味だ。最近の子は福岡―東京間となると、飛行機利用が当たり前になっている。ちなみに「マルキュー」とは東京・渋谷のファッションビル「109」のことだ。かくして、姪に嫌われたくない伯父さんはインターネットで格安の航空券を探すことになる。そして、今年も冬休みが近づき、相変わらず航空券は高いなあ、と嘆いていると、以下のようなプレスリリースが発表された。
元AKB48メンバーの「マリコさま」こと篠田麻里子さんが、空の上から降臨するというのだ。
Press Release 2013 年 9 月 28 日
篠田麻里子さん Peach の CA に! ~大阪(関西)-東京(成田)線で初フライト~
・10月27日(日)、大阪(関西)-東京(成田)線で初フライト
・Peach × 篠田麻里子さんの特別デザイン機が就航
Peach Aviation株式会社(以下:Peach、代表取締役CEO:井上慎一、本社:大阪府泉佐野市)は、 Peachのブランドプロモーションの一環として行う篠田麻里子さんとのコラボレーションの内容を発表しました。
10月27日(日)に就航する、大阪(関西)-東京(成田)線の初便(MM111便/関西国際空港発、成田空港行き)では、Peach公認のCA*として、篠田麻里子さんが自身のデザインによる制服姿で初フライトいたします。また、同日より、篠田麻里子さんが描かれた特別デザインを施した機体(1機)がお披露目となり、国内線、国際線の各路線で運航いたします。
*CA: Company Ambassador、 機内における保安業務は行いません。 (上記、一部抜粋)
「格安航空会社(LCC)ピーチ・アビエーションが、国内の新規航空会社としては最速ペースで300万人の累計搭乗者数を17日に達成した。就航からわずか約1年半。相次いで誕生したLCCは、早くも定着しつつある」(大阪本社版9月18日付朝刊)
ピーチ・アビエーション(ピーチ)は「日本初の本格的LCC」を掲げる。LCCはつねづね気になっていた言葉だったが、「空の上からマリコ」のPRも見られるというので今回の題材とすることにした。まあ実は、篠田さんが、筆者の「推しメン」の一人、という理由もあるのだが(笑い)。
昨年は「国内LCC元年」と呼ばれた。3月にはANA系のピーチが就航、7月にはJAL系の「ジェットスター・ジャパン」、翌8月にはANAとエアアジア(マレーシア)合弁の「エアアジア・ジャパン」が就航した。
一方、就航から1年たった3月から、関空を出発する国内線旅客向けに、スマートフォンやタブレット型端末で利用できる機内サービスの提供を始めた。運航コストを抑えるため、機内の座席にテレビ画面は設けていないが、関空第2ターミナルの国内線待合室で、Wi―Fiを使って映画やゲームなどをダウンロードできる。当初は映画30作品を無料で提供。6月ごろから本格的に増やし、有料コンテンツも含め拡充の方向だ。機内では南海電気鉄道の割引切符や、京成電鉄スカイライナーと東京メトロのセットの切符が販売されており、乗客の利便性は考えられている。
ほかにも金額を安く設定するために、最新鋭のエアバス機A320のみで機材を統一。パイロットも機種によってライセンスが異なるので、同一機材とすることで、整備や運航の効率を向上させることができる。その運航効率を高めるために、到着から出発までが短い。国内線だと折り返し時間は30分となっている。運航乗務員、客室乗務員、整備士、グランドスタッフなどが、一丸となって、定時運航のために努力している。日本の航空会社の国内線の航空機の稼働時間は1日7~8時間だが、ピーチでは10~12時間を目指している、とのことだ。
関空を拠点としていることも明確な理由があった、前出の佐々木さんによれば、国内線、国際線両方の運用ができること、発着枠に余裕があること、24時間運用であることが要件で、国土交通省の成長戦略で、日本の拠点空港にLCCを誘致しやすい環境をつくると表明したことを受け、いち早くLCC専用の施設をつくることを表明した関空に決定したとのこと。関空は成田と異なり「門限」がない。仮に、遅れたとしてもベースに帰ってくることができるので、機材繰りができずに翌朝の始発便が欠航、となることはない。
LCCは「格安の」航空会社という訳語になってはいるが、運航側が安全運航を一義に考えながらも、コストを抑えるために努力しているキャリアであるというべきか。
井上慎一代表取締役CEOは自社の飛行機を「空飛ぶ電車」と表現する。飛行機が身近なものになりますように、との思いだ。「安くて、良くて、面白いサービスが要求されるのが関西です。その中で1年半鍛えられました」と話す。本社社屋も空港島内で建設会社が入居していた建物を居抜きでリフォームすることなくオフィスにしている。CEOの部屋(個室)はない。とくに個室を必要とする職務を行っていないとのこと。コストはかけずに顧客満足度を上げるために、知恵を絞る毎日のようだ。
記者会見では、報道陣の写真撮影に応じて篠田さんや客室乗務員らとともに両手でピーチ(桃)の形を作った。桃は幸運のシンボルとしてアジアで愛されている。そんな桃のように愛されるエアラインとなりたいという気持ちが社名に込められているという。
(平井一生)