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ことば談話室

ダンスという表現――体を使って、より雄弁に

平井 一生

 取材先であいさつや名刺交換をすると、気遣いもあってか、「毎年『甲子園』楽しみにしてます」と言ってくださることがある。「『普門館』へ行くことが目標でした」というのもあった。もっとも、「合唱コン出場しました」というのはなぜかまだない。

武蔵野女子学院高拡大競技人口が多くなってきたといわれるダンス。「ダンスドリル選手権」では、POMをプロップ(小道具)として効果的に使った武蔵野女子学院高のこんな演技も見られた=大阪市港区の大阪市中央体育館、いずれも平井一生撮影
 夏の高校野球、全日本吹奏楽コンクール、全日本合唱コンクールは、いずれも弊社の主催事業だが、昨年からダンスも加わった。今年、第2回の「全日本小中学生ダンスコンクール」が8月下旬に開催された。上旬には弊社後援のダンスの祭典「全国高等学校ダンスドリル選手権大会」と「全国中学校ダンスドリル選手権大会」(ミスダンスドリルチーム・インターナショナル・ジャパン主催)が開かれた。

 ダンスという表現方法には、以前から強い関心を持っている。日頃、校閲センター員として社業の主となる表現ツールである言葉と格闘している筆者だが、写真部に所属していたこともあり、こうした大会にカメラマンとして出向き、ダンスを効果的に記録すべく奮闘してきた。

 ◇勇気と希望を歌舞伎で

 「表現」という言葉だが、広辞苑(第6版)には以下のように説明してある。

 「心的状態・過程または性格・志向・意味など総じて内面的・精神的・主体的なものを、外面的・感性的形象として表すこと。また、この客観的・感性的形象そのもの、すなわち表情・身振り・動作・言語・作品など」

 以前このコーナーで書いたが、新聞社で編集作業に携わる我々は、紙面であれウェブ上であれ、言葉を紡ぎ、言葉の力で表現し、情報やメッセージを伝えるのが仕事だ。一方、ダンスは体全体を使った表現活動。さまざまなジャンルがあり、踊り手によっても表現方法は異なる。

高校グランプリ今宮高拡大グランプリを受賞した今宮高の演技。大道具や小道具を使って、ストーリー性のある演技を行う「ショードリル部門」に出場した=大阪市中央体育館
 8月2~4日の大阪市中央体育館。ダンスドリル選手権が開かれ、全国八つの地区大会を突破した約170チームが出場した。

 高校生大会では、歌舞伎をテーマに演じた大阪府立今宮高校ダンス部がグランプリに輝いた。演技の最後は、歌舞伎十八番の一つ「暫(しばらく)」で主人公の鎌倉権五郎景政が成田屋の紋「三升」を染め抜いた武士の略装「素襖(すおう)」の袖を大きく広げ、見得(みえ)を切る場面を取り入れた。景政を演じたのは2年生の森田かりんさん。力強く目を中央に寄せる表情は、市川海老蔵さんの「にらみ」の動画などを見て練習したという。顧問の春名秀子先生は「勇気と希望を届けたいと考えて、迫力と優雅さを歌舞伎で表現しました」と語った。

 ◇思いが伝わってこそ

 この大会の実行委員長である神奈川県立大和南高校の黒田紫先生に「表現手段としてのダンス」について考えを聞いた。日本初のプロチアリーディングチーム「ミスダンスドリルチーム」1期生、ダンス指導の第一人者だ。

 「長くダンスの指導に関わっていると理由もなく胸が熱くなり、時に知らず知らずのうちに落涙しているという演技を目にすることがあります。逆に、レベルの高い難しいテクニックをたくさん取り入れてほぼ完璧な演技なのに見ていて何も感じない、という演技もあります」

 その違いはどこにあるのか。「ダンスが音を身体で表現する、という性質と共に『心』を伝える、という重要な役割を果たしているからです。『この踊りをあの人に伝えたい。私のこの思いが、あの人に届くように』。いろいろな祈りや願いが込められた渾身(こんしん)の演技を見てきました。その度に胸が震えました。思いが確実に見ている人の魂にダイレクトに伝わったからです」

森田さん拡大インタビュー後、改めて「にらみ」の所作を森田さんにやってもらった。1年生の福島有香里さん(右)と米田美優さん(左)が素襖を広げてくれた=大阪市中央体育館
 確かに、思いが伝わってこそ表現はその機能を果たす、といえるだろう。グランプリとなった今宮高の作品「今宮歌舞伎」。最後の場面に景政が登場すると、会場からは大歓声が上がった。景政役の森田さんは、ヒーローを意識して演じたという。歌舞伎十八番の「暫」では、「しばらく~」の一声を発して大男が現れ、罪のない善男善女を救う。森田さんにとってのヒーローは消防士。危険を顧みずに、現場に向かっていく消防士の雄姿もイメージして、この大男を演じたという。

 黒田先生によれば、 表現力豊かにつづられた文章が人の心に感動を与えるのと同じように、ダンスもその表現力によって人に感動を与え、時に大きな喜びや生きる勇気さえも与えてくれる、という。「そんな大きな強い力を持つ『ダンス』というスポーツそして芸術活動にかかわることができる子供たちは、幸せだと思います。その幸せを認識し、かみしめながら、演技をしてほしいと思いました」

 ◇喜怒哀楽が踊りを豊かに

南台小拡大南台小「南台Dream Girls」。苦悩のイメージはモノクロ、その苦悩を乗り越えたことをカラーでアピールする。シンプルではあるが、踊り自体の迫力も伴わないと感動は伝えられない。中央の最前列でファインダーをのぞいていた感想は、「圧巻だった」の一言につきる=東京都渋谷区の代々木第2体育館
 8月26日には、「第2回全日本小中学生ダンスコンクール」の全国大会が東京都渋谷区の代々木第2体育館で開かれた。西日本大会と東日本大会で上位に入った計34チームがパフォーマンスを披露した。

 圧巻だったのが、小学生・学校参加の部で金賞に輝いた横浜市立南台小の「南台Dream Girls」。ダンス部員が成長する過程を表現した。映画「ドリームガールズ」の曲に合わせて踊り、モノクロの衣装がカラーのドレスに変わるなどの趣向を凝らした。「成長する」ということを、衣装の色調や表情、動きで表現する。演技後のインタビュー時の笑顔で、満足した演技だったことがうかがえた。

城内さん拡大「春風」を演じる城内結衣さん。小学2年の時、プロ野球・横浜戦を見に行った際、演技をしたチアリーダーに憧れてダンスを始めたという。「見た人が笑顔になれるような演技を心がけています」=静岡県富士市のロゼシアター
 9月14日、ここ数年ダンスの取材で時折相談に乗っていただいている米山温子さんが代表を務めるダンスチーム「CHEERS FACTORY」(静岡県富士市)の10周年記念発表会が開かれた。

 躍動的なチアダンスの強豪チームだが、リリカルというカテゴリーの演技では文字どおり叙情的な動きが魅力だ。ダンスのスキルのみならず、表現力の豊かさが要求される。今回の発表会では、シニアリーダーの城内結衣さん(静岡県立富士宮西高校2年)らが春風をイメージした演技を披露した。久しぶりに米山さんと話をした際、ダンスと表現について尋ねてみた。

 米山さんは「踊りに表現は必要不可欠です。表現があるからこそ踊りがあるのかもしれません。全身で笑顔になれば踊りに花が咲き、全身でせつなくかみしめれば踊りに哀愁が漂い、人間の喜怒哀楽そのものがダンスをより豊かに表現しているのだと考えます」と話した。

GRINS拡大9月に開催されたチアの大会「JAPAN OPEN」で、今春の世界大会で優勝した日本女子体育大学ソングリーディングチーム「GRINS」が模範演技を行った。ダンス技術はもちろんだが、際立つのは表情の豊かさ。さまざまな大会で常に上位入賞する強豪だが、表現力が際だっている。演技終了後、しばらく拍手が鳴りやまなかった=代々木第2体育館
 「喜と楽」だけではなく時には「怒」、時には「哀」と、様々な方向から踊りを表現するために、チアダンスだけではなくリリカルにも挑戦しているという。

 我々が取材対象とするものが人間である場合には、おのずから喜怒哀楽が含まれており、それらを言葉の力を使って表現する。人間の主たる表現手段が言葉であることは論をまたないであろう。しかし、人間は身体によってより雄弁に表現することもまた可能なのだと思う。今夏、約3千人のダンサーをファインダー越しに眺め、そんなことを考えた。

(平井一生)