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ことば談話室

「紙」の新聞、まだまだ進化中

 世はコンピューターが席巻するデジタル時代。パソコンどころか、手のひらサイズのスマートフォンさえあれば、大抵の情報を手にすることができるようになりました。しかも時と場所さえも選びません。今、この記事をご覧頂いているのも、朝の満員電車の中や、昼下がりの街のカフェ、残業を終えた深夜の会社のデスクなのかもしれません。合理的で便利な時代になったものです。

 でもちょっと待ってください。おなじみの「紙の新聞」もまだまだ現役、元気いっぱいです。いやいや、「紙」だとゆっくり読む時間も、ひろげる場所もないよ……。なるほど。そんなあなたにこのデジタルの画面から、新聞紙の「進化」をお伝えしたいと思います。

 ◇呼吸して太って背も伸びる

 印刷の出来栄えは紙でほとんどが決まるとも言われます。紙はそれほど重要な素材なのです。

 紙は、呼吸をしています(通気)。太ったり痩せたりします(周りの湿度の影響を受けながら吸排湿する)。背が伸びたり縮んだりします(伸縮)。指紋があります(紙それぞれの紋様がある)。紙は生きていると言われるゆえんです。

 新聞紙は、長くて太い繊維を持つ針葉樹からできるパルプで主に生産されていましたが、短くて細い繊維を持つ広葉樹からできるパルプも使われるようになってきました。広葉樹の繊維はその繊細さゆえに、強い紙を作るのには適していなかったのですが、技術の進歩により、強度も出しながら、針葉樹から作る紙よりも表面を滑らかにすることに成功しました。滑らかな表面は、現代の高精細な印刷にはかかせないことなのです。

 新聞一部(40ページ)の重さは約190グラム。ここ20年で約20%軽量化されました。紙は貴重な資源です。軽くすることにより、紙の原料(主にパルプ)の使用量を減らすことができ、それはすなわち自然保護にもつながっていきます。

 紙の重さは輸送にも大きく関係します。新聞を運ぶトラックの燃費が向上し、二酸化炭素の削減にも一役買っています。しかし、軽くなったことで、新聞用紙としての品質が低下するようでは本末転倒。軽さ、強度、印刷の仕上がり、これらのバランス調整が紙の肝といえるでしょう。しかも、新聞紙はそこで一生を終えるわけではなく、古紙として生まれ変わり再利用されます。

 ◇繊細な印刷、大面積の迫力

 新聞を印刷するには水とインキを使います。水と油(インキ)が分離する原理を用いるオフセット印刷といわれる方式です。

 刷り上がった紙面を確認するために、朝日新聞東京本社内では、まず最初に印刷したての新聞が報道・編成局をはじめ社内各所に届けられます。しかし、このときの新聞は水もインキもまだ完全に乾いていないため湿ってひんやりしています。そして文字や写真の色も心持ち濃い。実は、インキは乾くことで濃度が下がる性質があります(ドライダウン)。これを計算し、読者のお手元に新聞が届く頃には、乾燥して適正な色味になる濃さで印刷されているのです。

 スマホなどで見る「デジタル新聞」は非常にコンパクト。満員電車の中でもなんのそのです。これには紙の新聞はたちうちできません。なんといっても紙の新聞1ページの大きさは約54センチ×40センチもあるのです。しかし、それゆえに、大きさを生かして迫力ある写真を見せることもできます。

 1ページすべてを使う「全面広告」はその代表的なものです。しかし、まだまだこんなものではありません。「パノラマ」と呼ばれる紙面の大きさは約160センチ×54センチ。新聞4ページ分をフルに使って、迫力のある写真やアートが表現できます。過去には国民的アイドルたちをほぼ等身大で紙の上に出現させました。

 どうです? デジタルにはまねできないでしょう。「パノラマ」は特別なイベントや広告などで製作されるレアな紙面のため、なかなか目にすることはできないかも知れませんが、もしお手元に届く機会がありましたら、ぜひ壁に張るなどして楽しんでいただければと思います。

 ◇五輪の感動、手にとって

インフォグラフ拡大ソチ五輪開幕前の特集面に掲載されたフィギュアスケートのインフォグラフィック。「紙」の特長を十分に生かしたものだ
 いよいよソチ五輪が開幕。新聞では、開催中は「デジタル」で、選手たちの活躍を即座にご覧いただけることと思います。結果をできるだけ早くお届けするために、スポーツ部など社内の各部署でアスリートに負けないくらい奮闘しております。

 そして、その後、「紙」で、その結果を生みだしたドラマにじっくりと思いをはせていただければ、新聞の送り手としてこんなにうれしいことはありません。

 私が子供の頃の新聞といえば、ぎっしりと埋め尽くされた文字も、写真も、白と黒だけの世界。子供にとってはあまりにもハードルが高く、大人だけの読みものといった印象でした。今は違います。五輪開会中の特設面では、「瞬間」を切り取った何枚ものカラー写真が躍り、ルールや技も図で説明されることでしょう。

 ぜひ、心と時間に余裕があるときは、お茶を片手に座卓に紙の新聞を広げて、じっくりと楽しんで頂けたら幸いです。

(岩本真一郎)