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人権・校閲

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聞こえる人より早く目覚める報知機

山村 隆雄

拡大わさびの刺激で知らせる警報器が、開発したシームス、エア・ウォーター防災から香川県立聾学校に寄贈された。スプレー(中央)を右のケースに入れて使う。住宅用火災警報器(左)と連動する=2009年4月
■聴覚障害者と火災報知機
 今年の「イグ・ノーベル賞」の化学賞を日本人化学者ら7人が受賞しました。わさびのにおいがする気体を噴射し、寝ているときでも火災を知らせてくれる装置の開発に携わった人たちです。「イグ・ノーベル賞」はユーモアある発明や研究に与えられる賞で、日本人の受賞は5年連続。受賞したのは、装置を開発した田島幸信・香りマーケティング協会理事長、今井真滋賀医科大講師、香りを扱うベンチャー企業のシームス(東京)の漆畑直樹社長ら。臭気発生装置を製作したエア・ウォーター防災(神戸市)の技術者2人も共同受賞しました(朝日新聞9月30日「イグ・ノーベル賞に日本人 つ~んとわさび火災報知器」)。

 「においによる火災報知機」は一見笑い話のようですが、聴覚障害者にとっては待望の発明でした。

 住宅用火災警報器は新築住宅では2006年から、既存住宅も今年6月までに全国で設置が義務化されました。消防庁によると8月時点で普及率は7割(朝日新聞8月9日付「住宅用火災警報器、普及7割」)。ただし、警報器は音で知らせるものがほとんど。「音だけの警報器は1台4千円程度からあるが、ストロボなど光も発するタイプは2倍以上の値段になる」こともあり、警報音が聞こえない聴覚障害者の家庭への設置率は昨年末時点で「2%程度」でした(朝日新聞2010年11月26日「警報器効果で火災死減 聴覚障害者らへの対策必要」)。

 シームスの漆畑さんが2004年に開発に着手したきっかけは、耳の不自由な少女との出会いでした。「夜中に火災報知機が鳴っても起きない。音のない世界を思い浮かべると、身震いがした」そうです(日経新聞10月24日付夕刊「フォーカス 漆畑直樹氏」)。

 火災報知機に使える臭いを探してペパーミントや靴下、わきの下、ごみなど様々な臭いを試した結果、最も適したのがわさびであることを突き止めました。「くさいにおいはすぐに慣れてしまい覚醒作用がないことが分かった」そうです(産経新聞10月7日東京版「開発企業「望外の喜び」 火災“わさび”警報装置、イグ・ノーベル賞受賞」)。

 わさびのにおいで臨床実験を繰り返した今井さんと琵琶湖病院の村上純一医師が、眠りから目覚める最適な濃度を発見しました。起きるまでの時間は、健常者の平均45.3秒に対し、聴覚障害者は21.1秒と半分以下。村上さんは「障害を補うため、他の機能が発達したのではないか」とみているそうです(朝日新聞10月5日滋賀版「『いつか本家の賞』と期待も」)。この報知機は開発したシームスから09年に発売され、ホテルなどで利用されています(大阪読売新聞10月5日「イグ・ノーベル賞受賞『臭い火災報知機』松江にも ホテルで貸し出し)。

(山村隆雄)