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人権・校閲

こちら人権情報局

未来は変えられる――再犯率と元受刑者の就労支援

石橋 昌也

 昨秋、法務省が発表した「犯罪白書」に、気になる数字がありました。今回はこの数字の紹介から始めて、人権について考えてみたいと思います。

■再犯率、16年連続で上昇

 45.3%。これは2012年の交通事故の過失犯などを除いた一般刑法犯の「再犯率」です。「再犯」とは、以前に犯罪で検挙された人が再び検挙されることで、「再犯」と対になるのは「初犯」になります。「再犯率」は一般刑法犯の検挙総数における「再犯者」の割合になります。

 この数字が気になったのは、窃盗や傷害といった一般刑法犯の検挙総数が8年連続で減少しているなかで、再犯率が16年連続で上昇しているからです。2012年をその10年前の数字と比較すると、02年の総数34万7558人に対して12年は28万7021人と減少しています。初犯は22万6217人から15万6944人に減っていますが、再犯は12万1341人から13万77人に増加。02年の再犯率は34.9%ですので、10ポイントほど上昇したことになります。ここ最近の傾向を見れば再犯者の実数は減ってきてはいるのですが、初犯者よりも減少幅が小さいのが気になります。

 一度罪を犯した人が、再び罪を犯してしまう。その背景には何があるのでしょうか。朝日新聞に掲載された記事「再犯率、仕事ないと5倍」(2012年11月16日付)によると、法務省が02~11年に刑務所などを出て「保護観察」となった後に再び罪を犯した人の調査をしたところ、有職者の再犯率が7.4%だったのに対し、無職者の36.3%が再び罪を犯したことがわかりました。また、保護観察が終わった時点でも2割ほどの人に職がなく、出所者らが仕事を見つけるのが難しい状況にあることもわかりました。

■無関心と偏見は社会に損失

 出所者らの就職が難しい背景のひとつに、受け入れる側の問題があります。「以前に罪を犯しているのできっとまた罪を犯すはずだ」といった偏見や、「(職が得られないのは)自業自得だ」といった無関心です。しかし、こうした偏見や無関心は、人権軽視でありまた社会の損失にもつながります。

 そもそも刑務所などではどういうことがされているのでしょうか。「刑事施設・受刑者処遇法」によると、被収容者らの人権を尊重しながら適切な処遇をすると定められており、その処遇は「その自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ること」を目指しています。つまり、刑務所などで収容されている間に、罪を償いながら再び社会に出る準備をすることが目的となっています。「人は更生することができる」という理念に基づいています。

 しかし、昔からこういった理念に基づいていたわけではありません。すこし歴史を振り返ってみますと、1885年、山県有朋内務卿は「監獄ノ目的ハ懲戒ニアリ(中略)懲戒駆役堪ヘ難キノ労苦ヲ与ヘ、罪囚ヲシテ囚獄ノ畏ルベキヲ知リ、再ビ罪ヲ犯スノ悪念ヲ断タシムルモノ、是レ監獄本分ノ主義ナリ」(刑務協会編『日本近代行刑史稿』1943)と訓示しました。これは「苦役本分論」と呼ばれるもので、収容者を感化教育するのではなく、重労働や懲罰を与えることが目的とされていました。

 また、上記の考えに基づいて収容者に重労働が科されていた北海道を視察した金子堅太郎(後の司法相、枢密顧問官)は「彼等ハモトヨリ暴戻ノ悪徒ナレバ、ソノ苦役ニタエズ斃死スルモ、尋常ノ工夫ガ妻子ヲノコシテ骨ヲ山野ニウズムルノ惨状トコトナリ、マタ今日ノゴトク重罪犯人多クシテイタズラニ国庫支出ノ監獄費ヲ増加スルノ際ナレバ、囚徒ヲシテコレヲ必要ノ工事ニ服セシメ、モシコレニタエズ斃レ死シテ、ソノ人員ヲ減少スルハ監獄費支出ノ困難ヲ告グル今日ニオイテ、万止ムヲ得ザル政略ナリ」(北海道庁編『新撰北海道史』1936)と報告しました。要約すると、収容者が重労働に耐えられなくて死んでも、通常の労働者と違って悲しむ妻子もいず、むしろ死ねば監獄経費の節約になる、ということです。報告では、通常の労働者よりも労賃が安いので「実ニ一挙両全ノ策」ともしています。

 上記の考え方の他にも、「犯罪人は生まれながらにして犯罪人である」から、犯罪人は矯正不可能だという考えもありました。遠い明治の話とはいえ、当時の考えには驚きを禁じ得ません。もちろんその一方で、劣悪な監獄を改良しようとしたり、出所者を保護しようとしたりする社会事業家たちも熱心に活動した時代でもありました。

■就労支援へ「職親プロジェクト」

 現在は、罪を犯した人は刑務所などで罪を償った後、社会に復帰します。しかし前出の45.3%という高い再犯率の一因に、社会に復帰しようとしても、受け入れてくれる場所がないということがあります。人は働いてお金を得ることで、住み、食べることができます。社会復帰の入り口である就職ができないことで、生活に事欠いて再び犯罪に及んでしまう可能性があります。再犯者が増えることは社会不安にもつながり社会的コストが高くなります。また、「前科がある」というだけで就職ができないのは、憲法の基本的人権を侵害するものといえます。

 こういう状況を改善しようと、行政や民間ではさまざまな取り組みをしています。たとえば元受刑者らを雇用する「協力雇用主制度」があり、現在1万を超える事業者が登録されています。この制度は以前からあったのですが、06年から実際に雇用すると奨励金が支払われるようになり、登録数が増えました。民間からも「職親(しょくしん)プロジェクト」という試みが始まりました。

 職親プロジェクトは、飲食店や建設会社などが出所した人の再犯を防ぐために、日本財団と協定を結んで始めた就労支援策です。元レディース(暴走族)で何度も補導された経験を持つ飲食チェーン社長、実妹を殺害された経験を持つ建設会社長など、参加する企業の経営者の顔ぶれは多彩です。雇っていた元受刑者に裏切られたことがあっても、「地道に頑張っている人も否定するのか」と、元受刑者の雇用の続行を決めた経営者もいます。経営者に共通する思いは、元受刑者の過去だけではなく、未来を見つめていることだと思います(連載「再起を支える 職親プロジェクト始動」では同プロジェクトの取り組みについて詳しく書かれています。朝日新聞デジタル有料会員の方は「職親プロジェクト」で新聞記事検索してみてください)。

 すべての犯罪者が、罪を犯したくて犯したわけではありません。犯罪に走らざるを得なかった理由があり、それは家庭環境だったり、経済環境だったりします。過去の過ちは必ず償わなければなりませんが、現在と未来は変えられます。「元受刑者」という言葉にひるんでしまったり、身構えてしまったりするのは、仕方のないことかもしれません。しかし、その人の過去だけにこだわって、あらゆる未来の可能性を閉ざしてしまうことは避けなければならないことだと思います。

(石橋昌也)