メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

人権・校閲

こちら人権情報局

「愛情不足」は偏見です

■発達障害
 大阪の橋下徹市長が率いる「大阪維新の会」の大阪市議団が市議会に提案しようとした条例案が波紋を広げました。条例案では、親の愛情不足が発達障害の要因とし、その「予防」をめざすとしていましたが、専門家らから「科学的に誤り」「偏見を助長する」といった批判や指摘をうけ、5月7日に提案方針を撤回しました。

 朝日新聞の記事によると、この「家庭教育支援条例案」では、「親になるための学び」が必要との立場から、家庭教育の支援や伝統的子育ての推進を主張。「発達障害、虐待等の予防・防止」を掲げて、「乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害またはそれに似た症状を誘発する大きな要因」と明記しました。

 これに対し、発達障害の子どもの保護者らで作る大阪府内の13団体が、発達障害者支援法を踏まえて「発達障害は先天的脳機能障害。条例案の記述は学術的根拠がなく、偏見を増幅する」として、提出中止を求める要望書を維新側に提出。保護者らは記者会見で「親を追いつめる発想はやめて欲しい」と訴えました。

 一方、橋下氏も、報道陣に「発達障害の子どもを抱えて苦労されているお母さんに『それはあなたの愛情の欠如だからだ』と宣言するのに等しい」と批判。市議団に見直しを求めたことを明かしていたそうです。

 発達障害情報・支援センターのサイトによると、発達障害の定義を以下のように紹介しています。発達障害とは、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」(発達障害者支援法における定義 第二条より)とあります。この定義にあるとおり、今では「脳の機能障害」が定説です。しかし、かつては自閉症が心因性と誤解されていたように、一般への理解があまり広がっていない時期もありました。

 たとえば、今から17年前の1995年の5月に朝日新聞に掲載された記事。ある週刊誌が掲載した「おわび」を紹介しています。「(自閉症は)母親の育て方や社会環境など心因的なものとは関係ありません。無用な誤解を与える表現になりました」。これは、日本自閉症協会が、その週刊誌に掲載された文章の中に「自閉症に対して誤解を招く不穏当な表現」があったとして、文書で「訂正」と「謝罪」を求めたことに応えたものです。

 このような関係者の粘り強い働きかけなどがあり、社会の理解もだんだんと進みました。最近では、発達障害への誤解にもとづく表現を、新聞・雑誌やテレビなどのマスメディアで見かけることもあまりなくなってきました。

 そんな折に突然のように出された条例案。その内容には批判が相次ぎました。5月8日付の読売新聞の記事によると、発達障害に詳しい山崎晃資・臨床児童精神医学研究所所長は「医学的に発達障害は中枢神経系の機能障害とされている。愛情不足とは関係がなく、条例が成立すれば親がいわれのない差別を受ける」と話しています。朝日新聞の記事では、条例案を巡りネット上でも批判が相次いだことを紹介。脳科学者の茂木健一郎さんはツイッターで、伝統的子育てで発達障害や虐待が防止できるとする条文を「科学的にただしくない」。乙武洋匡さんは「誤解によって苦しめられている人が、たくさん存在しています」と訴えていたといいます。

 時代錯誤的な誤解をはらんだ条例案が、多くの批判を受け提出方針が撤回されたのは幸いでした。「親の愛情不足」といった根拠のない誤解によって、長く苦しんできた親たちの気持ちを考えると、やりきれない思いがします。公職たる議員の提案する条例案です。勉強不足と言われないよう、しっかりと理解した上で、世間の偏見を自らリードして打ち破っていくような見識をもって取り組んでほしいです。

(西光俊)