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ことば談話室

「USB」といったら……?

金子 聡

 「USB」と聞いてみなさんは何を思い浮かべますか? パソコンに差し込んでデータをやりとりするUSBメモリーでしょうか? スマートフォンを充電するケーブル? それとも、差し込み口の形でしょうか?
 学校の先生が生徒の成績など個人情報の入ったUSBメモリーを紛失した、という記事が新聞の社会面に載ることがあります。メモリーを指して「USB」と略した表記を見たこともありますが……本来の意味から離れた略し方のような気もします。

 筆者の同僚たちに尋ねてみたところでは、「USBといえばUSBメモリー」という答えが多数派でした。本来「USB」は「Universal Serial Bus(ユニバーサル・シリアル・バス)」の略称で、「ユニバーサル」が表すように、パソコンにさまざまな周辺機器をつなぐための伝送方式の規格です。しかし「携帯」が携帯電話の略称となったように、USBメモリーほど身近な「USB○○」が他になかったため、定着したケースということもできそうです。

◇規格の誕生~1996年

 昔のパソコンでは、マウスやキーボード、プリンターやスキャナーといった周辺機器は、接続してからパソコン本体の電源を入れないと使えませんでした。機器によってケーブルの種類が異なる分かりにくさもありました。そういった不便さを解消するために接続規格を統一し、起動しているパソコンにつないでもすぐ使えるような伝送方式が考案され、「USB」として定められました。1996年のことです。
 しばらくしてウィンドウズ98が対応して手軽に扱えるようになったり、「USB2.0」規格で最大伝送速度が40倍に向上したりしたことで、さまざまな周辺機器に採用されていきました。当時流行の最先端だったデジタルカメラから、パソコンに写真を取り込むケーブルに使われ始めたのもこのころです。
 また、パソコンに接続する外部記憶装置のハードディスクドライブ(HDD)にも利用されるようになりました。精密な駆動装置を内蔵しているHDDは衝撃や振動で壊れるおそれがあります。それまで普及していたフロッピーディスクは単なる磁気記録媒体で、そういう心配はないものの記憶容量が少なく、パソコンに取り込んだ写真をたくさんやりとりするような目的には不向きでした。ちなみに「『ハード』ディスクは『フロッピー(やわらかい)』より取り扱い注意」という、名前のイメージとは裏腹の特性は、USB登場以前からパソコンマニアの間でしばしば冗談のネタにされていました。

◇日本でメモリー発売~2000年

拡大青い端子は「USB3.0」に対応。2013年には伝送速度などが向上した「USB3.1」規格ができた
 そして2000年6月、日本で初めてUSBメモリーが発売されます。記憶容量は16~64メガバイト(フロッピーディスクの10~40倍くらい)で8千~2万5千円ほど。現在では16ギガバイト(ギガはメガの1千倍)で2千円以下が主流ですから、当時はかなりの高級品でした。年々製造技術が発達し、容量が増えて価格が下がるにつれ、HDDより衝撃に強く、フロッピーより大容量で、CD-Rよりかさばらない、といった長所から広く使われるようになりました。見た目も当初はチューインガムの箱のような直方体に近い形ばかりでしたが、現在ではキャラクターをかたどったもの、エビフライやすしなどの食品をかたどったもの、といった変わり種も作られています。2008年に定められた「USB3.0」規格では最大伝送速度が一段と向上し、「2.0」の約10倍になったため、大きなデータの読み書きに時間がかからなくなりました。

◇容量は大きく、値段は安く~現在

 USBメモリーが大容量化、低価格化したのは、格納されている半導体「フラッシュメモリー」の性能向上のおかげです。電源が切れてもデータを保持でき、書き込みと消去を繰り返せるこの半導体は、1987年に東芝の技術者だった舛岡富士雄さんによって発明されました。それまでにもデータを保持できる半導体はありましたが、消去するために紫外線を当てる必要があったり、1ビット単位で読み書きするため必要なトランジスタ数が多く高価だったりしました。手軽に扱えるようになった画期的なアイデアのきっかけは、営業職のときに高性能でも高価な製品が売れなかった経験から、コストダウンのためにトランジスタ数を減らして一括消去する方式にした結果だったそうです。「フラッシュメモリー」は携帯電話やデジカメ用のSDカードなどにも欠かせない技術となり、舛岡さんはこの功績で2007年に紫綬褒章、13年に文化功労者に表彰されました。

 こうして便利なUSBメモリーが広く普及したおかげで、いまでは単に「USB」といえばUSBメモリーを指すのが一般的になっています。朝日新聞の記事で、繰り返し出てくるときや見出しで省略するときは通常「メモリー」と表記していますが、字数を節約するため「USB」を許容することもあります。家電量販大手ヨドバシカメラ・マルチメディア梅田店のパソコンコーナー担当者によると「『USBどこですか』などと聞かれるお客様は100%、USBメモリーが目当て。USBケーブルなど、その他の周辺機器を探されるお客様は略さないですね。ほかには『CDください』というお客様にCD-RやDVD-Rの種類を詳しく確認したら、実はブルーレイディスクのことだった、なんてこともありました」ということでした。

◇将来はどうなる?

拡大USB接続のHDD。録画した番組でいっぱいになっても、HDDを交換すれば容量を気にしなくてすむかも?
 実際、ツイッターで検索してみると、「データの入ったUSB忘れた」などUSBメモリーを指す使い方がたくさん見つかります。ただ「USB忘れて充電できず」などと、スマホ充電用のUSBケーブルを指すと思われる例も見られます。また最近の薄型テレビでは、HDDをUSBケーブルで接続することで、レコーダー代わりに録画できる機種もあります。「USBといえばUSBメモリー」という図式が続くとは限らないようです。写真データなどのやりとりに、インターネットを介したクラウドサービスの利用も増えてきていて、最近はUSBメモリーを使う機会が減った、という人もいるでしょう。情報技術は日進月歩。昔はパソコンの記録媒体の中心だったフロッピーも、今ではすっかり見かけなくなりました。そう遠くない将来、「USBメモリーを知らない」若い世代が現れても不思議ではありません。

(金子聡)

※リニューアル準備のため、3~4月の更新は不定期になります。ご了承下さい。次の記事は3月中に更新する予定です。