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人権・校閲

こちら人権情報局

揺さぶられた「常識」

石橋 昌也

■性別適合手術を受けた監督

 大作映画「クラウド・アトラス」が3月、全国で公開されました。この映画では、時代や場所が異なる六つの物語が同時に進行します。近未来SFだったり社会派ドラマだったりとジャンルもさまざまな物語をモザイク状に構成しています。監督へのインタビュー(朝日新聞3月15日付)、作家ら4人がそれぞれに読み解くクロスレビュー(同3月20日付)で紹介されています。

 さて、この映画、監督に3人の名前が連なっています。トム・ティクバ氏と、ウォシャウスキー姉弟です。映画ファンならおなじみですが、ウォシャウスキー姉弟はSF映画「マトリックス」シリーズの監督です。

 「ウォシャウスキー姉弟」に、どこかひっかかった方はいるでしょうか。実は、「マトリックス」シリーズ時は、ウォシャウスキー「兄弟」でした。「兄」のローレンスが、性別適合手術を受け、「姉」のラナになったのです。

 人権団体から賞を受けた際の本人のスピーチで、幼い頃から自分のジェンダーに悩み、駅ホームから電車に飛び込んで自殺しようとまでしたと告白しました。それでも家族の理解を得て、今後はLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)のために世界をよりよいものにかえるために身を捧げると決意しています。

■きっかけは身近な人の告白

 もうひとつ、ジェンダーにまつわる話題。米国の有力政治家をめぐる話です。

 米国の共和党と言えば、支持層にキリスト教右派を抱える保守的な中道右派です。二大政党のもう一方である民主党とその主張を比べると、中絶反対や同性婚に強固に反対します。

 その共和党のオハイオ州選出の上院議員ロブ・ポートマン氏が、先ごろ、同性婚を容認すると発表しました。共和党の有力議員であるポートマン氏の「心変わり」には何があったのでしょうか。

 地元紙に語ったところによると、2年前、ポートマン氏が息子から同性愛者であることを打ち明けられたといいます。それまで伝統的なキリスト教信仰に基づいて行動していたポートマン氏にとって、結婚とは男女間の神聖な結びつきであるとの考えでしたが、息子の告白により別のものの見方をするようになったそうです。

 ポートマン氏のインタビューで印象的なところを挙げます。 “We(注;氏と妻) were surprised to learn he is gay but knew still the same person he’d always been.” 訳すと、「息子が同性愛者と知った時は驚いたが、これまでとなんらかわることのない人間だということを知った」になりましょうか。続けて言います。”The only difference was that now we had a more complete picture of the son we love.” 「唯一の違いは、いまや私たちの愛する息子のより完全な姿がわかったことだ」

 自分たちの身近な人が同性愛者と知った時、悩みながらも否定するのではなく容認するようになっていった様子がわかります。そして同性愛の息子に「他のきょうだいと同じように幸せや充足を追求する機会を同じように持つべきだ」との結論に至ったとします。

■認識の幅、広げるチャンス

 ポートマン氏の例に限らず、身近な人が差別的な環境にいることを知って初めて、その問題を正面から考えたり、そのことについて観念的に反対/嫌悪してきたのを改めたりすることがあります。自分の常識が揺さぶられ、再考を余儀なくされるのです。

個人的な経験では、友人が、ある時、同性愛者であることをカミングアウトしました。そうなんだろうなとは思ってはいても、本人に直接聞くこともできず、中途半端な状況だったので、カミングアウトしてくれた時はこちらもすっきりしたものでした。また、同時に、LGBTに対する関心や問題意識が以前より強くなりました。彼の存在は、僕にとって認識の幅を広げる契機になったといえます。

 とはいえ、皆が皆、ジェンダーに限らずさまざまな境遇にいる人が身近にいるとは限りません。しかし常識を揺さぶるのは「現実」に限ることはありません。映画や文学でもいいきっかけになります。いつかそういった作品を紹介できればと思います。

(石橋昌也)

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