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ことば談話室

四国お国ことば編「体の具合は?」

佐藤 司

 徳島では「こずく」、香川では「たぐる」、愛媛や高知では「たごる」――。

 はて、何だろうと首をかしげる人も、「ゴホン、ゴホン」と言えばお分かりでしょう。いずれも「せきをする」という意味で主に高齢者たちが話す方言です。

 今年2月の「患者が使うお国ことば 医師苦闘」(九州・中国編)に続き、今回は四国地方の医師や看護師らの医療スタッフと患者が交わすお国ことばを紹介しましょう。

 ◇「かちわれた」と大げさに

 ある日曜日。徳島県北部の病院の電話が鳴りました。「山から たれつえて 頭が かちわれた」と地元住民からの連絡。これを受けた事務職員は「山から 転げ落ちて 頭が 裂けた」と解釈、当直の院長と看護師は重傷患者を受け入れようと緊張が走りました。ところが、担架で搬送されて来ると思われていた患者は――

 救急車から降りて病院へ向かって歩いて来ます。「あれっ」と思った職員が尋ねると「山で転んで頭を打った」という意味と、けがは軽いことが分かったそうです。近くにいた院長もただただ苦笑いするばかりでした。これが初めての土地で職員が体験した方言の失敗談です。

 「かちわる」には語呂の勢いを感じます。県北部で外科医を開業する佐藤俊雄さんによると、頭にけがをした時、負傷の程度に関係なく使われる表現で、頭を打った時は特に大げさに言う傾向があるそうです。

 とっさの対応に初めて耳にする土地のことばには慌てさせられます。共通語と同じことばでも、その土地特有の意味合いを含んでいる場合、地元以外の人が耳にすれば誤解を生むことにもなりそうです。

 ◇「えらい」と「せこい」同じ意味?

 香川県では「えらい」を「苦しい」「つらい」という意味でよく使うそうです。県西部の病院に勤務する県内出身の医師・竹内桂子さん。「地元大学などの地域医療実習で見学に来る医学生は、体の具合を表す『えらい』を聞くたびに不思議がる」と言います。

 診察の見学を終えた他県出身の医学生から、こんな質問や疑問が出るそうです。「今日、私えらくて来たんや」という患者は「何の職業なんですか?」「重役さんなの?」と聞かれることや、「えらいけん何とかしてよ」という患者は「(何を訴えていたのか)意味が『??』でした」と打ち明けられたこともあります、と。

 徳島県で「苦しい」を意味する表現は「せこい」と変わるそうです。一般に「せこい」と言えば「ずるい」や「けちくさい」意味に取られますが、県北部の開業医・大島英治さんは「私たちの地方では、そういう意味では使いません」。

 患者とのやりとりにも日常的に使われていると言います。「せこうて せこうておれん(たまらない)」という患者に「どこがどう苦しいですか」と聞くと、「じっと しとっても 胸がせこい」というように患者が答えます。

 ◇「まがる」「のうが悪い」とは?

 愛媛県で「まがる」と言うと、「触る」という意味もあるそうです。県中部の勤務医・山本昌也さんは和歌山出身です。初めて患者から聞いた時には、分からなかったと言いますが、今ではこんな風に対話しています。「包帯を巻いといたけど あんまり そこは まがられんよ(触らないように)」と話す山本さんに、「ちょっと まがったぐらいで めげりゃせんじゃろ(大事には至らんだろう)」と患者も気軽に言います。

龍馬拡大土佐のお国ことばにふれれば、坂本龍馬もふるさとをしのんだことでしょう=東京都品川区
 高知県で「具合や調子が悪い」を「のうが悪い」と言うそうです。県中東部の病院に勤める京都出身の看護師は「『のう』って『脳』かしら? もしそうなら、頭痛かな」と最初は思ったそうです。県東部の開業医・松本諄(まこと)さんは「『のう』は『脳』ではなく『能』でしょうか」と助言し、「能」について辞書は「機能」や「はたらき」の意味だと記します。

 もう一つ、と看護師。妻に付き添われた夫が受診した時のことです。夫の家での様子を聞かれて、妻が「この人 ごくどう やから」と答えたのには、びっくり。この地方で使われる「ごくどう」は「怠け者」を意味するのだと分かり、ほっとしたことを思い出します。

 〝極道〟を目の前にすれば、地元のことばを知らない限り、誰でも一瞬ドキッとします。地元で「『夫が怠け者である』その妻」という意味も、その土地以外の人には「極道の妻」と思われてしまいます。意味を取り違えそうな四国各県の表現に興味がふくらみます。

(佐藤 司)

 

<ことば談話室は8月14日分を休載し、次は21日に更新します>