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人権・校閲

こちら人権情報局

障害者からみた参院選――もっと民意を反映させるために

森本 類

■成年後見制度、利用者の選挙権再び

 与党の圧勝で幕を閉じた参院選。投票率は戦後3番目の低さでしたが、一方で明るいニュースもありました。公職選挙法の改正によって、成年後見制度の利用者(被後見人)が選挙権を回復したことです。

 成年後見制度とは、認知症や知的障害などで判断能力が十分ではない人の財産管理や契約手続きなどを支援する制度で、2000年に導入されました。本人や親族の申請を受けて、家庭裁判所が判断能力に応じて親族や弁護士を後見人や保佐人、補助人として選びます。

 公職選挙法ではこれまで、後見人がついた場合のみ選挙権を認めていませんでした。それが今年5月の改正で選挙権、被選挙権が認められることになったのです。参院選の投開票を控えた7月中旬には、札幌、東京、さいたま、京都の各地裁に起こされた訴訟で和解が成立しました。選挙権を回復した被後見人は、昨年末の統計で13万6千人にのぼるといいます。

 東京新聞は7月15日付の社説で、「遅きに失した感が強い」「改正に動かなかった国会の罪は重い」と厳しい表現を使っています。「財産の管理能力が乏しいからといって、選挙での投票能力まで否定できない。認知症患者や障害者の尊厳を守る制度を、政治参加の道を閉ざす指標として流用してきたのはあまりに乱暴すぎた」との指摘には、説得力があるように感じます。

 

名児耶さん拡大参院選の投票整理券を手にする、さいたま訴訟原告の浅見寛子さん(左)と、東京訴訟原告の名児耶匠さん=7月17日、東京・霞が関の司法記者クラブ
「私が後見人になったばかりに、娘の楽しみが奪われるなんて……。お役所の片棒を担いだようで責任を感じた」と毎日新聞(7月20日付)に語ったのは、東京訴訟の原告、名児耶匠さんの父清吉さんです。匠さんの「成年後見なんかなければいい」とのつぶやきが忘れられないといい、後見人も精神的な負担を強いられていたことがわかります。「雨が降ろうがやりが降ろうが、(家族)3人で行く。6年ぶりに取り戻した一票だから」(7月19日付朝日新聞)との清吉さんのコメントに、うれしさがにじみます。

 いっぽうで、被後見人の意思をいかにくみとるかについては、細心の注意が払われました。京都司法書士会は6月に後見人を務める司法書士の行動指針を制定し、(1)選挙権の行使が可能となったことを知らせるが、「選挙に行こう」という推奨はしない(2)特定の政党や候補者への投票を誘導してはならない、と補足説明を付けました。

 7月16日付毎日新聞では、知的障害者らの代理投票を支援する東京都国立市と知的障害児者施設の取り組みが紹介されています。候補名が書ける人は本人投票▽書けないが話せる人は市職員が代筆▽会話も困難なら誰に投票するか2度尋ね、選挙公報で同じ候補を指させば代筆し、異なる候補なら白票にする、といったルールで意思確認をしているといいます。
 
 さらなる支援の提案としては、(1)選挙公報にはルビを振り、小学2年生が理解できる分かりやすさにする(2)投票所では候補者の氏名の上に顔写真を付ける――などがありました(7月18日付毎日新聞)。

■政見放送に字幕、まずは比例区から

 聴覚障害者にとっても、変化があった参院選でした。政見放送に字幕が付けられるようになったのです。

 総務省は6月10日、政見放送の実施規定を改正し、政党から申し出があった際にNHKが字幕を付けられるようにしました。しかし比例代表に限られ、選挙区はまだ認められていません。地方局に機材や人手が不足していることが原因といいます。手話通訳士も地方に少ないため、選挙区の政見放送には手話を付けることもできません。

 衆院選は逆に、小選挙区では字幕を付けることができますが比例では付けられません(手話は両方OK)。これは、小選挙区では候補者が放送局に映像を渡す「持ち込み方式」なのに対し、比例は「スタジオ録画方式」だからだそうです(6月28日付毎日新聞)。持ち込み方式の場合、字幕を付けるかどうかは候補者次第のため一部にとどまり、法律で制度化されたのは今回の参院選が初めてといいます。
 
 比例のみとはいえ、字幕が付けられるようになったことは大きな意味があります。成人になってからの病気や高齢が原因で耳が聞こえなくなった人たちは、筆談やジェスチャーで意思疎通をし、手話を使わないことが多いためです。手話だけだったこれまでの政見放送では、聴覚障害者の8割以上が十分に内容を理解できなかったといいます(7月16日付朝日新聞)。

 いかに投票しやすい環境を整え、民意を反映させるか。それは言うまでもなく、障害者に限らない問題です。こうしたニュースを見ていると、選挙の仕組みにはまだまだ改善の余地があるのだと気づかされます。

 選挙権を回復した被後見人が、投票率について聞かれたときの答えが印象的でした。「投票しないのに『政治が悪い』という人がいる。それは許せない。投票しないで言うのはおかしい。棄権しないでほしい」(札幌訴訟の原告、神聡さん。7月19日付朝日新聞)、「選挙権があるのになんでみんな選挙にいかないのかなあ」(徳島市内の障害者施設で暮らす男性。7月20日付朝日新聞地域面)。投票する側の意識も変えることはできるのです。 

(森本類)

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