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人権・校閲

こちら人権情報局

「一票の格差」――選挙における平等とは

小汀 一郎

■衆院選めぐる高裁判決

 5月3日は憲法記念日でした。

 

 毎年この時期は、憲法をめぐる報道が他の時期に比べて多くなります。今年は96条改正についての首相発言があったこともあり、憲法関連の記事で特に紙面がにぎわっていた印象でした。ただ、96条の話の前に、平等権にかかわる裁判の判決が出たことは、忘れられつつあるのかもしれません。

 

判決の写真拡大違憲・無効判決を受け会見する弁護士ら=3月26日午後0時29分、岡山市北区
 衆院選の、いわゆる「一票の格差」の高裁判決が3月に16件言い渡されました(3月28日付朝刊)。憲法改正を発議するのは国会議員ですが、その国会議員の選び方についての話です。「一票の格差」は、かつては「議員定数不均衡」と表現されることが多かった問題です。

 

 国会議員の選挙で、各選挙区の議員定数の配分に不均衡があることで、有権者の数と議員定数との比率について、投票価値(一票の重み)に不平等が発生することになり、それが、憲法14条が定める法の下の平等に反するのではないか、ということを指します(14条1項は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めています)。

 

■思い切った「警告」か

 選挙における平等とは、具体的にはどういう内容なのでしょうか。

 

 まず、ある人の投票権は1票で、別のある人の投票権は3票といったことは複数選挙と呼ばれ、平等とはいえません。一人一票というのは、投票の数的平等のための要素です。しかし、これだけでは平等といえるとは限りません。A選挙区(定数1)の有権者が1万人、B選挙区(定数1)の有権者が10万人という場合、(両選挙区の当選者が議会で投じることのできる票がどちらも一票であるなどの条件下なら、)B選挙区の有権者の一票は、A選挙区の有権者の一票の10分の1の重みしかないことになります。これでは、有権者の投票価値は平等とはいえないわけで、結果として、複数選挙と同じことになってしまいます。投票価値の平等については、1976年に、最高裁も、憲法上の要請と認めています。

 

 76年当時の最高裁判決は、中選挙区制を採用していた衆院選についてのものでしたが、小選挙区比例代表並立制の下で行われた4年前の衆院選でも、一票の格差は、最大で2.3倍。こちらについて、最高裁は2年前、違憲状態とし、地方に手厚く議席を配分する方式の廃止を求めましたが、昨年12月の衆院選も、4年前と同じ区割りで行われました。今回の多くの高裁判決は、これを違憲と判断したのです。

 

判決の図拡大
 多くの、と書きました。16件の判決中、「違憲状態」としたものは2件、「違憲」としたものが14件で、この14件中2件は、選挙が無効であるとしました。「合憲」としたものは一件もなかったわけです。

 

 一票の格差を生み出している、議員定数の配分規定が合憲ではないと裁判所が判断しても、判決が即違憲となるわけではありません。議員定数の配分を定める法律を変えるのには多少の時間がかかるので、その時間を過ぎても配分規定が変わらないと判断した場合は「違憲」、まだその時間が過ぎていないと判断した場合は「違憲状態」との判決が出ることになります。違憲状態との判決について、弁護士の伊藤真さんはウェブマガジンで、「『有罪だけど、諸事情を考慮して一定期間は刑罰を科すのを猶予します』という執行猶予付き判決のようなもの」と表現しています。

 

 「国会が決めた選挙のあり方について、違憲とか無効とか、司法が判定する権利が、三権分立上許されるものか疑問だ」と主張する人もいるようです(3月27日付「天声人語」)。確かに、たとえば47条によって、選挙区や投票の方法などについては、法律で定めるとされており、41条が、国会を国の唯一の立法機関であるとしていることからすれば、選挙のあり方を決めるのは国会の専権事項といえるでしょう。しかし、国会が是とすればどんな内容の法律や制度でも許されるという話ではなく、法の下の平等をはじめとする人権が保障されているかについて疑問の余地がある場合は、裁判所が「しゃしゃり出」ざるをえないのではないでしょうか。だとすれば、「違憲状態」という判断さえ、国会に対する、かなり思い切った警告とみなすべきではないでしょうか。

 

■「参政権」からも問題

 さらには、一票の格差については、法の下の平等を定めた14条に照らして問題であるという見解のほかに、そもそも、15条で保障された参政権の観点からも問題ではないかという指摘もあるようです。ある選挙区の有権者の1票が、他の選挙区の有権者の0.4票相当分しかないとしたら。そんな選挙で議員になった人々による多数決が、3分の2以上であろうとただの過半数であろうと、いくら論じても、前提に問題があるわけだから、どうでもいい、などといった気持ちになりかねません。

 

 「清き一票」であるべきものが「軽い0.4票」などとなってはいけない。高裁判決はそう訴えているようです。

 

 最高裁の竹崎博允長官は記者会見で、一連の訴訟の上告審判決について、「最大限、迅速に結論が出せるよう努力する」と述べました(5月3日付朝刊)。個別の訴訟の進め方について、長官が言及するのは異例のことといいます。最高裁としても、この問題をかなり強く意識しているということなのでしょう。

(小汀一郎)

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