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ことば談話室

アホウドリ――優雅に飛んで長生き…なぜ「阿呆」?

菅野 尚

 「踊る阿呆(あほう)に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃソンソン」というのは徳島・阿波踊りの掛け声です。「踊る阿呆」と言われても怒る人はあまりいないでしょう。大阪で10年近く暮らした筆者も、「アホやな」と周りから言われても悪い気はしませんでした。

アホウドリ拡大優雅に飛ぶアホウドリ=長谷川博・東邦大名誉教授提供
 でも、国の特別天然記念物にも指定されている絶滅危惧種のアホウドリはどうでしょう。細長い翼でグライダーのように飛ぶ姿は優雅で、長寿を象徴するツルより長生きするという生態も最近わかってきました。「アホウ」と呼ばれ続けるのは気の毒な気もします。

 どうして「アホウドリ」と呼ばれるようになったのでしょうか。

 ◇羽毛目当てに乱獲され激減

 アホウドリはミズナギドリ目アホウドリ科に属します。アホウドリ科の鳥は世界に約20種いますが、北半球に生息するのは3種のみで、特別天然記念物に指定されているのは名前の前に何もつかない「アホウドリ」です。

あほうどり拡大個体数が増えてきたアホウドリ=長谷川名誉教授提供
 かつては北太平洋の島々に数百万羽いたとされますが、羽毛目当てに19世紀末から20世紀初めにかけ人間に大量に捕獲されました。一時は絶滅したと思われていましたが、1951年に伊豆諸島の鳥島で「再発見」されました。

 「アホウドリ」について、世界大百科事典(平凡社)は「地上ではよちよち歩くのがやっとで、かなり助走しなければ飛び立てない。人間のどうもうさを知らず、逃げることがなかったので、たやすくとらえられ、このため『アホウドリ』と呼ばれるようになった」としています。

 アホウドリは夏を北太平洋の海の上で過ごしますが、繁殖のため10月ごろ日本近海にやってきます。主な繁殖場所は鳥島と尖閣諸島で、つい最近、ハワイ近海と小笠原諸島でも1組のつがいの繁殖が確認されました。環境省や東京都などが鳥島で営巣地を保全するなどの保護活動に取り組んできました。アホウドリを長年研究している長谷川博・東邦大名誉教授(66)によると、「活動が奏功し総個体数は推定で3500羽を超えるまでになった」といいます。

 長谷川さんは、アホウドリの名は19世紀末の学術論文にも登場し、1922年発行の日本鳥学会編・日本鳥類目録で確定したのではと推測します。「講演会などで名前の由来を話すと、悲しそうな顔をする子どももいる。鳥は長い間、捕獲され、人間に利用される対象でしたがいまは違う。ともに生きる仲間として敬意を込めて呼びたい」

 山口県長門周辺の漁師が呼んでいた地方名の「オキノタユウ」にしてはどうか、と論文などで長谷川さんは呼びかけています。タユウは漢字で「大夫」、この地方で神主を指し、「沖の海にすむ立派な鳥とか神々しい鳥」の意味になるそうです。研究の結果、最高寿命も50~60年とツルより長く、生涯一夫一妻制をとることがわかってきました。

 ◇差別語含む動植物名、見直し進む

 人間からの一方的な感覚で差別的な意味を含む名前が動植物につけられている例は多いです。「メクラ」「オシ」「イザリ」などが、魚類の標準和名に多く使用されてきました。

 標準和名は、その種を示す日本語の統一的な名称で教科書や博物館などの展示にも使われます。日本魚類学会は「命名時に差別的な意図はなかったとしても、和名の利用者に対し、精神的に傷つけたり不快感をもたらしたりすることがある」として15年ほど前から、差別的な名前が含まれる標準和名の言い換えに取り組んできました。

イザリウオ拡大ダイバーにも人気のカエルアンコウ=インドネシア
 「名前を変えても差別はなくならない」「博物館など展示の現場で混乱する」などの反対意見も出ましたが、同学会は2007年2月、「バカ」「セムシ」なども含む九つの差別的な言葉を含む標準和名を言い換えようと提唱しました。たとえばメクラウナギはホソヌタウナギ、オシザメはチヒロザメ、イザリウオはカエルアンコウになりました。

 イザリウオは、足の不自由な人が手を使って歩く様子を例えたとされます。岩などに擬態し一見して魚に見えず、胸びれの変化した手(足?)で海底をちょこまか動く様子がダイバーに人気で、「イザリー」というあだ名で親しまれてきました。形態がカエルを連想させ、アンコウ目に属するなどの理由でカエルアンコウになったそうです。最近の雑誌やダイビングに関するホームページを見ても、カエルアンコウの名が広く定着しているようです。

 ◇個体増えれば改名の機運も?

 アホウドリの名前はどうなるのでしょうか。日本鳥学会は一昨年、日本鳥類目録改訂第7版を出しましたが、アホウドリの和名は変わりませんでした。鳥類目録は標準和名ではなく、より広い意味の和名を掲載しています。

 日本鳥類保護連盟元理事で目録編集委員会委員長の柳沢紀夫さん(73)は「今回は変えたほうが良いという意見はなかった。変更するとなればさまざまな法律名などにも影響が及ぶ。10年をめどに次の改訂の努力をするが、改称について論文が発表されるなど提案があれば検討するかもしれない」としています。

 繁殖地のひとつ鳥島は火山で営巣地に被害が及ぶ危険があるため、環境省や山階鳥類研究所(千葉県)などによって小笠原諸島・聟島(むこじま)にヒナを移動させ繁殖させる試みも始まっています。将来、さらに個体数が増えて、人々が目にする機会が多くなり生態への理解も深まれば、アホウドリという名前を変えようという機運が高まるのではないでしょうか。

(菅野尚)

 

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