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人権・校閲

こちら人権情報局

ベビーカーは邪魔ものですか?

石橋 昌也

■メトロの駅に「おろすんジャー」登場

 8月19日付夕刊(一部地域)で、大変心温まる記事が掲載されました。「『ベビーカーおろすんジャー』現る 東京メトロ・方南町駅」です。簡単に記事の内容を紹介すると、エレベーターがない東京メトロ丸ノ内線・方南町駅で、全身緑色のコスチュームを着た男性(28)が、駅を利用する子連れママのベビーカーを地上から改札まで下ろすのを手伝っています。仕事の合間の数時間を充てているそうで、「顔を見られるのは少し恥ずかしいから」と、戦隊ヒーローの衣装をまとって活動しているというものです。  

おろすんジャー拡大ベビーカーを下ろす「ベビーカーおろすんジャー」。レッド、ブルー、イエロー、ピンクを募集中という=8月7日、東京メトロ丸ノ内線の方南町駅
 この男性が活動を始めるきっかけとなったのは、母親たちの「方南町駅は階段しかないので、隣駅まで歩いている」という嘆きでした。駅などの公共施設などでエレベーターや段差をなくしたスロープの設置など、社会全体でバリアフリー化が進んでいますが、記事で登場した方南町駅ではまだのようです。

■社会参加促す「バリアフリー法」

 2006年に「バリアフリー法」が施行されました。この法律の正式名称は「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の推進に関する法律」といい、第1条で「高齢者、障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性の向上の促進を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」とされています。

 法律で「移動」が主目的にされているように、「バリアフリー」といえばエレベーターやノンステップバス、車椅子用のスロープなどを頭に思い浮かべますが、バリアフリーの理念とは、交通機関や公共施設などのハード面での障壁を取り除くことで高齢者や障害者、妊婦たちの社会参加を促すというものです。

 「方南町駅は階段しかないので、隣駅まで歩いている」という母親たちの嘆きを紹介しましたが、もし隣町にもエレベーターがなければどうだったでしょうか。乳幼児を抱える母親や車椅子利用者、身体障害者は、外出そのものをあきらめてしまうかもしれません。

 環境が整っていないというだけで、社会参加を断念せざるを得ないという状況は、社会にとっては大きな損失であり、また当事者にとっては憲法で定められた基本的人権の侵害にもつながりかねません。ハード面での障壁除去は、気軽に外出したり就職して社会に参加したりといったことにつながります。

 話をベビーカーに戻します。ベビーカーを使う保護者たちにとって、関門は駅のエレベーターの有無だけではありません。電車そのものも難関です。

 電車やバスでのベビーカーの利用について、国土交通省は「公共交通機関等におけるベビーカーの利用に関する協議会」を設置しました(5月20日付夕刊「ベビーカー乗車ルール統一へ 電車・バスに優先マークも」)。この協議会では、利用時のマナーを示し、ベビーカーを使う保護者と周囲の乗客の相互理解を図るため、統一ルールをとりまとめることを目的としています。

 協議会が設置された背景には、ベビーカー利用者のマナーに対して批判があることです。紙面でも「理解求めるポスターに批判 電車のベビーカーだめ?」(2012年8月26日付)、「ベビーカー、邪魔ですか」(2013年1月12日付)などが掲載されています。また読者投稿による「声」欄でも盛んに議論されています。

 混雑時などのベビーカー利用者に対し、「ぶつけられた」「通路をふさいで邪魔」といった苦情が寄せられます。一方、利用者には「子どもを病院に連れていくのに電車に乗らざるを得ない」などといった理由があります。

■電車内でのマナーに厳しい日本

 詩人・社会学者の水無田気流さんは本紙コラムでベビーカー論争について触れ、「(批判の)根底には、通勤時間帯が集中せざるを得ない硬直した雇用環境や、改善困難な交通事情」などの問題があると指摘しています(2012年10月23日)。確かに、ラッシュで殺気だった通勤客らにとっては、場所をとるベビーカーは邪魔なものとしか目に映らないでしょう。しかし、水無田さんが指摘するように、特に都市部の電車は通勤客が主流で、批判はその視点からでしか語られていないような気がします。

 前出の協議会の資料に、公共交通機関におけるベビーカーの利用に対する意識の国際比較というものがあります。調査結果によると、日本はベビーカーに限らず公共交通機関でのマナーについて非常に神経質になっていることがわかります。「ベビーカーを畳まずに乗車する(混雑時)」については、他の国では20%前後なのに対し、日本では40%超が不快・迷惑に感じています。一方、日本はベビーカー利用者に対しては「何もしない」が断トツだったりと、周囲の乗客による助けが少ないようです。

 確かにベビーカー利用者の中にはマナーの悪いケースもあると思いますが、一方的に邪魔者扱いするのではなく、お互いにマナーと助け合いでやっていって欲しいと思います。電車内で「邪魔者扱いされる」からといって、外出をやめてしまうことこそ、先にも述べましたがバリアフリーの理念に反し、ひいては社会の損失にもなってしまいます。「妊婦や育児ママ、高齢者、障害者はうちにこもっていろ」という社会にだけは戻ってはいけません。

(石橋昌也)