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人権・校閲

こちら人権情報局

「死刑」の重さ、かみしめて

石橋 昌也

■政権交代後、初めての執行

 2月21日朝、谷垣禎一法相は3人の死刑を執行したと発表しました( 2月21日夕刊「3人の死刑執行 奈良女児殺害・土浦連続殺傷など 政権交代後、初めて」)。今回の死刑執行は、民主党の滝実法相が昨年9月に執行して以来5カ月ぶりで、自民党の政権交代後では初めての死刑執行でした。今回は、死刑について少し整理してみたいと思います。  

 死刑とは、その名の通り「生命を絶つ」刑罰で、国が市民に対して行う刑罰で最も重いものです。死刑制度は法律によって定められた刑罰のひとつで、刑事訴訟法上、死刑確定後6カ月以内に法相は執行を命令しなければならないとされています。今回の執行でも、谷垣法相は刑訴法に触れ「その精神も無視するわけにはいかない」と述べました。

 今回、3人の死刑が執行されましたが、確定死刑囚は130人以上にのぼります。昨年1年で9人の死刑が確定したのに対し、執行されたのは7人と、年々、確定死刑囚が増える傾向にあるともいえます。  

 法律上、死刑が定められているのに対し、どうしてペースが遅いのでしょうか。死刑囚の中には裁判のやり直しを求めている人がいたり、共犯者がいる場合には、その裁判が終わるまで執行が見送られたりすることがあるためです。

 また、法相によっては思想信条に従って死刑執行の命令を出さない人がいることもひとつの理由です。就任会見で「心の問題、哲学の問題」として死刑執行命令書にサインしないことを明言(後に発言を撤回しましたが、在職中の死刑はゼロ)した杉浦正健氏(2005.10~06.9)や僧籍を持つ宗教者の立場から命令しなかった左藤恵氏(1990.12~91.11)らがいます。

 その一方で、「法相の署名が絡まないでも自動的に死刑が執行できる方法はないか」と語って議論を巻き起こし、在任中に13人の死刑を執行した鳩山邦夫氏(07.8~08.8)はまだ記憶に新しいでしょう。また、死刑反対派の千葉景子氏(09.9~10.9)は、在職中に2人の死刑を執行しましたが、自ら死刑に立ち会ったり、死刑場を初めて報道機関に公開したりするなどし、「国民的な議論の契機にしたい」としました。

■世界的には廃止が大勢

 法相によっても、死刑については上記のように「ブレ」があります。では、世間での死刑についての態度はどういったものでしょうか。

 2009年に内閣府が実施した世論調査では、国民の8割以上が死刑制度を容認しているという結果が出ました。死刑賛成派は、この数字をもって死刑制度は国民に支持されていると主張しています。

 賛成派は、他に被害者・遺族の処罰感情や犯罪抑止効果を理由に挙げています。悲惨な事件があるたびに、被害者遺族たちの悲痛な訴えには心を揺さぶられることがあります。また、裁判員裁判の導入により、死刑判決に国民が直接関わるようになったことから、その判断を尊重すべきだという声もあります。

 一方、反対派の主張では、死刑が執行されることで、真実の究明が不可能になったり、反省の機会が永久に失われてしまったりすることを理由に挙げます。また、反対派が一番懸念するのは、冤罪(えんざい)の可能性です。今回執行された3人は、執行時に再審請求をしていなかったといいますが、過去、死刑が確定した後で再審の結果、無罪となった例は4件もあり、死刑を執行してしまうと取り返しがつかないことになります。

 また、超党派の国会議員でつくる死刑廃止議員連盟は、上述した世論調査の(1)どんな場合でも死刑は廃止すべきである(2)場合によっては死刑もやむを得ない(3)わからない、という選択肢で、(2)の回答が85・6%を占め、「国民の大半が支持している」とする政府を、「世論をミスリードしている」と批判しています。「『どんな場合でも』と『やむを得ない』という表現はあまりにも誘導的。明らかに容認派が多くなる」というのが議連の主張です。英国のNGO団体が実施した調査では、死刑の積極支持が44%で、政府の「85%」は消極的な支持が含まれており、設問が客観的ではない、と指摘しています(3月13日朝刊「死刑積極支持『44%』 英のNGO 日本人にアンケート」)。

 賛成派は「被害者遺族の処罰感情」として死刑が望まれているとしますが、被害者遺族がすべて死刑を容認しているわけではないことには目を向ける必要があると思います。

 母親とその養父を殺害した父親の死刑が確定した男性は、当初、父親を憎んでいましたが、拘置所で「ごめんな」と謝る父の姿に触れることで、母親を奪ったことは許せないが「一緒に生き、考え続けて欲しい」と思うようになったとし、二審では死刑回避を訴えました。男性は「共感はできないと思う。でもこういう意見があることは知って欲しい」と大学の講義で学生に向けて語りかけています(2012年6月8日朝刊「死刑囚の父へ『生きて償いを』 24歳、息子の答え」)。また、弟を保険金目的で殺害された男性は、「許したわけではない。でも、心身をかけて反省し、生きて償ってほしかった」と述べています。

 目を世界に向けると、死刑廃止が大勢です。昨年末の国連総会では、死刑廃止を視野に執行の停止を求める決議案が賛成多数で採択されました。過去最多の111カ国が賛成、反対は日本や米国、中国、イラン、北朝鮮、シリアなどの41カ国で、棄権は34カ国でした。国際人権団体は「国際的な圧力で執行に歯止めをかけ、死刑制度の議論につなげたい」としています。また、死刑廃止を訴えるNPO法人は「日本が抱える最大の人権問題は死刑だと世界はみている。議論もなく執行を続ける日本は国際社会で特殊な存在だ」と指摘しています(2012年12月21日朝刊「死刑執行停止、国連が決議採択 過去最多111カ国賛成」)。

■国民的議論がもっと必要

 このように、死刑制度については、国内外で意見が分かれていると言えるでしょう。しかし、国の「死刑の在り方についての勉強会」は昨春、議論を打ち切り、谷垣法相もこのような勉強会を設置しない意向を示しています。死刑制度の是非はともかく、さまざまな意見があることを踏まえ、もっと国民的な議論が必要だと思うのですが、議論が停滞しているのが現状です。

 2010年春、地方裁判所での一審判決ですが、刑事裁判を取材していた際に、死刑判決を目の当たりにしました。犯行の態様や被害者の処罰感情から、死刑判決が出るだろうとは予想してはいましたが、実際に、「主文。被告を死刑に処する」という裁判長の判決を耳にした際の思いはなんとも形容ができません。

 人を殺害することは決して許されることではありませんが、国家や法律の名の下に生命を奪うことの「重さ」というか「恐ろしさ」を感じました。また、裁判を通して、なぜ被告が殺害に至ったのか、その理由が納得できないという声が傍聴者や関係者たちから上がりました。現在、その被告は上告中ですが、事件を起こすに至った真相は明らかにされるのでしょうか。今回の死刑判決の報道をみて、3年前に接した「死刑」を思い出しました。

(石橋昌也)

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