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人権・校閲

こちら人権情報局

発達障害者への判決で波紋

■判決「社会秩序の維持につながる」

 発達障害の一つであるアスペルガー症候群の男性被告に下された判決が、大きな波紋を呼びました。大阪市平野区の自宅で姉(当時46)を殺したとして、無職の男性被告(42)が殺人罪に問われた裁判員裁判。7月末に大阪地裁で出された判決は、検察側の求刑である懲役16年を上回る懲役20年という異例のものでした。裁判長は、被告が発達障害と診断されたことにふれ、「被告の障害に対応できる受け皿がなく、再犯のおそれが強い」と判断したのです。

 

 発達障害は、生まれながらの脳の機能障害が原因と考えられています。アスペルガー症候群の人たちは相手の気持ちをくみ取るのが苦手で、対人関係に支障を抱えやすいと言われています。

 

 朝日新聞などに掲載された記事による事件の経過では、被告は小学5年ごろから不登校になって自宅に引きこもっていたといいます。自立を促した姉を恨んで殺害を計画。昨年7月、自宅で姉の腹や腕を包丁で何度も刺して死亡させたとされています。

 

 弁護側は「障害の影響で感情をどうにもできなかった」として、執行猶予付きの判決を求めました。しかし、判決は、「健全な社会常識という観点から、十分な反省をせずに社会に復帰すれば同様の犯行が心配される」と指摘。親族が同居を拒否しており、「許される限り長期間、刑務所に収容することが社会秩序の維持につながる」と述べて、求刑は軽すぎると結論づけました。

■「差別を助長」批判が続々

 この判決に対しては、さまざまな団体から批判の声があがりました。

 日本自閉症協会の出した緊急声明では、判決要旨から五つの問題点をあげて指摘しています。(1)アスペルガー症候群であるから反省ができないというのは誤認である(2)アスペルガー症候群と犯罪との因果関係がないことは医学的に明確に証明されている(3)受け皿がないというのは誤解を生む可能性がある。そもそも成人した本人と親・きょうだいが一緒に住む義務はないし、グループホームやケアホームなどは社会が提供すべきものだ(4)不登校や家庭の問題などの「生活の困難さ」を、被告にすべて転嫁して厳罰に処する理由にするのは許されるべきではない(5)求刑より重い法定刑の上限を被告に課して厳罰に処するのは「アスペルガー症候群の人々を社会から隔離することで、社会秩序を維持すべきだ」というのと同義で、障害を理由とする差別的な判決だ、としています。

 

 さらに、これまでもアスペルガーに限らず、自閉症の人や家族が「いわれのない偏見や差別に苦しめられてきた」として、この事件の遠因に社会の無理解があったのではないか、とした上で、この判決でさらに偏見や差別が助長されるのではないかと危惧しています。

 

 では、判決で指摘された「受け皿」は本当にないのでしょうか。日本発達障害ネットワークの声明では、「受け皿が用意されていないこと」について疑問の声をあげています。「地域生活定着支援センター」などで年々専門的な対応が可能になり、また、発達障害者支援センターをはじめ、福祉施設などの支援がうけられるようになってきていると現状を説明。「その支援に何らかの形でアクセスすることは可能であり、支援やサービスに対する認識不足があります」としています。

■「予防拘禁以外のなにものでもない」

 求刑よりも長い懲役刑を言い渡されたことについてはどうでしょう。

 日本児童青年精神医学会は、声明で「日本の刑事施設には、アスペルガー症候群を有する受刑者のためのスタッフやプログラムは存在しない」として、刑務所への単なる収容を長期間にわたって続けることは「予防拘禁以外のなにものでもない」と指摘。「受け皿がないから刑務所に収容する」という判決に対し、「明らかな誤り」と断じています。

 

 日本弁護士連合会は、判決は発達障害に対する無理解と偏見に基づくものととらえています。日弁連は会長談話の中で、判決について「アスペルガー症候群について十分な医学的検討を加えることなく、これを社会的に危険視」しているとしています。そして、裁判員裁判においても「量刑判断に必要な医学的・社会福祉的情報が提供される」ことを求めています。

 

 朝日新聞の社説でも「偏見が過ぎる判決としかいいようがない」として、「裁判員の判断は重いが、前提を誤った判決は控訴審で是正してもらいたい」と批判しました。

 

 裁判の判決は、その時その時の社会をうつす鏡のようなものではないでしょうか。鏡が曇っていたり、ゆがんでいたりしたら、本当の姿はうつりません。控訴審判決では、そんな曇りやゆがみが取り除かれ、健全で常識的な判断がされることを期待しています。

(西光俊)

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