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人権・校閲

こちら人権情報局

「自死」という言葉  

■「自殺」でなく「自死」、行政も配慮

 島根県は今年3月、県の「自殺対策総合計画」で使われている「自殺」という言葉を、すべて「自死」に置き換えると発表しました。言葉の持つイメージがつらいと訴える遺族に配慮したものです。

 「全国自死遺族連絡会」はマスコミにも「要望書」を送っています(「自殺」呼称を、「自死」に)。同会は、「自殺」という言葉が「命を粗末にした」「勝手に死んだ」といった誤解や偏見を与えているとして、追い込まれて自ら命を絶つしかなかったという意味の「自死」にかえる取り組みをしています。自死を事故死や病死と同じように語れるようにすることで、個人的な問題ではなく、社会問題として広く受け入れられるようになることも望んでいます。

 身内の死を悪いことであるかのように責められるのはたまらない、というのが遺族の思いでしょう。同会の田中幸子さんは、「殺という字は殺人を連想し、言葉に罪のイメージがある」(東京新聞2011年9月16日夕刊「遺族の声を聴き施策に生かして」)と述べています。

 現在、朝日新聞の紙面で一般的に使われるのは「自殺」です。しかし、遺族の心情や取り組みを伝えるような記事では「自死」も使われています。最近では、「記者有論 弱音を吐ける社会こそ」(2013年5月29日)が、ウクレレ漫談の牧伸二さんの死を「自死」と表現しています。これは、記者の思いが強く出た文章であるためと思われます。

■遺族の心情、伝える表現として

 「自殺」が「くだけた会話から硬い文章まで幅広く使われる日常の漢語」(「語感の辞典」岩波書店)なのに対して、「自死」は、「『自殺』の意の婉曲(えんきょく)表現」(新明解国語辞典)、「意思的な死を非道徳的・反社会的行為と責めないでいう語」(大辞泉)などとされます。ただ、このように「自殺」と異なるニュアンスで一般的に使われるようになってきたのは、比較的最近のことと思われます。 たとえば、広辞苑の「自死」の項は「自殺」とひとことあるだけの、たいへん簡潔な記述です。また、手元にある類語辞典や漢和辞典には、「自害、自裁、自決、自刃、自尽」など現代ではあまり使われない言葉は載っているのですが「自死」は見あたりませんでした。 日本国語大辞典(小学館)には「自死」の用例として、1529年ごろの本が引用されており、言葉自体は古くから使われていたことがわかります。朝日新聞の古い記事を検索すると、1885(明治18)年、1887(明治20)年に初期の用例が見つかりました。1895(明治28)年の記事では、病気を苦にして死を選んだ老人の遺書の引用中に「自死」とあり、市井の人も使ったことがわかります。このころも、記事で多く使われているのは「自殺」ですが、「自死」を使った例に特別な意味が込められているようには読めません。
 
 作家の高史明さんは、1975年に自らの命を絶った息子、岡真史さんの死を「自死」と表現しています(詩集「ぼくは12歳」岡真史・1976年)。いじめや差別などはっきりした原因があったわけではなく、意味合いは少し異なるのかもしれませんが、高さんについての朝日新聞の記事も「自死」を使っているものがあります(1976年12月21日「死んで知る大きな存在」、1984年12月4日夕刊「自死の子と歎異抄」)。「自殺(自死)」や、カギ括弧つきの「自死」としている記事もあることから、まだ一般的な言葉ではなかったことがうかがわれます。

 1999年9月3日「ひと 中高年自殺を追ったルポライター鎌田慧さん」は、自死という表現について「本来、他人の介入をはねつける、確固とした意志のようなものがあったはず」として、「私たちは今、『他死』という造語を用意しなければならない時代を生きているのかもしれません」という鎌田さんの言葉を紹介しています。98年に1年間の自殺者が3万人を超え、過労などによる「追い詰められての自死」が社会問題となったころです。この結果、2000年ごろから「自死遺児」や「自死遺族」についての記事が出るようになり、遺族の思いを伝える表現として「自死」が使われるようになっていきました。

■「肯定する感じも」実態どう伝える

 一方、あえて「自殺」を使うべきだという意見もあります。「自死」には、「美化し肯定するようなニュアンスを感じる」(毎日新聞2013年5月24日投書欄)という投書者は、自身が「精神を病んで自殺願望を持っていた時期」がある方です。自殺を思いとどまらせたのは「自殺とは文字通り、自分殺しの罪である」という意識だったといいます。「罪」という意識は、遺族にとっては耐え難いものですが、死を考える当事者にとっては何らかの歯止めになることもあるのでしょうか。
 
 2012年の日本の自殺者数は2万7766人。15年ぶりに3万人を下回ったとはいえ高水準で、原因も様々です。自殺対策に取り組むNPO法人ライフリンクの清水康之代表は「一律に自死と言い換えても、自殺の実態が伝わるわけではない」「実態の理解を広め、社会の実情との兼ね合いの中で呼び替えていく必要がある」と述べています(朝日新聞2013年3月30日「『自殺』→『自死』に 島根県、遺族に配慮し表現変更」)。 言葉の問題とともに、どうすれば「追い詰められて死を選ぶ」ことがなくせるのか、考えていきたいと思います。

(松沢明広)

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