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ことば談話室

ゴルフと鳥のフシギな関係

 あけましておめでとうございます。昨年は3月に家族と離れて大阪から東京へ単身赴任。新しい仕事に初めての東京、そして37歳にして初めての一人暮らしといろいろあり、あっという間の1年でした。
 東京に来た当初、「趣味は何?」と職場の先輩に聞かれ、「ゴルフをやります」と話すと、アルバトロス(Albatross)の意味を知っているかと聞かれました。恥ずかしながら、ゴルフで標準打数(Par)より3打少なくホールアウトしたときの名称としか考えたこともなく、初めて「アホウドリ」という意味だと知りました。

 イーグル(Eagle)についても標準打数より2打少なくホールアウトしたときの名称としか思っていなかったので、なるほどそれで「ワシ」なんだと。アホウドリ、ワシときたら、バーディー(Birdie)も何かの鳥の名前かなと思い辞書で調べてみると、ゴルフの標準打数より1打少ない名称のほかに、幼児語で「小鳥」とありました。

 なぜゴルフのスコアには鳥にまつわる名称がつけられているのでしょうか。今回はその語源について調べました。

 ◇幸福の象徴、だから報酬2倍

フェアウエー拡大延びるフェアウエー。「フェアウエー(Fairway)」は本来航海用語で「安全な航路」を意味します。19世紀末にイギリスでこの航海用語をゴルフ用語として使うようになったそうです=石岡ゴルフ倶楽部
 「普通のサラリーマンが2年でシングルになる方法」などの著書で知られるゴルフ作家の山口信吾さんにうかがったところ、「THE HISTORICAL DICTIONARY OF GOLFING TERMS FROM 1500 TO THE PRESENT」(Peter Davies : Bison books)という辞書を紹介していただきました。先に挙げたバーディーについては、由来には諸説ありますが、一説として、以下のような内容が書かれていました(原文は英語)。

 H.B.マーティンの著書「アメリカのゴルフ50年」によると1899年、Ab Smithというゴルファーが友人とプレーしていた。彼が打つと、ピンまで6インチ以内という至近距離にボールがオンした。「鳥のようなショットだったろう」と彼は言った。元来、Bird(鳥)は幸運の象徴であった。「1打少なくホールアウトしたら、2倍の報酬をもらえるってのはどうだい」。友人は同意し、結局、彼は1打少なくホールアウト。その後、1打少なくホールアウトすることをバーディーと呼ぶようになった――。

 次にイーグルですが、さまざまな資料を見てみると、どうやら、バーディー以上だから、「小鳥」より強大で威厳のある「ワシ」、ということでイーグルになった、ということのようです。

 残るアルバトロスは人並みはずれた飛距離がないと出ないことから、海鳥のなかでは最大級で、風と羽を巧みにつかってずば抜けた飛ぶ力を持つこの鳥の名称がゴルフ用語になった。ワシが国章となっているアメリカではアルバトロスをダブルイーグルと呼ぶことが多いそうです。

 ◇4打少ないと「コンドル」?

 昨年11月、車もないし部屋も狭いという理由で東京に持ってこなかったゴルフバッグを送ってもらい、約10カ月ぶりに茨城県の石岡ゴルフ倶楽部でラウンドしてきました。

 天気は最高、コースも最高、同伴メンバーも最高でしたがスコアは……。ゴルフはそんなに甘いものではありませんでしたが、久々のラウンドはとても楽しくあっという間に18ホールが終わりました。もちろんアルバトロスやイーグルは出ませんでしたがバーディートライは幾度かありました。しかしピン手前1メートルにつけた決定的なチャンスを逃してしまい、結局バーディーもでませんでした。

 プロの大会でもなかなかアルバトロスを見ることはありませんが、2011年の7月15日に女子の有村智恵選手がスタンレーレディスの1日目に自身2度目のアルバトロスを達成しました。2度目ということも驚きですが、さらに同一ラウンドでホールインワンも達成してしまったのです。日本女子プロゴルフ協会によると、01年以降の総ラウンド数8万9482を元に単純計算すると、アルバトロスとホールインワンが同一ラウンドで達成される確率は1080万9148ラウンドに1度。毎日1ラウンドしても約2万9614年に1度(11年7月16日付東京本社版朝刊から)。これはプロが毎日1ラウンドしたとしての数字なのでアマチュアなら……なんともすごい数字です。

 語源を調べているうちに、ネット上でアルバトロスの上、つまり標準打数より4打少なくホールアウトすることを「コンドル」と呼ぶとありました。私は10年以上ゴルフをやっていますがコンドルという言葉は1度も聞いたことがありません。前出の山口さんに聞いたところ、「私も聞いたことがないですね」ということでしたが、ご友人で、世界で7番目に古いゴルフクラブと言われる「クレール・ゴルフィングソサエティ」支配人のデービッド・ロイさんや、山口さんの著書「死ぬまでゴルフ!」に登場する、会社経営者のデービッド・サンダーソンさんにも尋ねてくださいましたが、2人とも聞いたことがない、ということでした。

 通常、ゴルフの大会はパー5が最長で、それを1打で入れるということですから、実際にはかなり難しいことです。今後も公式な場で耳にすることはおそらくないでしょう。

 では標準打数より1打多くホールアウトした時のボギー(Bogey)はどうでしょうか。これは鳥の名前には関係していません。諸説ありますが、むかしのイギリスでは標準打数をあらわす言葉で、「グラウンドスコア」と呼んでいたのを当時の流行歌「ボギーマン(子どもを脅すオバケ)」から取って言い出したのが始まりです。

 むかしは今ほどクラブやボールも進化しておらず、標準打数で回る人はほとんどなく、ボギーは「鬼の首を取ったくらいにうれしいスコア」という意味だった。1ラウンドを90前後で回る人をボギープレーヤーといいますが、残念なことに私はもう少し多めの95前後といったところでしょうか。

 ◇最下位の一つ上、あの呼び名も…

 スコアの名称ではないですが、ほかにも鳥の名がついている言葉がありました。ブービー(Booby)です。

 ゴルフコンペでは最下位から2番目をブービー賞といってなかなか良い賞品をもらえることがあります。私もゴルフをやりはじめた頃に何度かもらったことがありますが、最下位から2番目でも賞品をもらえるというのはとてもうれしいものです。

 ブービーにはのろまや、競技の最下位という意味のほかに「カツオドリ」という意味があります。ゴルフには鳥にちなんだ言葉が多いことからゴルフ用語に定着したのでは、ということです。

 ではなぜブービーは競技の最下位という意味なのに最下位から2番目の人に賞品を渡すのでしょうか。これは最下位になっても大きな顔をして毎回商品を持っていく人がいたり、故意に最下位を狙う人がいたりするので、一つ前の順位の人に賞品を渡すようになったそうです。

 山口さんから薦めていただいた辞書の序文には、「500年という月日の経過のなかで、ゴルフという競技は途方もない多くの言葉(用語)を積み重ねてきた」とありました。今回の取材をきっかけにして、改めて、生まれてきた言葉の背景の広がりや深さを知るところとなり、ゴルフとともに、記事を点検するという、いまの仕事を振り返るチャンスともなりました。

 月日の経過といえば、昨年11月に38歳の誕生日をむかえ、体力の衰えを感じてきています。ゴルフは飛距離を争う競技ではないことはわかっていますが、飛距離が落ちてくる前にアルバトロスを出したい、とはいいません。せめて1度だけでもイーグルを出してみたいものです。

(窪田勝之)