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人権・校閲

こちら人権情報局

歌で発達障害への理解訴え

門田 耕作

■シンガー・ソングライターうすいまさとさん ライブ&トーク

拡大歌で発達障害への理解を訴えるうすいまさとさん=12月9日、横浜市南公会堂
 障害者週間の12月9日、3人の発達障害の子を持つシンガー・ソングライターうすいまさとさん(37)のライブ&トーク「生まれてくれてありがとう~自閉症児直人が教えてくれた大切なこと~」が、横浜市南公会堂で開かれました(南区役所主催)。うすいさんは歌を通して発達障害への理解を訴え、違いを認め合う共生社会をつくっていこう、と呼び掛けました。

 「ワン、ツー、スリー!」とテンポよく始まった曲は、「ノーノーノーみんな ノーノーノー違うから ノーノーノーノーいいんじゃない~」と意表をつく出だし。ノー、つまり「脳」を何度も繰り返す「脳の歌」でした。発達障害ははたから見てわかりづらい脳による障害なので、子どもからお年寄りまで、みんなにわかってもらえるようにと作った歌だそうです。

■自閉症とは、をわかりやすく

 脳にキズがあって、なかなか思うように手足が動かないのが「身体障害者」、うまく読めなかったり計算できなかったりするのが「知的障害者」、見たり覚えたりできていてもうまく口や体を動かせない、それが「自閉症」らしいんです、ほら同じ言葉を繰り返す友達、あなたの周りにもいませんか?――わかりやすく歌にして伝えています。

 うすいさんは「自閉症って、どんな人か知っていますか?」とまず、客席に問い掛けました。

 「自閉症は、自ら閉じこもる、と書くので、自ら閉じこもってしまう人と考える人もいるかもしれませんが、そうではないんです。怠けているのでもなければ、病気でもなく、本人はやりたくてもうまくできないんです。小学生から質問されたことがありますが、つばが付いてもうつったりしません。脳の障害だということを知ってください」と。

 「人はいつか障害をもちます。年を取っても、事故に遭っても、病気になっても脳に傷が付きやすくなります。障害という辛さを持っていることは、みんなの問題だと思います」

■いいこだわり、増やす

拡大うすいさんの著作「自閉症のきみの心をさがして」(ぶどう社、1680円)
 うすいさんの長男直人君(11)は、2歳、3歳になってもなかなか言葉が出ませんでした。道路を歩くとマンホールを必ず踏みたがり、行きたいところがあるとどこまでも行ってしまう。公園の砂をすくってサラサラ落ちる様子をいつまでも眺めていたり、光をつかまえようとしたり。不思議で、激しい行動が目立つようになりました。思うようにいかなかったり、周囲が止めようとしたりすると泣き叫ぶばかり。

 うすいさんは昨年出した本「自閉症のきみの心をさがして――シンガーソングライターパパの子育て――」(ぶどう社)の中で、「なんで泣いているのか、どうしたらいいのかわからず、直人の涙の意味を手探りで探し続ける、そんな日々でした」と書いています。

 ラーメン屋などに行くとお客さんを押しのけて座席番号を確認してしまう直人君。文字や数字、標識などに興味を示しました。また、人が怒っている声が苦手で、誰かが声を荒らげているとその人に「ごめんねして!」と詰め寄りました。

 こうした「こだわり」は、周囲から見ると困った行動と映りがちですが、「不安なことから身を守るように『こだわり』をしていることもある」(前掲書)と考えたうすいさんは、こだわりを和らげるために、彼に寄りそう気持ちが大切なんだと感じているそうです。

 「不安があるから、こだわりに走るのだから、こだわりを増やせば、不安が減る」(同書)と言う妻かおるさんの発案で、「いいこだわり」を増やそうと、一流の絵本やアニメにできるだけ触れさせようとしました。すると、保育園の4歳児クラスに入ったころから、急に絵を描き始めたといいます。

■絵や物語で感情伝え

 5歳でまだ言葉がほとんどなかった頃のある日の夜中、「ギャー」と突然泣きだしました。うすいさんにはなぜ泣いているのかわかりませんでしたが、何かを描くしぐさをしたので紙とクレヨンを渡すと、直人君は「大きな君、泣いちゃったねえ」と叫んで「大きな君」の絵を描きました。「大きな君」とは、近所にあった大きなボンボン時計で、直人君がこだわってよく見に行っていたものでした。数日前に、ボンボン時計を見に行けなかったことを思い出して泣いていたのでした。

拡大スクリーンに映された直人君が描いた絵をもとに、直人君の「得意な事」について話すうすいさん。スクリーン左上の絵が「大きな君」
 「そうか、大きな君のところへ行きたかったのか!」。うすいさんはギューっと直人君を抱きしめるとパニックもおさまったといいます。直人君が初めて、絵を通してうすいさんに気持ちを伝えた瞬間でした。

 2年前の夏休み、母かおるさんの実家・和歌山が大好きな直人君は、和歌山へ家族で帰省した帰りの飛行機で、号泣しながら「直人も和歌山になついたの?」と言ったそうです。これは、和歌山に行く前に読んだ「星の王子さま」に出てくる一場面、王子さまとキツネが別れるシーンの「きみ(キツネ)がぼくになついたんだ」という王子さまの言葉だったのです。

 「自閉症の人は、他人の気持ちを読み取ったり自分の感情を確認することが難しいと言われますが、物語を通して感情の機微を感じることができました。キツネが王子さまと別れる悲しい気持ちと、自分が和歌山と別れる悲しい気持ちがつながったんです。その涙の意味をかみしめた感動の夏でした」

■仲間の中で大きく成長

 直人君は現在小学5年生の11歳。保育園、小学校と進み、仲間の中で大きく成長しました。

 6歳下の妹ひとみちゃんは難治性のてんかんです。直人君は8歳の時の七夕の短冊に、「ひとみちゃんがおはなしできますように」と願いごとを書きました。いまではひとみちゃんに読み聞かせをしてあげようと頑張っています。いつの間にか、妹思いのお兄さんになりました。

 アスペルガー症候群の4歳下の弟義人君とはけんかが絶えないライバルですが、弟とのやりとりの中から学校でのトラブルへの対処法を学んでいると、うすいさんは感じています。

 直人君は、急な予定変更や言葉で伝えること、周りの空気を読むのが苦手。それでもパソコンが好きで、算数が得意、記憶力もすごくて、少しずつ出来ることが増えています。最近ではサッカー、水泳、囲碁教室にも行けるようになったし、地域の集団登校の通学班長もこなしたそうです。「自閉症だからこうだ、と決め付けない方がいいかな」とうすいさんは思っています。

■母親とのかけ橋に

拡大うすいさんが出したCD。コンサートで歌われた「脳の歌」は上に、「ママへ」「all for one,one for all」は下に収録されている。「ママへ」のジャケットには、直人君の描いたキャラクターがいっぱい
 うすいさんは直人君が4歳2カ月で自閉症と診断されてから音楽活動を休止、直人君と向き合う中で絵やこだわりを通して直人君の心に触れていったそうです。そして自閉症の少年東田直樹さんの本「この地球(ほし)にすんでいる僕の仲間たちへ」(エスコアール)に出あいます。その中の「みんなが分かってくれるように、僕が頑張ります」というメッセージに心を打たれたうすいさんは、自分に何ができるかを考え、「歌で発達障害の子らの思いを伝えよう」と心に決めました。すると、自然と曲が生まれ始め、2008年4月、東京でのイベントで4年ぶりに音楽活動を再開しました。いま、「発達障害啓発ライブ&トーク」で全国を回っています。

 「ねえママ」と始まった歌は、「言葉で伝えることができない彼らと、言葉で確かめることのできない母との架け橋になれたら、と願いを込めて」生まれたそうです。小学2年のある日、直人君に「ママへ」を歌ってとせがまれて歌うと、歌詞を書き取り始めたと言います。

 「ママへ ネー ママ ここにうまれてこれて ぼくはしやわせです。うんでクレテ ありがとう うまくいかないことばかり ぼくのことでかなしませてばかりでごめんねママ……」(前掲うすいさん著書から)

 筆記が追いつかない時は歌を止めて、「はい次」と確認するように書いていったといいます。お父さんの歌を聴いていて、自分のお母さんへの思いを確認していたのでしょうか。

■違い認め合い、共生社会を

 トークの最後にうすいさんは、「彼らは不思議な行動をするので、こちらからその意味を想像しながら、寄り添っていかないとなかなかうまくいかない。逆に言えば、人の気持ちを想像すること、人を思いやる気持ちを、毎日我が子から学んでいます。この地球上の70億人の人は、みんな一人一人違う。みんなどこかでつながって、支え合っている。生活習慣や思い、宗教などの違いを認め合い、敬い合って、たたえ合っていくことが、共生社会をつくっていくことかな。その一端を彼らに接していくことで学んでいくことができるのかな、と思っています」と話しました。

 最後の曲は「all for one,one for all」。みんなはつながっている、みんなはひとりのために、ひとりはみんなのために何ができるか一緒に考えよう――と呼び掛けました。「みんなの声を、みんなの力を!」とステージから叫ぶうすいさんに応じて「ラララ、ラララ〜、ラララ〜ララ〜」の客席の大合唱の中、大きな拍手と歓声に包まれたエンディングでした。

(門田耕作)

※24日にも記事を更新します。年末年始は更新を休ませていただきます。2012年は1月20日から更新を再開します。