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人権・校閲

こちら人権情報局

熱いぞ、ブラインドサッカー

青山 絵美

■スピーディーで、驚くほど自由

 「ブラインドサッカー」をご存じでしょうか。

 視覚に障害のある人がプレーできるように考案されたサッカーで、パラリンピック種目でもある競技です。

 2013年現在、国内では、関東、関西、東北・北信越の3地域で、ブラインドサッカーのリーグ戦が行われています。そのうちの一つ、関東リーグの第8節が12月1日、茨城県の筑波技術大春日キャンパスで開催されました。

ブラインドサッカー拡大シュートを放つAvanzareつくばの選手。この日勝利したAvanzareつくばは、関東リーグの優勝を決めた=1日、筑波技術大春日キャンパス、青山絵美撮影
  鈴の入ったボールが転がるたびに鳴る、カシャ、カシャ、という音。集中しないと周囲の声にかき消されてしまいそうな、かすかな音です。その音を頼りに、選手同士は厳しく競り合い、時にドンという大きい音をたてて、サイドライン代わりのピッチ横の壁にぶつかります。

 あまりの熱さ、激しさに、「けがをするんじゃないか」という心配がよぎりますが、日本ブラインドサッカー協会の松崎英吾事務局長が説明してくれました。

 「危険ではという声もあるが、ブラインドサッカーと、車の行き交う町のどちらが危険かと言えば、後者です。ピッチの中はルールや器具によって守られていますから」

 そう言われて見てみると、ピッチの横の壁には傾斜がついていて、選手が正面から衝突することはありませんし、ボールを奪いにいく選手は、危険な接触を避けるため、「ボイ(スペイン語で『行くぞ』)」と声をかけて相手選手にその存在を知らせています。

 「ルールで守られたこのピッチのなかで、自分で判断し、自由にプレーする、それが選手の喜びなんです」

 松崎さんのこの言葉は、プレー中の選手を見るとよく分かります。

 「8メートル!」「30度、20度、15度……」など、選手の位置に合わせてゴールの場所を伝える「コーラー」の声に反応し、すばやく反転してシュートを放ったり、鮮やかに股抜きをしたり……。

 選手のプレーは、スピーディーで、驚くほど自由でした。

■世界選手権、日本で来年初開催

 ブラインドサッカーは、フィールドプレーヤー4人にゴールキーパー1人の5人1チームで行われます。全盲から光を感じることができる人までの「全盲クラス」(B1)と「弱視クラス」(B2、B3)があり、フットサルのルールを基本としています。

 B2、B3クラスは、フットサルとほぼ同じルールでプレーされますが、B1クラスには独自のルールがいくつか存在します。

 ①視力の差を公平にするためにフィールドプレーヤーはアイマスクをつける(ゴールキーパーは晴眼者)、②ボールがサイドラインを割らないように、また、選手がピッチのサイズを体で分かるように、サイドラインに壁を置く、③ボールを取りにいく際には「ボイ」と声をかけて、自分の位置を相手選手に知らせる、などです。

 さらに、フットサルと異なるのは、チームのメンバーです。B1クラスでは、ピッチの中にいる5人に加え、ゴールの裏にもう一人、「コーラー」と呼ばれる人が配置されます。目の見える人が行うコーラーは、掛け声をかけたり、時にゴールポストをたたいて音を出したりすることで、選手にゴールまでの距離や角度などを知らせます。

 フィールドプレーヤーは、ボールの中に入った特殊な鈴の音と、コーラー、ゴールキーパー、監督の声、また、他の選手の気配などを頼りにプレーをするのです。

 14年には、B1クラスのブラインドサッカー世界選手権が東京・渋谷で開催されます(11/6朝日新聞「ブラインドサッカー世界選手権、東京開催へ 日本で初」)。

 日本でB1クラスの世界選手権が開かれるのは初めて。B2、B3の世界選手権は、今年2月に宮城県で行われました(2/2朝日新聞「進化するブラインドサッカー」2/13朝日新聞「日本は4位 ブラインドサッカー」)。

■会場確保に苦労

 一般人を対象としたインターネット調査では、ブラインドサッカーを「知っている」とする回答が51%だったそうです(11/13朝日新聞「(スポーツTOPICS)パラリンピック、強化手探り 協賛金増・法人化拡大を」)。

 協会や代表、選手などの努力のかいもあり、知名度は低くありませんが、競技環境がまだまだ十全であるとは言えません。

 この競技の先進国スペインには、科学的トレーニングや宿泊もできる、視覚障害者専用のスポーツ施設があるそうです。そのなかにフットサル場もあり、ブラインドサッカーの選手は、そこを拠点に練習を行うことができます。

 日本にも、2020年東京パラリンピックに向けて、障害者スポーツの「ナショナルトレーニングセンター」を、という動きはありますが、そうした拠点はまだなく、協会が尽力して試合会場などを確保しているのが現状です(11/1朝日新聞「もう一つの祭典、受け入れ態勢は?」11/18朝日新聞「障害者スポーツ強化拠点、国立リハビリセンターも候補」)。

 ボールの鈴の音、コーラーやゴールキーパーの声など、音が重要な情報になるブラインドサッカー。ヘリコプターが近くを通ったために、審判が試合を一時中断することもあるそうです。

 環境が大切なだけに、会場選びにも気を使います。来年の世界選手権の試合会場が代々木競技場のフットサルコートに決まるまでにも、苦労がありました。

 会場としての使用が可能であるという回答は早くに得られたものの、問題になったのは、試合会場のすぐ横にある野外ステージ。公園を管理する東京都に、大会中、野外ステージで音の出るイベントを控えてくれるよう協力を求めましたが「約束できない」との回答が続いたそうです。

 しかし、「多くの選手が人生をかけてやってくる大事な大会。隣でコンサートをやっているような場所ではできない」と、協会はねばり強く訴え続けました。

 そこに吹いたのが、東京パラリンピック開催決定の追い風です。世界選手権開催を報じる11月6日の朝日新聞は、「2020年パラリンピック開催が決まったこともあり、配慮することにした」という都公園課の言葉を伝えています。

■「スポ育」による広がり

 大きな大会が行われ、そこで代表が結果をのこせば、注目が集まり、競技の普及も進む――そういったスパイラルを想像しがちですが、ことはそう単純ではないそうです。

 松崎事務局長は「現状、代表が活躍することが、ブラインドサッカーが注目されたり取材が増えたりといったことに必ずしも直結していない」と言います。協会は、「勝つことだけではない何か」が必要だと考え、近年、競技を体験する機会の提供に、力を入れはじめました。

 その柱が「スポ育」。ブラインドサッカー体験を通じてダイバーシティ(多様性)を学ぶ、小中学生を対象としたプログラムです。

 ブラインドサッカーはチームワークが非常に大切な競技です。「人間が得る情報の8割をしめる」といわれる視覚を遮断するため、仲間とのコミュニケーションや支え合いがなければ、うまくいきません。通常のサッカーよりもさらに、声を出すこと、声を聞くこと、どうやったら伝わるかと相手を思いやることが重要になります。

 「ハンディを通じて、ハンディだけではない個性の大切さを理解してほしい」と松崎さん。プレーを通じて、目が見えないということを体験し、仲間の大切さや相手を尊重する気持ちを実感することで、視覚障害を理解するとともに、個性を認めあえるようになることが、スポ育の大きな目的です。実施した学校からは「相手の立場になって考えるという本当の意味が分かりました」といった児童の声がとどいているそうです。

 また、協会は、スポ育を行ううえで「楽しさ」を大事にしています。

 「見えないことを『こわい』『かわいそう』と思ってしまう出会い方もある。そうではなく、笑顔で出会ってほしい。競技を体験して、彼らのすごいところを見て、障害者って特別じゃないんだよ、逆にこういうところが特別なんだよということを理解してほしい」。松崎さんは、スポーツを通して障害に出会う意味を、そう語ってくれました。

 こうした活動の影響は、すでに出始めているそうです。

 「『応援してください、支えてください』だけではなく、ぼくらも世の中の役にどうたてるのかを自信を持って言えるようになってから、スポンサーの流れも変わってきた」と松崎さんは話します。「代表が活躍することで、世の中の多様性に対する見方は変わっていく」という言葉が印象的でした。

 代表の活躍と、競技普及の事業を両輪に、ブラインドサッカーは前に進もうとしています。来年の世界選手権が、さらに楽しみになってきました。

(青山絵美)

(次回は1月24日に更新します)