人権・校閲
こちら人権情報局
(2012/03/02)
顔や体にあざがあったり、事故や病気による傷ややけどの痕、脱毛などといった症状があったりする人たちが生活の中で直面している「見た目問題」。いま、大阪市浪速区の大阪人権博物館(リバティおおさか)で開かれている企画展「『見た目問題』ってどんな問題?~顔の差別と向きあう人びと~」の関連シンポジウムで2月、当事者が登場し、症状や悩み、それらに向きあう生き方などについてざっくばらんに話しました。
前回はアルビノの症状を持つ3人の女性の明るい生き方を紹介しましたが、今回は円形脱毛症、トリーチャー・コリンズ症候群の当事者が新たに登場します。
シンポジウム2日目(2月12日)は、3人のパネリストが前に並びました。企画展の展示ガイドを務めた単純性血管腫の中谷全宏(ともひろ)さん(39)と「円形脱毛症を考える会」の副会長相本由利子さん(48)、トリーチャー・コリンズ症候群の大学生石田祐貴さん(19)。日本アルビニズムネットワークのスタッフ粕谷幸司さん(28)が、見た目に症状のある人をサポートするNPО法人マイフェイス・マイスタイルの外川浩子代表と掛け合いで司会進行を務めました。
■スキンヘッドにタトゥーシール
相本さんは、スキンヘッドにバラの模様のタトゥーシールといういでたちで現れました。円形脱毛症は比較的よく聞く名称で、頭に10円玉大のハゲ(脱毛斑)が一つ二つできただけで自然に治る人も多いのですが、相本さんは全頭型といって、脱毛斑が次々にでき、頭の毛が全部抜け落ちてしまう症状です。ストレスが原因とも言われますが、医学的には根拠はなく、原因ははっきりしていないそうです
トリーチャー・コリンズ症候群は頰やあごの骨、耳などが未成熟で生まれ、あごが小さく、目が垂れているのが特徴で、小耳症により難聴を伴うことが多いそうです。石田さんは、大学では卓球や手話、障害者サークルを満喫する普通の19歳の青年です。「今はフリー」と彼女いない歴のことも話してくれました。
「社会にうまく溶け込むコツは?」という会場の当事者からの質問に、相本さんは「時間を味方につけることです。ゆっくりと自分と向きあう時間をとること。あとは堂々としてればいいんですよ、人はあまり見てません」ときっぱり。これにはアルビノエンターテイナーを自任する司会の粕谷さんも「当事者的にはズキーンときて、鳥肌が立ちました」。
■理解してくれる友達を
石田さんは「まだ二十歳にもなっていないので社会といわれても……」と言いながら、「理解してくれる人を友達にして、そこから広めていくともっと楽しくなると思います」と、学年が上がるごとに視線を感じることが気にならなくなってきた体験をもとに答えました。
顔の右側に赤いあざのある中谷さんは「初めて見たらびっくりするのは当たり前、どう接したらいいのかわからないですから。それは待つしかない。外見で人を判断する人は近づいてこないので、逆に楽かな」と、年長者らしいアドバイス。
「コンプレックスを感じたことは? それをどう克服したの?」の質問に中谷さんは、若い頃傷つくことが多かったのは、「見た目第一」という周囲と同じ価値観でいたからだと振り返りました。年も重ねて慣れてきて、「内面が大事だという価値観に変わってきたので、今は別に傷つきません」。
石田さんも「小さい頃は親に恨み言を言ったこともあるが、見た目ではなく中身を大切にしてくれる友達と出会ったのであまり気にしなくなった」と答えました。
相本さんは29歳の時に発症、1カ月半から2カ月の間に全部抜け落ちてしまいました。「女性で20代でハゲはない」と決め付けていたので、「すごく落ち込んで、人に会うのも怖かった」と言います。それが数年後、当事者会に出あってからふっきれたそうです。「なんで女の人でハゲてたらアカンのやろ」と。今では「ハゲでもカッコよく生きたい。私は他の人がもっていない魅力があるのよ」と思っているそうです。
■それがあんたや、それでいい
2日間にわたるシンポジウムのエピローグでは、家族からもらったいい言葉やうれしかったことが紹介されました。
相本さんは夫に頭をそってもらいながら、「こんな日が来るとは思わなかったなあ」という夫の言葉にジンと来るといいます。子どもに「お母さんハゲやけど好き?」と聞いても、「全然関係ないよ。カッコイイよ」って言ってくれるそうです。
石田さんは小学生の時いじめられ、母親のせいにしてなじったときに、「どんなことがあっても私の子よ。それがあんたやからそれでいいんちゃう」と言われたことを思い出します。中谷さんは「とくに何も言うこともなく、手をつないで買い物に連れていってくれたし、普通に、当たり前のように育ててくれたのがありがたかった」と振り返りました。
「見た目問題」という概念を提唱し、当事者の孤立をなくすために活動してきたマイフェイス・マイスタイルの外川さんは、「見た目問題」もこの10年でメディアに取り上げられる回数が断然増え、当事者、しかも普通の当事者が自ら発信する量や力も格段に違ってきたと感じています。でもまだ、社会一般の反応はあまり変わっていない、というのが実感だそうです。
最後に外川さんは「『見た目問題』の活動は産声を上げたばかりですが、一つの大切な人権問題です。当事者が一人で頑張るのではなく、みなさんで一緒に考える、というよりは触れていくというニュアンスで取り組んでいければと思います」と訴えました。
■「問題」触れてみて
私自身、円形脱毛症というのは単なる「10円ハゲ」だと思っていましたし、トリーチャー・コリンズ症候群という名称を知ったのはこの取材が初めてでした。差別や偏見の中、勇気を持って一歩でも半歩でも踏みだそうとしている当事者の方がたくさんいることを知りました。読者のみなさんもぜひ、この問題に触れてみてください。
(門田耕作)
◇
「『見た目問題』ってどんな問題?~顔の差別とむきあう人びと~」展は、リバティおおさかと「見た目問題」展実行委員会の共催、NPO法人マイフェイス・マイスタイルの企画協力で、3月25日(日)まで(3月5、12、19、21、23日は休館)、大阪市浪速区の大阪人権博物館ガイダンスルーム2で開かれています(電話06・6561・5891、ファクス06・6561・5995)。入館料大人250円 大高生150円、中学生以下・65歳以上・障害者(介助者含む)は無料。