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ことば談話室

「ご当地」というブランド

細川 なるみ

 去る11月3日、「ゆるキャラグランプリ2014」の結果発表があった。私が応援していた「しまねっこ」は大健闘の7位……というのはさておき、一つの疑問が浮かんだ。

 10月にはゆるキャラの代表格ひこにゃんの地元で「ご当地キャラ博in彦根」があったが、同じような“着ぐるみ”のイベントなのになぜキャラたちの呼び名が違うのだろうか。

 「ゆるキャラ=ご当地キャラ」だと思っていたが、ゆるキャラグランプリには企業のイメージキャラも参加しているようだ。最近ではスポーツチームのマスコットや、「ゆるキャラ」という言葉が生まれる前から人気のあった、たれぱんだやリラックマといったキャラクターまでひっくるめて「ゆるキャラ」と呼ぶこともあるようだ。一方で外見の不気味さ、動きの激しさなどを売りにする「ゆるくない」ご当地キャラも増えてきている。

コレクション拡大ご当地キティコレクション。この収納方法は、隣の部署のキティラー仲間に教わった=いずれも細川なるみ撮影
 実は「ご当地キャラ博」はおととしまで「ゆるキャラまつり」の名称で開かれていたが、ゆるキャラのイメージがあいまいになってきたため、参加を自治体や商工会、観光協会などのキャラに絞って、地域おこしという本来の目的をはっきりさせたのだという。「ゆるキャラ」は商標登録されているという事情もあり、地域密着型のキャラを「ご当地キャラ」などと言いかえることが多いようだ。

 「ご当地」。最近とみによく見聞きするが、改めて考えると謎の言葉だ。「ご」は尊敬の接頭語のようだが、それにしては名乗る方が自ら「ご」を付けていたりする。

 ◇増え続けるキャラクターグッズ

ご当地キティ拡大四国出張をきっかけに集め出したご当地キティ
 「ご当地」で有名なキャラといえば、「ご当地キティ」も忘れてはならない。キティちゃんが各地の特産物を食べたり頭にかぶったり、祭りの衣装を着たり、観光名所にしがみついたり……。1998年に登場して以来人気は衰えず、「キティラー」と呼ばれる熱心なコレクターも多い。かくいう私も昨年から集め出したのだが、その種類の多さにはいつも嘆息、もとい脱帽させられる。

 しかし、おみやげ売り場を物色していてそれ以上に驚くのは、キティ以外の「ご当地」グッズの多さだ。その地のゆるキャラなら分かるが、「ご当地リラックマ」や「ご当地くまモン」など、「これがご当地?」と考え込んでしまうものがずらり並んでいる。コスプレをしたり観光名所にしがみついたり、というのはキティちゃんと同じパターンだ。

 こうしたグッズをまとめた「ご当地キャラ.com」のサイトによると、「ご当地」を冠したキャラクターグッズはいまや50種類近くにのぼり、「ご当地妖怪ウォッチ」や「ご当地進撃の巨人」もさっそく登場している。ご当地キティの成功を受けて二匹目のドジョウを狙ったのかもしれないが、ここまで来ると地域おこしというよりも、全国区のキャラクターの知名度に「地域限定」という希少価値をくっつけてコレクターを踊らせているだけでは、と勘ぐりたくもなる。

 ◇自らつける「ご」、誰への敬意?

 「当地」は読んで字のごとく「(いま自分がいる)この土地」のことだが、これに「ご」がついたとたんに正体が見えなくなる。「ご(御)」は尊敬または丁寧の意を表す接頭語だが、誰への敬意なのかが分からないし、丁寧の意だとしても、名詞とくっつける時は「ご当地のキャラ」と助詞を入れるのが本来の形だろう。

 手元の国語辞典(明鏡国語辞典・2版)で「ごとうち」を引くと、「御当地」との見出しで、

 (1)「当地」の尊敬語。ある土地を訪問した人が、そこに住む人を高めてその土地をいう語。「――は風光明媚なところですね」

 (2)【ある土地に特有のものを指し示して】その土地。その地方。「―ソング(=ある土地をテーマにした歌謡曲)」「―キャラクター」

とある。

 私が求める説明は(2)に当たるのだろうが、地元の人間が自分たちで作ったキャラを「ご当地キャラ」と呼んでアピールするのは、自分で自分に敬意を示すようでおかしいのでは?

 そもそも(2)の意味を載せている辞書は非常に少ない。20冊近く調べたところ、言及していたのは新語に詳しい3冊のみ。新明解国語辞典(7版)はもう少し詳しく、

 「【造語的に】その土地の特徴を表して(をテーマにして)いることを表す。『ご―名物のおみやげ品/ご―ソング・ご―物』」

としている。

 朝日新聞では、(2)の用法は1969年の「ご当地ソング」が初登場のようだ。そのころ地名を冠した歌謡曲が流行しており、背景には新人を地方でヒットさせてから全国に売り出したいレコード会社の戦略や、人気歌手に歌ってもらって地域の知名度を上げようという地元の思惑などがあったようだ。

 その後も「ご当地噺(ばなし)」「ご当地力士」などがちらほら登場するが、90年代までは(1)の意味合いで使われているケースも多い。現在の紙面では(1)はほとんど見られず、やや時代がかった表現との印象だ。(2)も初期は見出しのみで使われていることが多く、「地元出身の」といったことを見出しで短く言いかえるのに重宝された造語だったのかもしれない。

 ◇地域の魅力が伴ってこそ

 ご当地ソングブーム以降も、ラーメン、ビール、ナンバープレート、カレー、ポッキーやキットカットなどのおみやげ菓子、アイドル、検定、ヒーロー、B級グルメ――などなどで「ご当地」を冠したものが特に90年以降次々と生まれ、「ご当地」がビジネスにおいて強力なブランドになっているのが分かる。

 ご当地カップめんを紹介した99年3月の朝日新聞記事では、「街の名前がひとつのブランドになる『ご当地ブーム』」「個性的な味が各地にあるのを消費者が認識してきた」と読み解いている。

警察拡大地域限定だけでなく、警察限定バージョンも
 身近な食品やキャラクターを入り口に地方の魅力を掘り起こすのは、首相が「地方創生」をうたい、若者の地元志向が強まっている時代の流れにも合う。ただ、有名キャラクターや人気商品とコラボしただけの「ご当地化」や、とりあえずゆるキャラだけ作ってみた、というのでは地域の個性は伝わってこない。

 ご当地キティが成功したのは、キティちゃんの魅力だけでなく、数限りない限定版が作れるほど個性豊かな地方の存在があったからこそ。地域の魅力がつまった小宇宙を作り上げる感覚――それこそが、私が収集に夢中になってしまった一番の理由だ。実際にその土地を訪れ、旅の思い出も詰まっている。商売戦略の後ろに郷土愛が感じられなければ、これほど多くのキティラーは生まれなかっただろう。

(細川なるみ)