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人権・校閲

こちら人権情報局

ホームレスの人たちに「支援」は届いているか

門田 耕作

■襲撃事件すら「忘れられてしまう」

本田次男さん拡大「きょうと夜まわりの会」の本田次男さん
 10月13日と14日の未明、大阪市北区のJR大阪駅と阪急梅田駅周辺でホームレスの男性5人が相次いで襲われ、富松国春さん(67)が亡くなりました。ホームレスの人たちを支援する「きょうと夜まわりの会」の本田次男さんは「寝てるだけで殺される非常にショックな事件。事件が起きたときだけその人たちの存在がわかるが、梅田の事件も、もう記事にもなっていない。たぶん、忘れられてしまうのだろう」とメディアの関心の低さにも憤りを隠しません。2002年に成立した「ホームレス自立支援法」は今年6月、5年間の延長が決まりましたが、安心して眠る場所がないホームレスの人たちに支援は行き届かないのでしょうか。野宿者の生活保護に関する相談活動を続ける「釜ケ崎医療連絡会議」が主催して11月16日夜、富松さんの追悼集会が大阪市内で開かれます。

 

 自立支援法は「ホームレスの人権に配慮し、かつ、地域社会の理解と協力を得つつ、必要な施策を講ずることにより、ホームレスに関する問題の解決に資すること」を目的としています。成立当時、厚生労働省の調査によると全国のホームレスの人たちの数は2万4千人(01年9月末)で、2年前の前回調査に比べて約4千人増えていました。

 

 「急増するホームレスは大都市から地方都市へと広がっている」という認識のもとに、「野宿生活になって3年以内の人が7割を占めている。いまのうちに後押しがあれば、再び社会で活動し、納税者に戻ることができるのではないか」(02年1月26日付朝日新聞社説)、「法案の意義は、怠け者と偏見を持たれがちなホームレスについて『自立の意志がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者』と考え、就業機会の確保や住宅入居の支援などを、国や地方自治体の責務として行う、と明記したこと」(02年7月19日付神戸新聞社説)と、新聞各紙も成立を訴えていました。

 

■本当に減少? 定義で限定

 そして近年、確かにホームレスの人たちの数は減っています。今年1月の調査では全国で9576人で、調査を始めた03年以来初めて1万人を切ったと報じられました。厚労省は、ホームレス対策の予算も増え、生活保護などの支援が適切に受けられていることが背景の一つにあるとみています。しかしこの数字にはからくりがありそうです。調査は、自立支援法が「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」と定義した「ホームレス」について市区町村が調査したもので、最近増えているネットカフェやマンガ喫茶、知人の家などで寝泊まりする人は含まれていないからです。

 

本田さんとパネル拡大富松国春さんが犠牲になった大阪・梅田のホームレス襲撃事件を報じる新聞(10月15日付毎日新聞夕刊)を映し出して「ショックな事件」と語る本田次男さん=10月19日、京都市中京区
 「きょうと夜まわりの会」の本田さんは、「ホームレスの人びとの人権」と題した講演の中で訴えました(10月19日、部落解放・人権政策確立要求京都府実行委員会主催)。「『故なく』とは何か。震災は故があるが、失業で家をなくしたり、家を追われた人たちは『故がない』というのか。マンガ喫茶やネットカフェにいる人たちがホームレスにすらカウントされないなら、彼らは何なんだ」と。支援法には、ホームレスの人たちが住み着くことで公共施設の適正な利用が妨げられるなら、「必要な措置」をとることができるという条項があります。「公共の場所で寝起きしないで、どこで寝るのか。私有地ならすぐ警察に通報される。適切な代わりの居住場所の提示もなく、宇宙へでも行けというのか。死ねと言うことと同じだ」と排除や選別につながる懸念を言います。

 

 先日、法律名にもある「自立」ということについて考えさせられる記事に目が留まりました。反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠さんが、世界47カ国の人を対象に「政府は、自力で生活できない人に対応する責任があるか」を聞いた海外の調査結果を紹介しています(10月26日付毎日新聞)。それによると、日本は38%の人が「全く思わない」「ほとんど思わない」と答え、「自己責任の国」アメリカの28%を10ポイントも上回ってトップだったというのです。

 

 湯浅さんは記事の中で「この国で『自力で生活できなくなる』ということは、人々のこうした考え方にさらされながら暮らすことを余儀なくされる、ということ」で、支援を「政策化・制度化するのがいかに難しいかは、容易に想像できる」と指摘しています。

 

■「うろつくだけで逮捕される」

 こうしたホームレスの人たちへの冷たい視線を如実に示す出来事もたびたび明らかになっています。

 

 大津市で8月、生活保護の申請に訪れた男性に対し、生活福祉課の職員が「最低でも(大津市で)10日間は野宿しないと申請は認められない」と説明していたことがわかりました(8月29日付朝日新聞)。高松市では、やはり生活保護の申請に来た路上生活者に対し、「高松市に住民票がない」ことを理由にいったん受け付けなかったといいます(10月7日付東京新聞など)。住民票があることが生活保護を受給する要件ではありません。

 

大スポ拡大奈良県内の自動車専用道路を、ホームレス男性が「うろついただけで逮捕」されたことを報じた「大阪スポーツ」
 奈良県では9月、京奈和自動車道を自転車を押して歩いていた男性が、働く能力がありながら住居を持たず、あちらこちらをうろつくことを禁じた「浮浪」容疑で逮捕されるということがありました。逮捕事案を掲載した奈良県警のホームページを見た人たちから、「うろついてるだけで逮捕されるのか」「ホームレスは全部アウトでは」といった書き込みが相次いだといいます(10月26日付朝日新聞奈良版)。大阪スポーツ(9月27日付)によると、警察は「逮捕時にはたった2円しか所持していなかった男を嫌疑不十分で住宅街に放すわけにはいかない」と説明したといいますが、それが本当なら、「ホームレスの人たちを人間として見ているのか」と本田さんが憤るのも仕方ないでしょう。

 

梅田現場拡大富松国春さんが血を流して倒れていた現場近くのJR高架下。柱のすぐ反対側には、今も付近で寝泊まりする別のホームレス男性の荷物が置いてあった=11月11日、大阪市北区
 そんな「この国」で、今年になってからも相次ぐホームレスの人たちへの襲撃事件は、2月に広島県福山市と東京都中央区で、3月神奈川県厚木市、神戸市で3月と5月に、松山市では1月から3月にかけて、9月にも大阪市で、廃車や河川敷、路上で生活する人へ投石するなどの嫌がらせ、暴行や放火事件と後を絶ちません。そしてついに、大阪・梅田ではまた、犠牲者が出てしまいました。

 

 湯浅さんの指摘する「38%」は、「見苦しい、怠け者、役に立たない人間といった社会の視線」(10月23日付読売新聞「今日のノート」)に通じるのかも知れません。同じコラムでルポライターの北村年子さんは「野宿せざるをえない背景を学校で教えることが大事。人が殺されても、そういう教育に取り組もうとしない無関心・差別意識がまた襲撃を生む」と警告しています。

 

 大阪市のある小学校の授業に招かれた野宿者が子どもたちを前に、「事業に失敗して公園で暮らす男性は、夜働いているので、つい昼間に酒を飲む。花火や石を投げられてつらい」と話すと、「おっちゃんと話せて面白かった」と感想を聞いて励まされたといいます。「こんな地道な試みを、もっと広げられないものか」(2007年1月9日付朝日新聞社説)。

 

 湯浅さんは先の記事を、「38%に働きかけ、理解を広げていく知恵と工夫が、私たちに求められている」と結んでいます。

(門田耕作)

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