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人権・校閲

こちら人権情報局

バリアフリー都市を目指せ 2020東京パラリンピック

■佐藤選手のスピーチに脚光

 2020年のオリンピックとパラリンピックが東京で開催されることが決まりました。国際オリンピック委員会(IOC)総会の招致演説で、強い印象を残したのは、パラリンピック女子陸上の佐藤真海選手でした。病気で足を失い、津波で故郷を流された体験を踏まえて、スポーツが持つ力を訴えたのです(朝日新聞9月10日

 

佐藤さん拡大帰国を前に、東京五輪決定を伝える地元紙を見せるパラリンピック陸上女子走り幅跳びの佐藤真海選手=9月8日、ブエノスアイレス
 今回の東京開催決定は佐藤選手のスピーチとともに記憶に残ることとなり、五輪の影に隠れがちなパラリンピックへの注目が高まることは間違いありません。

 16年大会招致を目指した09年のIOC総会でも、パラリンピック競泳の河合純一選手がスピーチをしたのですが、今回のように脚光を浴びることはありませんでした。振り返れば、パラリンピックという言葉自体がまだ知られていなかった1964年東京大会から、長い道のりを経て、ようやく五輪に負けない注目を浴びる位置にたどりついたということになるのでしょうか。

 64年東京大会では、パラリンピック自体がまだ2回目でした。大会が近づいても世間の関心は薄く、資金も十分に集まりませんでした。11月8日の開会を間近に控えた9月20日に朝日新聞が「忘れられた?パラリンピック 花やかな五輪のかげに」で関係者の窮状を伝えると、ようやく寄付や協力の申し出が寄せられるようになりました。

 このときの大会は、日本の障害者の意識を変えるきっかけにもなったようです。当時は、障害者が社会に出ることは少なく、自分の将来に悲観的になりがちでした。ところが、欧米の選手たちは、ほとんどが仕事を持っており、競技の合間には異性の選手に気軽に声をかけ、一緒に歌ったり、車いすのまま抱き合ってキスしたりしていました。そこには、日本にはあまり見られなかった「自立する障害者」の姿がありました(東京新聞8月27日「東京パラリンピックの遺産1」)。

■バリアフリー、普及のきっかけに

 さて、五輪・パラリンピックに向けての準備と言えば、新しい競技場や鉄道、道路の整備など、経済効果に直結する視点から語られがちですが、世界中からたくさんの選手・観客を迎えるにあたっては、バリアフリーの視点が欠かせません。

 64年東京パラリンピックに陸上と競泳で参加した菅牧夫さんは、「パラリンピックが大勢の目に触れれば、バリアフリーが一段と普及するきっかけにもなる」と期待しています(朝日新聞9月4日)。

  

ホームドア拡大実証実験が始まった「どこでも柵」。車両のドア位置に合わせ、ホームドアの扉の位置が動く=8月31日、埼玉県所沢市
 東京都の立候補ファイルには「東京の全ての駅にエレベーターやスロープ、障害者用トイレの設置をほぼ完了させる」とあるそうですが、課題はほかにもいろいろあります。たとえば、駅のホームでの転落事故を防ぐ対策も、なかなか進んでいません。ドアの位置が異なる複数の会社の車両が乗り入れる駅が多いことも一因です。対策として、西武線・新所沢駅(埼玉県)で移動式ホームドアの実証実験が始まりました(朝日新聞8月31日夕刊)。他の会社では、ワイヤやバーを上下させるタイプを試験運用するそうです(読売新聞8月31日日経新聞9月1日東京新聞9月2日)。7年後までにどれだけ普及するでしょうか。

 物理的なバリアフリー化だけでなく、障害者や障害者スポーツを見る目が変わることも期待されています。

 「障害者スポーツに対する偏見やタブーは多いと感じている。そうした壁を東京が率先して取り払いたい」(パラリンピック競泳の成田真由美選手=産経新聞9月10日)、 「障害者スポーツの魅力を広め、ロンドン大会のように観客席を満杯にしたい。バリアフリーの実現には施設整備に加え、譲り合いなど人の心の部分も欠かせない」(冬季パラリンピック・チェアスキーの大日方邦子さん=東京新聞9月9日夕刊)といった声があります。車いすテニスの国枝慎吾選手も「パラリンピックをスポーツとして純粋に見てもらえる機運が高まることで、心のバリアフリー化が進むことも期待できる」と話しています(産経新聞8月26日)。

■強化拠点には残る課題

 新しい動きも始まっています。障害者スポーツに熱心な日立ソリューションズは14年4月に「車いす陸上競技部」を新設すると発表しました(読売新聞9月12日)。

 パラリンピックの選手強化は厚生労働省の担当でしたが、五輪と同じ文部科学省に一本化されることになりました(朝日新聞8月23日夕刊同24日)。強化拠点のナショナルトレーニングセンターなどが利用しやすくなりますが、一方でこうした施設のバリアフリー化が十分でないなどの課題も残っています。

 猪瀬直樹・東京都知事は「すべての都民が障害の有無によって分け隔てられずに共生する『心のバリアフリー社会』」を目指すと語っています(東京新聞8月27日)。

 東京が整備される一方で被災地の復興はどうなる、原発は本当に制御できるのか、といった疑問も次々に浮かんできますが、五輪・パラリンピックという「大義名分」がある今こそ、誰もが暮らしやすい街になるよう、バリアフリー化を進める好機ではないでしょうか。

(松沢明広)