メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

人権・校閲

こちら人権情報局

生活保護―問題は「不正受給」だけなのか

■「不正受給額は総額の0.4%」

 10月6日の読売新聞は、埼玉県の女性が生活保護費約1千万円を不正に受給していたと報じました。親族の名前を使うなどして、東京と埼玉の計10市区で次々に受給したとして、自治体のチェックの甘さを問題にしています(この女性は詐欺容疑などで逮捕されたものの、公判中に死亡したとのことで、本人の言い分を聞くことはできません)。 

生活保護のインフォ拡大
 一方、10月7日の東京新聞は、高松市で路上生活をしていた男性が、同市に住民票がないことを理由に福祉事務所で生活保護の申請を受け付けられなかったと伝えています。住民票がなくても申請は可能で、後日、支援団体の人が同行し、受給することができたとのことです。

 このような問題が多く取り上げられるようになった背景には、生活保護の受給者が1990年代半ばから増え続け、211万5千人(6月時点)と戦後最多になり、金額も2012年度予算で3兆7千億円に達しているという財政上の理由があります。財政負担を減らすため、2013年度予算では、厳しく抑制する方針が示されています。扶養できる親族がいないかどうかの確認など、チェックを厳しくする方向です。

 では、不正受給の実態はどうなのでしょうか。「2010年度の生活保護費3.3兆円に対し、不正受給は2万5355件、計約128億7千万円で過去最多」ですが、「全世帯での不正発生率は1.8%、保護費の総額に占める不正受給額は0.4%。不正1件あたりの金額は50万8千円で過去10年で最低」でもあります(朝日新聞7月6日「生活保護論争に戸惑い」)。支援団体からは「全体を見れば不正が蔓延(まんえん)しているわけではないのに、極端な例に偏った報道が目立つ。不正だけ強調すれば、差別を助長し、受給者の自立を阻むことになりかねない」という批判が出ています。

 所得や資産が生活保護を受けられる水準以下にある人で、実際に受けているのは2、3割とも言われます。「研究者の推計では高くても20%」(日経新聞7月24日「生活保護制度を考える・上」)、「最低生活状態にある者の受給率は32.1%(10年4月、厚生労働省調べ)」(日経新聞7月25日「生活保護制度を考える・下」)とのことです。

■誰もが無理なく生きられる社会を

 不正受給に対しては、モラルの低下が問題にされがちですが、仕事も身寄りもなく困窮しても「健康だから申請してもだめだろう。死ぬしかない」と思い詰めた40代の男性(東京新聞8月1日「生活保護の申請に同行 死も覚悟『助かった』 専門家がよりそう電話」)、生活保護は高齢者しか受けることができないと勘違いしていた50歳代の男性(東京新聞10月12日「生き直す道閉ざさないで」)といった例もあります。「まじめな中高年男性ほど自分を責め、プライドが邪魔して助けを求められない」「所持金がゼロになるまで我慢し、相談に来た時はすでに生きる気力を失っている人も多い」のですが、そうなる前に申請した方が、再出発しやすいと言われます(毎日新聞8月28日「最低生活費知り相談を」)。

 チェックを厳しくしようとすれば、申請受け付けや審査の担当者を増やすか、1人当たりの負担をさらに重くすることになります。現在でも、福祉事務所のケースワーカーは、「1人あたり平均96世帯も担当する(09年度)」(朝日新聞6月3日社説)といいます。扶養義務のある家族の照会について、ケースワーカーの経験者からは、「事務作業にかかる人件費と比べ、実りがない」(毎日新聞7月10日「一律に押し付けおかしい 生きられる社会へ:生活保護の今」)という意見も出ています。実際に経済的支援を申し出る人は、担当していた100世帯のうち1人か2人、金額も月5千~1万円というのが実情だったそうです。

 生活保護受給者が増えているのは社会の高齢化が大きな理由ですが、もうひとつの問題として、「働ける年代なのに働いていない」層の受給者が増えていることが指摘されています。「210万人のうち、高齢や病気ではなく働ける人が少なくとも40万人に上る」(日経新聞9月5日「増える生活保護受給者『40万人働ける』厚労省推計」)。「高齢者」「障害者」「傷病者」「母子」世帯ではない「その他世帯」の増加です。審査の現場からは「10年前なら『寄り添う生活保護』で十分機能したが、『その他世帯』がこれだけ増えたら、もう雇用政策で対処するしかない」という声が上がっています(日経新聞9月4日夕刊「調査に限界 相次ぐ苦情『さらに増えたら・・・』」)。

 各紙社説も「本気で自立の支援を」(朝日新聞8月26日)、「自立ができる支援こそ」(東京新聞9月24日)、「自立促す就労支援に本腰を」(読売新聞10月4日)、「自立促す生活保護改革を」(日経新聞10月14日)と声をそろえます。「横浜市では昨年度、約2億円かけて就労支援の専門員を48人置いた。その結果、2千人近くが職に就き、保護費を8億5千万円減らした」という例もあります(朝日新聞8月26日社説)。

 しかし、若い世代といっても、個別の事情を見れば、病気や障害のある人も含め、社会経験の不足から、一般企業で働くことが難しい人も少なくありません。そこで、本格的な就労との間をつなぐ職場体験のような「中間的就労」というものも考えられています。ただ、そこから本格的な就労に結びつけるのは簡単ではないなど、課題も多いようです(毎日新聞8月9日「若者『自立』の訓練場に」)。

 生活保護を受けていた人が税金を納める側に回れば、プラスマイナスでは大きな違いが出ます。不正受給のチェックによる生活保護費の抑制だけでなく、誰もが無理なく生きられる社会をつくることが、結局は全体としてのコスト削減や社会の安定につながると思います。

(松沢明広)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

朝日新聞の記事には有料記事にリンクしているものがあります。

朝日新聞デジタルの読者でない方がクリックすると「会員登録のページ」に飛びますが、

現在無料会員登録キャンペーン中なので、無料会員に登録すれば有料記事を1日3本まで見ることが出来ます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~