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ことば談話室

超「電」導のひみつ(上)――リニア新幹線、浮上せよ

菅井 保宏

 「シュシュシュシュシュシュ」。小刻みな、小気味のよい風切り音が田園地帯に響きわたります。軌道を素早く滑っていくリニアモーターカーは、まるで大きな昆虫のよう……。超「電」導のひみつをさぐるために、山梨県のリニア見学センターを訪れました。

リニアモーターカー拡大実験線を走るリニア。天井が黒ずんでいるのは、ガスタービン発電機を積んでいるから。車内空調などの電気をまかなっていますが、試験用に搭載しています=山梨県立リニア見学センター
 かねがね、「超伝導」と「超電導」の2種類の書き方があることを不思議に思っていました。辞書を引いても意味は同じのようです。たとえば広辞苑を開けば、見出しは「超伝導」ですが、語釈は「超電導。」で終わっています。とくに使い分けは示されていません。二つの違いはどこにあるのでしょう。そもそも、書き方が2種類になったきっかけは何でしょうか。

 ◇リニア新幹線は「超電導」

取り換え拡大山梨県立リニア見学センターで説明をするスタッフ。館内は「超電導」で統一されていました
 チョウデンドウと聞いて真っ先に浮かんだのが、JR東海の磁気浮上式リニアモーターカーです。山梨実験線のわきに設けられた見学センター内をぶらぶらしてみました。なるほど、ここでは「超電導」という書き方がしてあります。

 詳しく知りたくてJR東海の広報部に問い合わせると、JRで用語の取り決めをした記憶はないが、国鉄の時代から超電導と書いている、とのことでした。

 同社が出しているリニアの写真集をめくると、1971(昭和46)年ごろの写真に「超電導磁気浮上特性基礎試験装置」と書かれたプレートが写っていました。このころすでに、電の字が使われていたことになります。

 リニアで特徴的なのは、零下269度に冷やした超電導磁石ですが、ところでこれは、どのようなしくみで浮かぶのでしょうか。名古屋市にあるリニア・鉄道館に分かりやすい模型が展示されていると聞き、足を延ばしました。

 「リニアの研究は、東海道新幹線が開業する2年前、昭和37(1962)年にスタートしているんですよ」。担当課長の生田美樹子さんの明るい笑顔にうながされ、館内の超電導リニア展示室に入りました。

 ◇磁石の力、走るだけでふわり

ハンドル拡大ハンドルを回すことで車両模型が3センチ、浮かんでいます。実際のリニアは10センチ、浮かび上がります=JR東海のリニア・鉄道館
 「この車両模型には超電導磁石の代わりに永久磁石が入っています。ハンドルを回してみてください」「浮かび上がった!」「車両のわきをすり抜けていくコイルが、8の字のかたちに巻いてあるところがみそです」

 磁石の近くでコイルを動かすと、コイルには電気が発生します。電気が発生すれば、コイルは電磁石になります。8の字の下側のコイルに磁石が近づく時、反発する磁力が生まれます。

 下側のコイルが反発すれば、8の字にねじれているので、上側では電流が逆向きになります。うまい具合に、こんどは車両を引きつける磁力が生まれます。下側は反発して車両を押し上げ、上側には引っ張りあげる力が働き、これによって浮上しているそうです。

 東京に帰ってきてから、新たな疑問が浮かびました。実際のリニアは時速500キロでやって来て、次の瞬間、時速500キロで走り去ります。去り際で電流は逆流し、磁力は反転してしまうのではないでしょうか。

コイル拡大車両が通るレーンの両脇には白いパネルが張ってあり、その中に8の字コイルが収められています。手前は旧来のパネル、奥が新型のパネル=山梨県立リニア見学センター
 さっそく広報室に問い合わせたところ、わずかにタイムラグが発生するため、問題ないとのこと。磁力が反転するころには、通過してしまっているという説明でした。

 山梨実験線では、側壁にずらーっと並んだ白いパネルの中に8の字コイルが収められています。時速約140キロになると、ふわりと浮かび上がるしかけになっているそうです。走るだけで浮上するとは、これはなかなかクールなアイデアです。

 ◇基礎と応用で使い分け

 朝日新聞の表記の基準である「用語と取り決め」には、「ちょうでんどう」の項目に次のようなヒントが載っています。「学術用語は『超伝導』だが、JISの用語は『超電導』」

 学術用語をとりまとめている文部科学省に聞いてみました。

 「学術用語集・物理学編は昭和29(1954)年の発行で、超伝導です。こちらが決めたのではなく、物理学会などの意見をきいて、正しいことばについて整理したものです。文部科学省はあくまでも事務方をしているにすぎません」

 続いて日本工業規格(JIS)について、とりまとめている経済産業省に問い合わせ、紹介された国際超電導産業技術研究センターの担当者に聞きました。

 「当時の通商産業省から委託されて、JISで定めたのは平成3(1991)年です。大学、研究機関、企業に広く意見をきき、超電導にしています」

 同じように関係者同士で話し合って決めているのに、結論が違っているのが興味深いところです。つながりの深い団体がそれぞれ違うためでしょうか。

 文部科学省の守備範囲である学術、基礎研究の分野では超伝導、経済産業省がフォローしている産業応用の分野では超電導、というすみわけは確かにあるようです。リニアも、産業応用だから超電導なのでしょう。

 次回はさらに、「超電導」派、「超伝導」派のそれぞれの話に耳を傾け、使い分けされるにいたった背景をさぐります。

=続きは7月3日公開の予定です

(菅井保宏)