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ことば談話室

すっぴん――化粧水もつけちゃダメ!?

細川 なるみ

 ことの始まりは、先輩男性の衝撃的な一言だった。

――「化粧水って、つけてても『すっぴん』って言えるの?」

 経済面を点検していたその先輩は、とあるスキンケア商品を紹介する記事につけられた見出しが気になり、近くにいた私に相談してきたのだ。「化粧水から美容液までオールインワンっていう商品の見出しが『あなたもすっぴん美人』なんだけど、大丈夫だと思う?」と。
 一瞬質問の意味が分からず、ぽかんとしてしまった。「だって『基礎化粧品』って言うでしょ?」とさらに言われてようやく、先輩が「すっぴん」という言葉の定義を女性に確認したかったのだと気づいた。

――「す、すっぴんですよ!!」
 思わず声が大きくなってしまった。化粧水さえ認められなかったら、現代日本にすっぴんの女性なんてほとんど存在しないことになってしまうではないか! 動揺する私に、周りの女性部員たちが「そうそう」「当然でしょ!」とすかさず援護してくれた。思わぬ集中砲火を浴びた先輩はたじたじとなり、「そうなんや……」とつぶやいて仕事に戻った。結局その記事には別の見出しがついたが、女性陣は「男の人って、既婚者でもそんなこと知らないんだ……」とショックが収まらない。
 そんな次第で、その場にいた女性デスクから「今度のことば談話室は『すっぴん』について書いてみて!」と仰せつかったのである。

◇すっぴんとは? 基礎化粧品とは?

 「すっぴん」という言葉は、あらためて意識することもないくらい日常生活にあふれている。

拡大女性誌や広告に躍る「すっぴん」
 女性誌や広告には「すっぴんから美しく」「すっぴん風メーク」などの文字が躍り、新聞にも頻繁に登場している。性別や世代に関係なく使うような言葉なので、細かい解釈に個人差があるなんて、これまで考えもしなかった。最近は化粧水を使う男性もいるようだが、使わない人は「基礎化粧品=化粧の一種」と誤解しているのかもしれない。それにしても「女性はすっぴんの方がいい」という人はいても、化粧水もつけるなというのは聞いたことがない。いくらなんでも厳しすぎないか。

 校閲記者の習性で、迷った時はまず国語辞典を開いてみる。

・広辞苑「素っぴん=化粧をしていないこと。素顔のままであること」(第6版)
・大辞林「素っぴん=①(女性や俳優が)化粧をしていないこと。②しらふ」(第3版)
・大辞泉「素っぴん=①(女性の)化粧をしていない顔をいう俗語。よけいな手を加えていない品物・状態についてもいう。素顔。②しらふであることをいう俗語」(第2版)
・日本俗語大辞典「すっぴん=化粧していない顔。楽屋ことばから/化粧しないこと。素面。酒を飲んでいない時にも使う」(第3版)

 ざっと10冊確認したところ、すっぴんは9冊で取り上げられていた。「素っぴん」という漢字表記と、「化粧をしていない顔、素顔」という説明はほぼ共通。3冊が「女性」や「俳優」を例示しており、一般男性は想定していないようだ。「しらふ」は初耳だったが、言及した辞書は半数に上った。

 「すっぴん」の語源は、いくつか説があるようだ。

 一つは、「別嬪(べっぴん)」の対語として生まれた、という説。オンライン辞典の「日本語俗語辞書」によると、「すっぴんとは素嬪と書き、別嬪の対語として出来た言葉で、本来は化粧をしなくても美人という意味であったとされる。これが転じ、現代では単に化粧をしていないこと(=素顔のままであること)を意味する」。
 「嬪(ひん)」とは昔の後宮の女性の官位のことで、「夫人の次に位し(中略)後世の更衣に当たる」(広辞苑)。後宮の女性たちが美人ぞろいだったことは想像に難くないが、中でも別格の美しさを持つ人は「別嬪」と呼ばれ、現代でも美人の代名詞として使われる。彼女たちは化粧や衣装で飾るのが常であったが、飾らなくても素顔のままで美しい女性は「素嬪(すひん)」とも呼ばれたという。これが転訛(てんか)して「すっぴん」になったというわけだ。
 平凡な女性はたとえ化粧を落としても「すっぴん」になれない、というのはちょっと悲しい話だが、本来が選ばれし人のための言葉なら、「化粧水はアウト」なんていう基準は可愛いものだ。

 歌舞伎の世界から来た言葉だ、という説もある。歌舞伎俳優が化粧をしていない状態や、そのまま舞台に上がることを「素面(すめん)」といい、これが転訛して「すっぴん」になったというのだ。「素面」は「しらふ」とも読み、先ほど辞書に出てきた「すっぴん」の第二の意味につながる。何か関係はありそうだ。
 再び広辞苑を見ると、「素面=①能や剣道で面をかぶらないこと。②酒に酔っていない時の顔。しらふ。③化粧していない、本来の顔。すがお」とある。③の意味はそのまま「すっぴん」と同じだ。

 すっぴんの定義や語源は見えてきたが、これだけでは化粧水をつけた場合にどうなるのか分からない。今度は「化粧」や「化粧水」などの定義も調べてみた。

・広辞苑(第6版)
「化粧=①紅・白粉などをつけて顔をよそおい飾ること」
「化粧水=主として皮膚をなめらかにするために用いる液状の化粧品」
「化粧品=化粧に用いる品。クリーム・白粉・紅・洗顔剤の類」
「化粧下/白粉下=おしろいのつきやのびをよくするために、下地に塗るクリーム・化粧水など」

・大辞泉(第2版)
「化粧=①紅やおしろいなどを使って、顔を美しく見えるようにすること」
「化粧水=皮膚に栄養を与え、滑らかにするために用いる液状の化粧品」
「化粧品=化粧に用いる品。ファンデーション・口紅・マスカラ・アイシャドーなどのメーキャップ化粧品、肌を整えるための基礎化粧品などがある」
「基礎化粧品=肌の調子を整えたり、肌の健康を保つために用いる化粧品。洗顔料・クレンジングクリーム・美容液・化粧水・乳液・パックなど」
「化粧下/白粉下=おしろいを塗る前に、つきやのびをよくするために地肌に塗る化粧水・クリームなど」

・大辞林(第3版)
「化粧=①紅・白粉などをつけて顔を美しく見せること」
「化粧品=化粧に用いる品。クリーム・白粉・口紅など」
「化粧水=洗顔後肌につけて、水分や油分が失われないように保護する液状の化粧品。スキンローション」
「化粧下/白粉下=白粉ののりをよくするため、下地としてつけるクリームや化粧水」

 採用している語や例示に差はあるが、化粧は顔を美しく見せるため、化粧水は肌の調子を整えるため、という説明は共通する。「基礎化粧品」は比較的新しい言葉なのか、載せている辞書はほとんどなかった。
 化粧水は「化粧下/白粉下」の項目でも例示されていた。江戸時代の女性たちはヘチマなどから採った水を白粉の溶き水や下地として使ったとされるので、その名残だろうか。ただ化粧水は就寝前もつけるものなので、化粧下地用のクリームとまとめて呼ぶことは現在ではあまりない。

 辞書の定義だけ見ると、「液状の化粧品」である化粧水をつけるとすっぴんではなくなるようにも読めてしまう。納得できずにいたところ、実際の商品を規制する薬事法にこんな条文を見つけた。

・薬事法(第2条の3)「この法律で『化粧品』とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう」

 化粧水をはじめとする基礎化粧品は、「美化し、魅力を増し」てくれるかどうかはともかくとして、少なくとも「身体を清潔にし」「皮膚を健やかに保つ」にあてはまる。とはいえ、薬事法上は化粧品だからといって、日常生活でもそのまま「化粧品」と呼ぶわけではない。たとえば「顔やからだを洗うのに用いる石鹼(せっけん)」(広辞苑)である「化粧せっけん」も薬事法上は「化粧品」だが、これは洗濯用や工業用のせっけんとの区別のためにそう呼ばれているに過ぎない。「化粧水」も名前こそ「化粧」がついているが、肌の保護・水分補給のために使われ、無色透明なので肌の欠点が隠せるわけではない。不透明な乳液や美容液にしても塗って色がつくわけではない。

 自分が普段使っている「乳液状美容液」の能書きを見ると、「肌にうるおいを与え、乾燥や肌荒れを防ぐ」「キメを整え、透明感とハリのある生きいきとしたお肌に整えます」などとあり、シミをカバーできるとか美しく見せるとはどこにも書いていない。言うなれば、化粧水はあくまで「すっぴんのメンテナンス(保守・管理)」のためで、肌を「偽装」するメーキャップ化粧品とは別物だ。肌の手入れは化粧乗りをよくするためという一面もあり、化粧の土台(基礎)をきれいにする、という意味合いで基礎化粧品と呼ばれるようになったのかもしれない。

◇「すっぴんブーム」と「すっぴん公開ブーム」

 服に流行があるように化粧にも流行があり、最近のキーワードは「すっぴん風」や「ナチュラル感」である(よく男性で誤解している人がいるが、ナチュラルメークといってもいわゆる「薄化粧」とは違う。「薄化粧した色白美人」に見せるため、むしろ何種類もの化粧品を駆使していることが多い)。
 美白ブームで、化粧品のよしあし以上に土台となる肌の美しさが追求されるようになり、さらに最近では肌の状態にとどまらず、飾らない生き方やもののあり方そのものを「すっぴん」と表現することもある。低成長時代に入ってスローライフ志向が広がったことで、個性や欠点をあえて隠さない「すっぴん」な生き方の支持につながっているのかもしれない。

 「すっぴんブーム」とは別に、「すっぴん公開ブーム」というのもある。いまはだいぶ下火になっているが、数年前から芸能人が自らすっぴんの顔をブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などに載せ、話題を集めるということが増えた。パパラッチによる「すっぴん暴露」とは違い、ハリウッドのトップ女優などが普段着ですっぴんのリラックスした姿を自ら発信することで、「かえって自然な美しさが際立って親しみやすい」と評判を呼んだ例があったのだ。日本でも芸能人の「すっぴん公開」が相次いだが、中には単なる話題作りや営業戦略もあったようで、「二番煎じだ」「すっぴんと言いつつどうせすっぴん風メークなんだろう」などと冷めた見方も少なくなかった。

 先日テレビを見ていたら、あるバラエティー番組で「すっぴん」が特集され、そこでも「化粧水をつけてもすっぴんと言えるのか」が激論になっていた。過去にブログで「すっぴん公開」をしたことがあるという女性モデルが、「化粧は本当にしていなかったのに、『カラーコンタクト入れてるからすっぴんじゃないだろ!』って批判されてショックだった」と話しており、「すっぴん」の解釈の個人差が思いのほか大きいのを実感した。
 さすがは芸能人、すっぴんでもキレイだ――と感心していたら、実はまつげパーマやカラーコンタクト、BBクリーム(美容液、日焼け止め、化粧下地、ファンデーションなどを1本にまとめたクリーム。最近はさらに進化した「CCクリーム」もある)などで「偽装」をしていた、というのではたしかに興ざめだ。しかし、メーク落としのCMや芸能人の「すっぴん公開」には少なからず偽装がともなうことは、ほとんど暗黙の了解という気もする。

 最近は「洗顔後にこれ1本で化粧水から化粧下地まで」とうたうような、基礎化粧品なのか化粧品なのか判断が難しい商品も多い。BBクリームなどオールインワンのものは手間もお金も節約できるので、普段化粧品を買わないような主婦層にも人気だ。
 このように、時にはファンデーション後よりもファンデーション前の方が手順が多くお金もかかることは、化粧をする女性であればご存じだろう。すっぴんと化粧の間のグレーゾーンは、かくも広く奥が深いのである。

◇「すっぴん」の意識調査

 多くの人が「すっぴん」と認めるラインはどこか、職場でアンケートを取ってみた。ただし大阪校閲センターは少子高齢化が激しく、40代以上の男性にサンプルが偏ってしまうので、フェイスブックなどで20~30代の友人にも協力を呼びかけた。
 題して「“すっぴん”の意識調査」。サンプルは20~60代の計43人(女性16人、男性27人)。「よく分からないので、妻に相談させてください」とアンケート用紙を持ち帰り、ご夫婦で回答してくれた人もいた。

【Q1】化粧水や乳液、美容液などの基礎化粧品(美白効果をうたったものを含む)をつけた状態を「すっぴん」と呼ぶ?

→はい=31人(女性16人、男性15人)/いいえ=12人(女性0人、男性12人)

 女性は全員が「はい」と答えたが、男性は半々。世代別で見ると、男性でも20~30代は全員が「はい」と答えたが、40代で半々になり、50代では「いいえ」が圧倒した。言葉としての定義ははっきりしなかったが、少なくとも多数決では「化粧水をつけてもすっぴん」と言ってよさそうだ。

【Q2】以下のうち、使っていても「すっぴん」と呼べると思うものは?(複数回答)
1.日焼け止め(塗ると透明になるもの)
2.色つき日焼け止め(ベージュ色のものなど、肌をカバーする効果あり)
3.BBクリーム、CCクリーム
4.薬用リップクリーム(無色透明)
5.色つき薬用リップクリーム(体温に反応してピンクや赤に色づくものを含む)
6.まつげパーマ、ビューラー
7.一時的に一重まぶたを二重にする接着液、シール
8.カラーコンタクト(黒目を大きく見せる黒や茶の縁取りタイプを含む)
9.眉バサミ、コームで眉を整えている
10.かみそり、毛抜き、エステでの顔脱毛など
11.レーザーでのシミ・ホクロ取り
12.美容整形手術(二重まぶたに/目を大きく/鼻を高くするなど)
13.アートメーク(眉やアイラインの入れ墨)※

→詳細は別表の通り。

 

拡大アンケートの結果
 全体で過半数の人が「すっぴんと呼べる」と答えたのは1、4、9〜12。男女差はほとんどなかった。最多は43人中38人が選んだ4と10。3はファンデーション代わりにもなるところが問題視されたのか、最少の5人だった。それでも私の事前予想よりは多めだ。
 女性ではほぼ全員が1、4、9、10を選択。サンプルは少ないものの、世代差もあまり見られない。一方男性の回答は女性よりも分散しており、また世代が上になるほど選ぶ項目が少ない。女性に比べて具体的な商品をイメージできず、迷いが生じたのだろうか。男女とも20代では「全項目すっぴん!」と答えた人がいた一方で、50代ではゼロ回答の項目が増えた。
 多くの人が迷った形跡が見られたのが、12の美容整形。自由記述で「状態として『すっぴん』でも、同じ次元で語れない」「顔面そのものの改造で、すっぴんの議論になじまない」(いずれも40代男性)などと多くの意見が寄せられた。質問の際にイメージしたのは、もし美容整形をした人がそのことを伏せて、「私すっぴんでもキレイでしょ」と言ってきたらどう思うか、ということ。個人的にはこれも「偽装」の一種だと思うが、「何も塗っていないし色はつかないから」ということで認める人も少なくなかった。

※13の「アートメーク」は同僚の指摘を受けて途中で追加したため、回答は一部にとどまった。これを「すっぴん」と認めたのは男女計11人中、男女1人ずつ。日本ではあまり聞かないが、そういえば昔南米に留学した時に、目の周りに黒い入れ墨をした女性を時々見かけた。

【Q3】普段、「すっぴん」という言葉を男性に対しても使う?
→使う=1人/役者やタレントにのみ使う=7人/使わない=35人

 男女差・世代差はなく、「一般男性には使わない」という意見が大半を占めた。
 最近は歌舞伎役者や舞台俳優だけでなく、テレビタレントも化粧と無縁ではいられない。放送の画質が格段に上がり、「すっぴんだとアップになった時に顔色の悪さや肌トラブルが目立つから、ドーランをしっかり塗らないと無理」と男性タレントが話しているのを聞いたことがある。

【Q4】「化粧をしていない状態」以外の意味で「すっぴん」を使う?
→使う=2人/使わない=41人

 「使う」と答えたのは50代の男女1人ずつ。どういう意味で使うか尋ねると、「飾らない状態」「見た目で分かるデコレーション(装飾)をしていない顔、というニュアンス」との答えが返ってきた。質問文で例示はしなかったが、辞書にあった「しらふ」の意味で使うという人はいなかった。
 「使わない」と答えた人の中にも、一つ面白い回答があった。「いまはもう使わないが、昔やっていたコンピューターゲームで、キャラクター設定での“職業”を選ぶ際に『すっぴん』という選択肢があった。職業ごとに色んな能力があるが、すっぴんだけは特殊能力もない、素のままのキャラクター。特徴のない弱い職業だが、最終的にはほかの職業の能力をすべて身につけて強くなる」のだという。
 この用法はウィキペディアでも言及されており、ゲームで「どの能力も付加しない状態」のことも『すっぴん』と呼ぶことがある、と書かれている。登場人物が取得していくさまざまな「能力」を化粧になぞらえているようだ。こちらも今回初めて知った。

 ちなみに31歳女性の私の回答は、「Q1→はい/Q2→1、4、5、6、9、10/Q3→使わない/Q4→使わない」。
 シミ取りや美容整形、アートメークは、「毎日の化粧でも出来ることをまとめて他人にやってもらっている」状態なので、アウトと判断した。ムダ毛処理や化粧水による保湿、日焼け予防は男性もすることがあるので、女性だけにとやかく言うのは不公平だと思い「すっぴん」と認めた。
 また6、9、10について、質問時はムダ毛処理しか頭になかったが、最近はまつげや眉の育毛剤などというのもある、というのを後から知った。まつげの育毛剤は「天然マスカラ」などと呼ばれることもあり、偽装すれすれの「ドーピング」だとは思うが、ぎりぎりセーフか。眉を育てたい人がいるとはにわかに信じがたいが、太めの眉がはやっている今シーズンならではの商品なのだろう。

 すっぴんの定義で最も厳しかった意見は、「『すっぴん』は『顔を石鹸でガシガシ洗って(化粧だけでなく)汚れもアブラも取り去った状態』だと解釈しており、無色であれ透明であれ、顔の上に何かをつけている(乗っけている)時点で、その状態はもはや『すっぴん』ではない」という40代男性。これを「真のすっぴん」と呼ぶとすれば、私は自分の顔ですら「真のすっぴん」は一日に30~40秒くらいしか見ていない気がする。洗顔後は「可及的すみやかに」化粧水をつけるべし、というのが美容の鉄則だからだ。

 全体としては「透明なものは見た目が変わらないからOK/色がつくものがアウト」、という意見が多かった。
 念のため、化粧水や美容液、薬用リップで本当に見た目が変わらないか確認した。洗顔後に何もつけずにいると、10分もすると顔も唇も少し乾燥してきた。化粧水をつけると肌がしっとりし、さらに乳液と薬用リップをつけると手触りがもっちりして顔と唇にツヤが生まれた。しかししばらくすると質感の違いもよく分からなくなる。「真のすっぴん」という定義はありかもしれないが、厳密に区別することにあまり意味はないように思う。
 アンケートまでして聞いて回ったのは、「偽すっぴん」をあぶり出して追及するためではない。むしろこれだけ解釈が広がっているいま、「すっぴんも色々」と言ってしまっていいとさえ思う。

 前述のテレビ番組では、「結婚して10年になるが、夫にすっぴんを見せたことがない。夫が私のすっぴんだと思っているのは、すっぴんに見せかけたナチュラルメークです」という視聴者の投稿があった。そういえばアンケートでも、「そもそも化粧水どころか、ファンデーションを塗ってても区別がつかない」という男性がいた。すっぴんの定義はともかくとして、「偽すっぴん」が男性にばれる心配はあまりしなくてよさそうだ。

◇おまけ~生き字引の証言~

 執筆にあたってわが家の生き字引の祖母(81)にも話を聞くと、「自分が若いころもすっぴんという言葉は普通に使っていた。本来は顔に何もつけない状態を指したが、いまは化粧水くらい当たり前なのでファンデーションをつけない限りすっぴんだと思う。戦前はさすがに化粧水はなかったが、戦後にはみんな化粧水をつけていた」と貴重な証言をしてくれた。日本舞踊の先生もしていた人なので、美容の分野には詳しそうだ。戦前もヘチマ水などはあったそうだが、「それよりも昔は、襟白粉(襟首から肩にかけて塗る濃い白粉)だけして顔は何も塗らないというのが女性の器量自慢だった。顔に何か塗るとしても口紅くらいだった」そうで、“元祖すっぴんブーム”をかいま見た気がした。日本女性が肌の美しさにこだわるのは、それが美人の条件だという意識が脈々と受け継がれているからなのかもしれない。                                (細川なるみ)