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ことば談話室

「マック」か「マクド」か――読者に身近であるために

上田 明香

 「マック、ファミマ ナゲット販売中止」。ある朝、朝日新聞を手に取ると、こんな見出しが目に入りました。中国の期限切れ鶏肉問題を報じる1面の記事についた見出しです。いうまでもなく、「マック」はファストフードチェーンの「マクドナルド」、「ファミマ」はコンビニエンスストアの「ファミリーマート」を指します。

マクド店舗拡大赤地に黄色のM。世界中で見かけるこのお店、あなたはどんな略称で呼んでいますか?=東京都内

 「あれ? ウチに届いた朝刊の見出しには『マック』なんて書いてなかったけど?」という読者のみなさん、お住まいは近畿地方ではないですか。先に挙げたのは2014年7月23日付東京本社版の見出し。実は、同じ日に大阪本社で発行された新聞には、同じ記事に付く見出しを「マクド・ファミマ販売中止」とした版があったのです

 

 ◇大阪本社版だけ「マクド」

東京14版拡大我が家に届いた7月23日付朝日新聞東京本社版の記事
 略称や愛称に地域性が出るのは珍しいことではありません。マクドナルドを略すときに、関東を中心に多数派を占める「マック」に対して、近畿を中心とした「マクド」派が存在することは、よく知られているのではないでしょうか。

 東京暮らしが通算7年になろうとする私も、普段は母語である京阪式アクセントで話しており、自然に口から出てくるのは今でも「マクド」。また、書いてしまうと同じに見える「ファミマ」や「ミスド(ミスタードーナツ)」も、平らに発音する東京とは違って真ん中にアクセントがあります。

大阪14版拡大近畿地方に届いた7月23日付朝日新聞大阪本社版の記事

 大阪本社版で見出しが「マクド」になったのは、「その紙面が読まれる地域でよく使われる呼び方を使った方が伝わりやすい」と編集者が考えたからでしょう。ある記事で自分の愛用品が紹介されていたら、その記事を書いた人や掲載媒体への親近感が高まるのと同じように、その土地の言葉を使うということは、読者に親しみを持ってもらうきっかけを作る効果があるのではないかと思います。

 朝日新聞では、東京と大阪の版で「マック」と「マクド」に表記を分ける対応は、今回のみならずしばしば行われています。基本的には東京、名古屋、大阪、西部の4本社版で共通の社説でさえ、他が「マック」だった見出しを大阪本社版だけ「マクド」にしたこともありました。

 ◇他の新聞はどうしている?

 関西方面に配られる他の全国紙はどうなっているのでしょうか。同じ日の大阪本社発行紙面(最終版)の見出しを並べてみると……。

 ・毎日新聞1面=中国から期限切れ鶏肉か マクド、ファミマ 販売中止
 ・読売新聞社会面=中国産ナゲット販売中止 マクド、ファミマ 肉 期限切れ恐れ
 ・産経新聞1面=中国鶏肉 期限切れ流通 ファミマ、マクド 販売中止
 ・日経新聞1面=期限切れ鶏肉混入か マクドナルドやファミマ 中国の工場製 一部販売中止

 日経新聞以外は見出しでしっかり「マクド」を使っています。東京本社版では、毎日と読売が「マック」、日経と産経が「マクドナルド」でした。この日の紙面を見る限り、大阪本社版で見出しを「マクド」としているのは、朝日新聞だけではないようです。

 では、より地元密着型の紙面作りが行われているであろうブロック紙や地方紙は、どうでしょう。思わぬ地域で「マクド」が使われていたり、「マック」でも「マクド」でもない第三の略称が現れたりしている可能性もゼロではないはずです。

 北海道から沖縄まで各地の地方紙を手にとって見ることのできる東京都立中央図書館(港区)で、期限切れ肉のニュースが報じられた日(2014年7月23、24日付)の記事を見比べてみました。

 近畿を除いた地方で見出しに「マック」を使っていたのは、北海道・東北8紙中6紙、関東・甲信9紙中5紙、北陸・東海8紙中7紙、中国・四国9紙中7紙、九州・沖縄9紙中8紙。使っていない場合も、①見出しではマクドナルドに触れない②略さずにそのまま「マクドナルド」③商品名「マックナゲット」を見出しに――のいずれかで、結局「マクド」にも第三の略称にも出会えませんでした。

 さて、近畿2府4県を見ていきましょう。見出しで「マクド」を使っていたのは、京都新聞(滋賀版も)と神戸新聞。ちなみに、23日付奈良新聞と24日付紀伊民報(和歌山県)では「マック」でした。やはり京阪神では「マクド」が根強いということでしょう。

 ◇届く地域に最適な紙面を

 朝日新聞は、4本社ごとに紙面作りをしているほか、なるべく新しいニュースを盛り込めるよう、印刷工場からの距離などに応じて各本社でいわゆる早版から最終版までいくつかの版を作っています。

大阪10版拡大北陸・中国・四国地方に届いた7月23日付朝日新聞大阪本社版の記事

 同じ記事でも本社によってレイアウトや見出しが異なるのは、ニュース価値を判断したり見出しを付けたりする編集者が違うから。記事の扱いの大きさや写真の選び方、見出しに使う地名などは、新聞が届く地域も加味して決められます。

 例えば、同じ23日付大阪本社版の1面でも、近畿地方に配られる版では「マクド」ですが、先に刷られた北陸・中国・四国地方向けの版の見出しは「マック」でした。常にそのようにしているというわけではありませんが、今回は結果的に地方紙の傾向におおむね合致した形になりました。

 同じ素材からさまざまな料理ができあがるように、こうしたバラエティーこそ、新聞が「手作り」であることの証し。「見出しはやっぱりマクドやろ」「マックではアップルの製品と紛らわしいしなあ」――。「マクド」という見出しに出会うたび、編集現場のそんなやりとりを想像しては、「日本は狭いようで広いなあ」と、少しうれしくなってしまうのです。

(上田明香)