ことば談話室
(2013/11/21)
こんな訂正が以前、朝日新聞の紙面に載った。
「駅人話 小幌駅」の記事で、「特急電車」とあるのは「ディーゼル特急」の誤りでした。JR室蘭線の小幌駅を通る区間は電化されていません。訂正します。
北海道内の駅を記者が訪ね、駅にまつわる物語などを描写した連載もので、鉄道ファンのなかでは「キング・オブ・秘境駅」と呼ばれている「小幌駅」を取りあげた際、非電化区間を走ってきたディーゼル車の特急列車を「電車」と表記してしまった。
ふだん自分が乗っている列車の種類について、意識することがあるだろうか。せいぜい「特急」「通勤特急」「急行」「新快速」「各停」などの「列車種別」だけだろう。乗っている列車がどのような種類の動力で走っているかは、ふつう考えない。しかし、校閲センター員という職業柄、さらには「鉄ちゃん」といわれる自分としては、重大な要素である。
通常、鉄道という交通機関を利用する場合、「電車に乗る」という。じゃあ電車とはなにか。「広辞苑」によると以下のようにある。
「主電動機を備えた旅客車・貨車・およびこれと連結運転される旅客車などの総称。ひろく電化された鉄道一般の意味にも用いる。」
この説明では、イメージしにくいと思う。ざっくりいえば、架線から電力を得て、車両自身に搭載された電動機(モーター)を駆動させて走るのが電車だ。一方、「気動車(ディーゼルカー=DC)」はその名の通り、ディーゼルエンジンを駆動させて走るものだ。
架線があって電車などが走れるようにしたことを「電化」、逆にない場合は「非電化」という。通常は、電化区間は電車が走り、非電化区間は気動車が走る。
しかし、そう単純にはいかない。電車を走らすためには、電力を供給するための架線が張られている。でも、電車でないディーゼルエンジンを動力とした普通列車が架線の下、全列車走り通す区間がある。九州新幹線開業で第三セクターとなった元・鹿児島線の「肥薩おれんじ鉄道」の区間(八代~川内)では定期の電気機関車が引っ張る貨物列車が通るため、架線がありながら気動車となっている。しかし、その前後の区間は普通列車でも電車が走っていたりする。地元の人も鉄道に興味のある人以外、すべて電車だと思っているのではなかろうか。
さまざまな理由で、電化区間を気動車が走ることがあり、「架線下DC」という用語が存在する。通常は見慣れない言葉であろうが、鉄道雑誌では当たり前に出てくるもので、老舗の「鉄道ジャーナル」1978年10月号では「列車追跡★架線下DC行進曲」のタイトルで特集が組まれている。筆者が小学生のころに発行された号だが、当時、すでにこの言葉が、このような雑誌を読む者にとっては普通の用語として現れている。
たいがいの場合、電化している区間から非電化区間に直通するために架線の下を気動車列車が行くことが多い。また、優等列車(特急列車など)は旅客の利便性を考え、地方都市から非電化区間の地方都市への需要のため、比較的長い距離、架線下を走る。旧国鉄時代末期でも架線の下を行く気動車列車が数多く見られた。東京近郊で言えば常磐線の急行列車、仙台発の急行や普通列車、札幌近郊、今や大阪方面へ数多く走っている米原より先の北陸線、同じく堅田より先の湖西線、関門トンネルをはさんだ区間、九州内などだ。
常磐線、北陸線、関門トンネルは幹線と言われる区間で、これらに共通なのは、直流および交流と、電化しているが違う電源どうしが隣り合っているということ。この幹線区間では旅客需要があるため、車両に投資が出来る。直流と交流を両方走れる車両(交・直流電車)は、直流だけもしくは交流だけ走れる電車より製作費が高くなる。なので、投資に見合う需要がなければ車両を造らない。
今では「秋田新幹線こまち」が走る田沢湖線などは、ほぼ気動車列車であった。田沢湖線の場合、電化した理由は電車特急列車を走らすためだったため、電気の供給量はその分しかない。供給量を増やすことは過剰投資となってしまうため必然的に電化前と同じ普通列車は気動車となってしまった。これは特急という付加価値があり特別な料金が取れるからである。その後、秋田新幹線開業を機に、普通列車も電車化された。
札幌周辺は交流電化している。そこそこの旅客需要はあるが近郊を少し外れると非電化区間が多くあり、車両運用の効率の関係で架線下を走る気動車が見られた。これは仙台近郊も同じことが言える。JRになる前に旅客需要が見込めない区間、たいがい非電化区間は廃止されたり、また需要の見込める区間はのちに電化されたりして、気動車を保有する意味が薄れた。このため、架線下を走る気動車が見られなくなってきた。
右の写真で紹介する線区は、電化はされているが直流・交流の電源切り替え点があり、幹線区間である。その区間は羽越線の新潟・新津―山形・酒田間。この間に新潟県と山形県との県境がある。
(大屋史彦)